【理解の先にある葛藤】
3日連続ではあったけど、約束の訪問は終わった。
国というモノは綺麗ごとでは成り立たない。
思いある人もその思いのままではいられない側面もある…
それは私にも解る。
解らなければ私も苦悩しない。
私には解っている…どの国の狙いも、現状もだいたい解る。
何人の人が気づいているのだろうか。
私はまた一枚仮面を被る。
そうしなくてはやっていけない。
すべての人は幸せに出来ないのかもしれない…
では、どこの誰の願いを、希望を叶えればよいのか。
5本の鎖にこの身を引き千切られそう。
五国が1つになればよいのか。それでも1つの中に区別が出来るのだろう…
今はまだ行く末を見続けなくてはいけない。
苦しくてもそれしか今は…
『では、会議を始めたいと思います』
ユーロさんが真っ直ぐに手を上げる。
『調整者に質問…現時点で出来ることを教えて欲しい』
まあ、知りたいでしょうね。
現時点…誰にとっての現時点なのかしら。
私?
あなた?
あなた達?
『ユーロさん、質問の意図を明確にしていただけますか』
『「島国」の総量で出来る範囲…』
ユーロさんは理解している可能性が高い。
『私は、意図を明確にしてほしいのですが』
『へい…これを…』
モッキーが一枚の用紙を持ってくる。
そこに書かれた数字に対してリストがモッキーから出力される。
それがモッキーによってユーロさんの手元に届く。
一通り目を通した後、その紙を破ってモッキーの口に押し入れる。
『感謝する』
その後、各国も同様に用紙でのやり取りを行う。
その日は各国検討するとのことで早々に会議は終了となった。
皆さんが個室に入られた頃声をかけられる。
『小鳥ちゃん…は、仮の姿なのね』
『どういう意味ですか。ユーロさん』
『すべてはあなたの手の上…すべての人は道化のようね』
『あなたがあなたでなければ、あなたは苦しまないで済むのでしょうね。でもそれはできない、あなたはあなただから』
逃げた…私は走って逃げた…怖い、ユーロさんが怖い…
もしかしたら他の人達も気づいている…
私にはもうできない…
その日、街からセントの姿が消えた。
セントさんが姿を消してから7日間が経ちましたわね。
どこで、何をしているのかしら…
元気であればよいのですけれど。
バブエ様も国にお帰りになり、私は待機状態…
「荒野」はポント王もクロネさんもセントさんを探しに駆け回っている。
「山脈」のゲンさんは毎日セントさんが戻っていないか円卓の間を見に来ている様子。
動揺も無く平然としているのは「平原」と「島国」のみ…なぜあそこまで平然とできるのか不思議に思いましたもの。
『ナセキさん、何か知りませんの』
『僕のほうが聞きたいぐらいですよ。会議の時は普通だったのに』
言葉とは違ってこの落ち着きは不自然なくらいですわ。
『何か分かったらお知らせしますわ』
『よろしくお願いします』
『ユーロさん、何か知りませんの』
『知らない…私も困っている』
全然、困っているように見えませんけど。いつも以上に棒読みですわ。
『困っているように見えませんことよ』
『猿には人の心が読めるの…言葉を教えてあげてもいい』
人の心…確かにそう簡単に解るものではありませんわね。セントさんの心…
『ふん、乗ってこない猿は面白くない。私は忙しい、じゃ』
『何か分かれば、お知らせしますわ』
『たのむ』
私に出来ることは無いんですの。
セントさんとは良いお友達になれると思いましたのに…
なんとなく中央に足を運ぶ。
『フランさん』
声をかけられ後ろを振り向く。
『クロネさん、随分と服が汚れていますわね。見つかりましたの』
彼女は静かに首を振る。
『そうですのね…何がいけなかったのか…それを私達が言える立場ではありませんね』
『そうね…協力したい気持ちはあっても結局のところ、私達は国の代表としてここにいる…』
クロネさんは私と同じ気持ちなのかしら。無力ですわ、協力しづらい関係性なのに、無責任に協力するような事を言ってしまった。
『私達では駄目なのに…』
『クロネさん、今はセントさんが無事でいることを祈るだけですわ』
『そうね、何か分かったら教えるわ』
『感謝いたします』
