【観察、紅茶をお供に】
『クロネさん、ゲンさん、ナセキ。お願いがあるのですが』
3人は少し驚きながらも話を聞いてくれる様子。
『暫らく自室で作業があるのでいろいろ買い物をしたくて…目立たないように変装して行きたいのですが、一人では逆に目立ってしまうかと思って』
歯切れの悪い私の言葉に3人は苦笑いしながらも答えてくれる。
『姉様のお供なら喜んでします』『私一人じゃなきゃ国贔屓にはあたらないしね』『荷物持ちぐらいなら任せてください』
『ありがとうございます』
それぞれ、変装をして1時間後に集合になった。
集合したメンバーを見てクロネさんから一言。
『あなた達、身を隠す気があるの…』
ゲンさんは鎧を脱いで少し楽な格好をして帽子を被っている。
ナセキはこの暑いのに頭まで布のようなものでぐるぐる巻きにしている。
私はフランさんがリメイクしてくれた服に髪を束ねてみた。
クロネさんは、体のラインがわかるくらいのタイトな服装に、普段はかけていないメガネ、手には細身のカバンを持っている。普段の服装とはかけ離れたその姿は変装というよりは変身といった感じ。
『いつものイメージと思い切って違う方向に向けていくことが大事なのよ』
そういいながら、ナセキの頭のぐるぐるを外していく。
そのぐるぐる外した物でゲンさんの腕の辺りを8の字に縛って後ろで結び、帽子をヒョイと取り上げてナセキに被せる。
ナセキの袖をくるくると巻き上げ、細身のカバンを持たせる。
『お嬢様と秘書、お付の子どもと荷物持ちの一団が出来上がったわ。では、行きましょう』
クロネさんの後を3人でついて階段を降りる。
『ところで、何を買おうと思っているの』
『一番大事なところではないですか』『だな』
『食べ物や飲み物を中心に買おうと思って、いろんな種類のいい茶葉があれば嬉しいのですけど』
『それですと、各国の商店を回るほうがいいですね。僕の調べによると五国は気候や風土がかなり変わるため特徴的な作物も多いようですから、例えば…』
ナセキはかなりの情報通の様子でその知識にはクロネさんやゲンさんも驚きを隠せないようだ。
『ナセキは勉強家なのね』
『他にすることも無かったので…さあ、行きましょう』
表向きは商売をする為の視察と言う感じで回って行った。
『お嬢さん、商売かい』
『ええ、折角こうして他国の方と交流できるようになったので』
『本当だよな。今までが不思議なくらいだぜ。お嬢さんみたいな商売人が増えてるみたいだからな。で、何がほしいんだい』
『茶葉などがあれば見せて頂きたいのですが』
髪を逆立てたおじさんは「ちょっと待ってな」と言って店の裏から3種類ほどの葉を持ってくる。
『「森林」の奥でしか育たない代物だ。お嬢さんのこと気に入ったからとっておきの出してきたぜ』
『おじさんったら。そうやっていろんな女性に声をかけているのでは』
『おじさん、悲しいぜ。この茶葉は本当なら他国に売るのはまだ制限されている品なんだぜ。おじさんの気持ちわかってほしいぜ』
『疑ってごめんなさい。おじさんが怒られるといけないから今日は少しだけ頂くわ』
『毎度あり。気に入ったらまたおいで』
おじさんはにこにこしながら茶葉を包んで渡してくれる。私達の姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
『セント…結構やるわね』
『姉様、見事な取引でした』
『私が店主でも売ってしまいますね』
みんなの視線が生温かい…
話題を変えよう、そうしよう。
『国ごとで外へ持ち出すのを制限しているものって結構あるんですか』
『そうね、特産品っていうのかしら。その国でしか取れないようなものは他国に対してどの程度の価値があるか解らないから留保しているでしょうね』
『まだ、世界の変革は始まったばかりですから。慎重になるのも無理はないのでは』
『確かに、ナセキの言う通りかもしれないわね…』
『何か気になることでも、あるんですか』
ゲンさんと視線を合わせる。
『折角、変わったのならみんなで仲良くすればいいのにって。簡単そうで簡単じゃないことって多いなって思って』
『そうですね。1人より2人、2人より4人。人数が増えれば増えるほど個人の思いは薄くなっていくような気がします。個は集団の為に、集団は個の為に、これからはこういった価値観も変化していくのですかね』
