【リズム】
今日は「山脈」…ゲンさん、そう言えば源様と関係は…無いわね。
『お迎えに上がりました』
『ゲンさん、「島国」にお知り合いとかいませんよね』
『いませんが。どうかされましたか』
『昨日ユーロさんのところで源様という方にお会いしたので』
『どのような方でしたか』
『とても素晴らしい方だと感じました』
『セントさん、「島国」に寄ってみてもよろしいですか』
『えっ』
『駄目ならば諦めますが。セントさんが素晴らしいと感じた方…是非お会いしたいのですが』
『「山脈」に行かなくてもいいのですか』
『その方にお会いした後でも時間はあると思うので。駄目でしょうか』
『お見えになるかは分かりませんが行ってみましょうか』
『ありがとうございます』
何気ない話しからこんなことになった、源様が居るといいのだけれど…ユーロさんは何か言うかしら。
ゲンさんの表情からは何も伺えない。もう少し突っ込んで聞いてみよう。
『なぜ、今会いに行こうと思ったんですか』
『国を出るときゲンム様に言われたのです。優れた人と会い、交流をもつのだ、と。それが私を成長させ「山脈」を発展させることに繋がる、学べ、と』
『確かに、書物では解らないことなどこの世にたくさんありますものね』
『私は国の為に学ばなければ、ウォルン様に少しでも近づくことが民の為になると信じています』
そんな話しをしながらまずはユーロさんの家に向かう。
『ん、鎧狸。おっす』
『どうも、源様はいらっしゃいますか』
『セント、事情は知らないけれど、源爺は町のほうに居るはず…ついてきな』
ユーロさんは急に家を飛び出し手を大きく振って歩いていく。
その後ろをついて行く。
暫らく歩くと前方から大きな声が聞こえる。
『若いもんが気合を入れんか、ええぃわしにやらせんか』
『源様、無理なさらない方が…』
『わしはまだまだ現役じゃぞ。見ておれ』
新しいお店に大きめの看板を取り付けようとされているようだ、あっ…
私のとなりに風が巻き起こる。
落ちてきた看板を両手でガッチリと掴むゲンさん。
『すまぬ。助かった。わしは源、この礼は必ずする』
看板をゆっくり下ろしながら。
『私はゲンといいます。あなたから学びたいと思いこちらに伺いました』
『名が同じ…鍛え上げた肉体、まるでわしの若い頃のようじゃ。息子にしたいくらいであるな』
『父さん』『息子よ』
何だろう私の理解が追いつかない…
『爺ちゃん。父さん』
ユーロさんのっかるの…
『しかし、鎧狸を父とは認めない』
『残念です』
残念なんだ…そんなに残念そうでもないけど。
『源様、突然すいませんでした』
『いや、なに。こうして助けてもらうこともできた。わしの若い頃のような好青年に会うこともできた。セント様のおかげじゃ、ありがとうございます』
『それはともかく、ゲンよ。今日は自国にセント様をお連れする日ではないか。わしに会いたくばいつでも来るが良い。当分はこちらにおる。自身の成すべきを成すのだ』
『源爺、そういう情報はあまり公開するのは良くない』
『わしはこそこそする必要など無い』
『また、伺わせていただきます』
『手土産くらい持って来いよ…狸…』
『ふむ、そうしよう。では、セント様行きましょう』
よかったのか、どうなのか…きっとよかったのだろう。
『素晴らしい方でした。ありがとうございます』
『いえ、よかったですね』
いろいろな話しはするが盛り下がるわけでもなく、盛り上がるわけでもなく、かといって続かないわけでもない。
「山脈」の区画は鉄の香りがした…
整然とされた町並みは整った美しさを感じる。
鉄で作られた扉についているドアノッカーの装飾が素晴らしい。
重く響く音がすると扉は内側より開けられる。
『セント様いらっしゃいませ。お待ちしておりました』
ゲンム様が人のよい微笑みで出迎えてくださる。
『今日はお招きありがとうございます』
『立ち話では落ち着きません、それにわしも年なので座らせていただけると嬉しいですな』
そういいながら奥の部屋に案内される、数名のメイドさんが手際よく席に案内してお茶とお菓子が差し出される。
『ゲンよ、少し遅かったが何かあったか』
『はい、セント様より私と同じ名の素晴らしい方がいると聞きまして。無理を言ってご紹介いただいていたのです』
『セント様、申し訳ない。態々お付き合いいただいたとは』