私は誰に祈るというの…魔王かしら…セントさんを救えるのはそれぐらいしか思いつきませんわ。
街は日に日に賑やかになる。各国の取引も増えて「森林」も今まで手に入りにくいものを入手できるようになり。潤っていく。
それは他の国も同様であろう。
調整者が居なくても各国は潤う…あんなに平和を求めたセントさんが居なくても勝手に栄えていくこの現状。複雑な心境ですわ。
階段を上がりゲンさんとすれ違う。
『毎日ご苦労ですわね』
『いえ、自分で来たくて来ているので苦労ではありません』
そういう意味ではありませんと言いたいですが、どうでもいいですわ。
『そういうあなたこそよくここで姿を見かけますが』
『そうですわね。では、また』
『また』
階段を上がり、円卓の間をちらりと見て控え室に入る。
『バブエ様、フランです』
『その後はどうだい』
定期連絡の時間も今はあまり楽しくない。バブエ様と話せる貴重な機会なのに…
『各国との取引は中規模、小規模クラスでかなり活発に進んでおりまして。各国潤っている様子。もちろん我が国もかなりの物資を手に入れております。そろそろ、纏めてそちらに送りたいと思いますので輸送の人員をお願いしたいのですが』
『元気ないねフラン。セントはまだ見つかんないのかい』
『ええ、些細な情報もありませんわ…輸送の件お願いいたします』
今できることを…ですわね…
セント失踪が発覚した日、「荒野」ではポントがその知らせを聞き数名の捜索隊が編成された。
『見つけても接触はするな。すぐに俺に知らせろ。他国への侵入の際にはきっちり「荒野」である事、人を探している事を伝えろ。2日に一度の定期連絡を忘れるな。行け』
『はっ』
『クロネからの報告があればすぐに伝えろ。俺も出る』
セントを確保できれば条件によっては「荒野」の勝ちが決まる…
問題は失踪の理由か。
あの年の女の子に世界の舵取りなんてどう見ても重い…こうならないようにと思ってはいたがもっと積極的に介入する必要があったかもしれねー。
利用しようとしている俺が言えたことじゃねーか。
探し始めて9日目、発見の報告は無く。目撃情報すらない。
『随分と遠くまで来たな…』
なんとなくここへたどり着いた…今の世界の始まりの地といってもいいのかもしれない。
あの日俺の本当の王としての日々も始まった。
馬から下りて暫らく歩く…
真っ白なドレスを着て、目元だけが隠れる銀の仮面をつけた女が歩いてくる。
『ポント様、お久しぶりです』
俺の名前を知っている…ということは。
『セントか』
『はい』
堂々としている、あの脆く壊れそうな雰囲気を微塵も感じさせない…本物か…
『そう警戒なさらなくても、本物ですよ』
『そうか、だいぶ雰囲気が変わって見えたから、いい女は一気に変わるって感じか…』
何かを首筋に当てられる…
『下がって、大丈夫だから。ポント様、私に不用意に近づかないでくださいますか…適度な距離はお互いの為ですよ』
『わかった…しっかり頭に書き込んだぜ』
首の何かはいつの間にか無くなり、セントの横には真っ黒なローブを頭からすっぽり被った者が立っている。
『ポント様はこんなところまで何をしに来られたのですか』
『いやぁ、セントが急に居なくなったって聞いて探しまわっていたのさ。みんな心配している』
『そうでしょうか…』
首をかしげながらやわらかく微笑む。
『その辺りにしておいてあげてくださいますか』
黒いのしゃべれるんだな、てっきりモッキー的ななにかかと思ったが…
伺う言葉だが進言できるくらいの関係性、俺を擁護している…のか。
『そうね。ご心配おかけしたようですいません。でも大丈夫です。今から戻りますので』
『そうか、みんな安心するだろうぜ。そっちの黒いのありがとうな』
『昔の借りを返しただけです。次は無い』
俺に借り…
『では、またあの街でお会いしましょう。調整者セントとして』
『ああ』
2人は黒いもやに包まれ暫らくすると始めからそこには何も無かったように俺の目の前から消え去った。
『なにかを越えちまったなお嬢ちゃん…いや、もうお嬢ちゃんじゃねーか』
今でも忙しいのに、もっと忙しくなるな。
俺も一緒に連れてってくれればよかったのにな。
帰るか…