みんなで五国の商店を回り、結構な量の買い物が出来た。
荷物を円卓の間に置いてもらいみんなにお礼を言って少しずつ部屋へ運ぶ。
「森林」のおじさんから買った茶葉を淹れて…
さあ、ゆっくり見るとしましょう…新しい世界の胎動を…
この部屋は世界の流れが見える部屋。
それは良くも悪くも現実を突きつけられる。
イマジニアのレベルダウン効果はとても大きい様子で五国揃ってその数値の上昇は激しい。
それに引き換え物資の流れは小さく纏まっている。現状は自国優先の様子見に加え、イマジニア攻略に重きを置く国がほとんどだからであろう。
いろいろな数値の流れを見ながら、今後の展開を予想する。
さわやかだけれど、少し後れてくる香りがとてもおいしい…
また、あのおじさんのところに買いに行こうかしら。
早い段階で各国の王と会うことになりそうだから。
今は、ゆっくりとお茶を楽しみましょう。
各国の物の動きはまるで生き物のように動き。
その動きを見ながらあっという間に7日間は過ぎていった。
ちなみにあのおじさんの勧めてくれたお茶が一番私にあった。
身奇麗にして「森林」の区画へ向かおうと階段を降りると元気な声が私の耳に飛び込んでくる。
『セント、こっちだこっち。待ちきれなくて迎えに来たよ』
『バブエ様…どうしてここに』
『細かいことは後でもいいじゃないかい。とにかく後ろに乗りな』
1人で馬に乗ってきていたバブエさんの後ろに捕まる。
『そういや、さっきあたいを様付けで読んだね。バブエでいいよ、その方が気楽だろう』
『いえ、そういうわけには行きません。国の頂点にいる方ですから』
『変なところで固いね』
『必要なことですので』
『駄目かい。セントみたいな可愛い子には親しく読んでほしいものさね』
『いけません』
『本当に、駄目かい、お願いだよ。ねっいいだろう』
甘えた声でお願いしてくる…
『バブエさん。ここまでです』
両肩をすくめてしょうがないと言った感じで馬を走らせる。
上手に馬を操るバブエさんはとてもかっこいい。
時折私を気遣って後ろを振り返ってくれる。
『バブエさまぁ~おかえりなさいませぇ~』
前方から甘えた声が聞こえてくる。
『フラン、今帰ったよ。準備はどうだい』
『このフラン、準備万端、完璧なる準備を愛しいバブエ様に捧げますわ』
『じゃあ、セントの案内頼むよ。あたいは馬を置いてくるからね』
『すべてお任せください』
バブエさんは私を丁寧に降ろして自分で厩があるであろう方向に走り去っていった。
『セントさん、どうでした。バブエ様の後ろは』
バブエさんが見えなくなると凄い早さで私に迫って来るフランさん
『とても、素敵でしたよ』
『そうでしょう、それはそうでしょう。バブエ様の馬は結構気難しくて、私でも数回しか乗せてもらえていないのですのよ』
『そうでしたか。自然に乗せてもらえたので今日は運がよかったのですね』
『幸運と言ってもいいくらいですわ。なぜ、バブエ様がお1人で行かれたのか…乗れないときはどうするおつもりだったのか』
フランさんは腕を組んで頭を傾ける。
『それはさておき、あの暴れ馬を華麗に操るバブエ様、素敵でしたでしょう』
『確かに、素敵でした。フランさんはバブエ様が大好きなのですね』
『当然ですわ。愛していますもの。私の愛を捧げるに相応しい方はバブエ様のみ…セントさん、私のバブエ様に手出し無用、その時はそれ相応の覚悟をお持ちになってね』
『そんなことはしませんから大丈夫ですよ』
『私、バブエ様のことになると冷静さを失ってしまいそうになるんですのよ』
うん…ユーロさんとのやり取りとか見ていると冷静と言うよりは楽しい直情的な方だと思っていたのだけれど…
『ほら、知性が溢れると言うか。クールビューティーな感じが隠し切れないですでしょう。努めて気軽に話しかけやすい雰囲気を心掛けてますけれど。出てしまいますわよね…』
『フランさんはとても話しやすくて気さくな方だと思いますけど』
『そうかしら。そうよね、わかる人にはわかるものね。セントさんはセンスもいいですし、私達似たところがあるのでしょうね。でも、バブエ様だけは譲りませんわよ。ささ、こちらですわ』
私はフランさんに勧められる方向へ一緒に歩いていく。