『いえ、ゲンム様の優れた人との出会いが成長に繋がる、という考えは私も賛同できますので』
嬉しそうな、困ったような表情のゲンム様はゆっくりとゲンさんに向けて話しだした。
『ゲン、確かにわしは学べと言った。それでも時と場所、いろいろな都合と言うものもある。もし、セント様が自分を軽く見られた、ないがしろにされたと考えられたら。今日はわしもセント様にお会いするのを楽しみにしていたのだぞ。途中に何かあったのではと心配もした。今日は予定通りにセント様をご案内するのが正しかったのではないか』
『確かに、それは源様にも言われました。「自身の成すべきを成すのだ」と』
場が静かになる。
『ゲンム様、差し出がましいですが。私は気にしていませんし、相手の方もゲンさんを気に入っていたように見えましたので』
『そうですか…確かに折角おいでいただいたのにこんな空気ではいけませんな。セント様にあれを』
メイドさんが小箱を私の前に差し出す。
『これは、何でしょうか』
『そう構えずによろしければ開けてみていただけますかな』
私の声に含まれる警戒心を払拭するかのような優しい笑みを浮かべ開けるように勧めてくる。
『では、失礼して』
ゆっくりと小箱を開ける…ああ…
その中には繊細な作りの首飾りが入っていた。金属とは思えない躍動感を持った羽ばたく小鳥の飾りにどのように繋げているのか一目見ただけでは解らない鎖。
思わず手にとって細部まで確認する。
『わしとゲンで作ったものです。いかがですかな』
『とても素晴らしいと思います。これほど小さいのにまるで今にも羽ばたいていくようで…この鎖も繊細でどのようにしたらこのような物ができるのか、想像もつきません』
『久々に金属加工などしましたが腕は落ちていないようで安心しましたぞ。誰かを思い物を作るのは楽しいものですな。よろしければつけてみてくだされ』
私は少しためらいながら付けてみる。
『良くお似合いです』
『本当じゃのう、お持ちくだされ』
『このような素晴らしいものを頂くわけにはまいりません』
『我が国は食料が不足気味な土地でして。あの痩せた土地でできる作物は限られておりますから。本来であれば会食で持て成したい、それは当たり障りの無い接待なのですがそれはできないのです』
ゲンさんが同意の意味で頷く。
『自国の物で何かと考え作った物がそちらです。あくまで私とゲンの私財と腕で形にした物…』
『本当に頂いてもよろしいのですか』
『はい、この年寄りの気持ちを汲んでくださるのであれば是非』
『大事にいたします』
嬉しそうに頷くゲンム様。
彩りの少ない食事が運ばれてくる。
『今日の食事に感謝して』
ゲンさんとゲンム様は食事に手を合わせる。私も同じように手を合わせる。
素朴な味、彩り鮮やかではない、舌を驚かせるような美味でもない、それでも食べることができることを喜ぶ二人の顔を見ているとこちらも嬉し気分になる。
食事も終わりかけに差し掛かった頃。
『これはセント様に申し上げることではありませんかもしれませんが…』
少し考えたゲンム様の表情に声をかける。
『何でしょうか』
『弟君に感謝しております』
『ナセキに…ですか』
『「平原」は食料の豊富な地。今は無き先王が思いを馳せた豊かな土地です。我が国と国同士での交易をしてくださるとのこと…食料の輸入に皆喜んでおります』
『交易の内容を教えて頂いても…』
『セント様が「平原」の人間でないのであればお教えはできません。ただ、「平原」の食料は我が国の助けとなる物です。これは個人的に感謝を伝えたいと思っただけのこと』
『皆様が喜んでくださったのならばナセキも満足なのでしょう』
『セント様、わしが言えることではないが…あまりこんをつめては身体に毒ですぞ』
『ゲンム様、お気遣い感謝いたします。今日はありがとうございました。そろそろ失礼いたします』
『では、ゲンよしっかりお送りするのだぞ。寄り道などしないようにな』
『ゲンム様、今日の今日に同じ失敗などしませんよ』
『ふふふ、ご心配なく。ここから一人で帰りますので…ゲンム様、ゲンさん素敵な物をありがとうございました』
黒いもこもこに包まれていく様子を驚きもせずに見送ってくれる2人が徐々に見えなくなる。
1人部屋に戻り、辺りを見渡す…
『大きな枠組みの中でその人らしさを保つのは難しいことなのね…』
動きの激しくなった部屋の中にいて、ついこぼれる独り言。




