指輪
***
「あなたの願いはなんですか?」
' 'たちは問いかけにレシュリーとアリーは顔を見合わせる。
「私からいい?」
目と目が合ってしばらくして、アリーが言う。
「きっとあんたと同じ願いな気がするから……少し願いを変えるわ」
そう告げて、照れくさそうに語り始める。
「そもそも、私が冒険を続けてたのは行方不明の母さんを探すためだった。見つからなければそれを願おうと思ってたけど、もう見つかったし……区切りはついたのよ」
少し考えるように言葉を止めて、
「そう。だから、この冒険の区切りになるものが欲しいの」
「区切り……? それって……」
「冒険を辞めるとかじゃないの。でもこれで一区切り、でしょ?」
レシュリーの願いになんとなく見当をつけて、そのうえで自分が先ほどまで考えていた願いと一緒だと推測して、アリーは「一区切り」と告げていた。
「区切りになるもの、ですか……」
' 'たちは少しばかり時間を空けて、こう提案する。時間が空いたのは、姿がないので素振りこそ見えないが思考した結果だろう。
「指輪などはどうです?」
提案と同時にアリーとレシュリーに【収納】されていた十個の宝石が出現する。
それが混ざりあい、混沌色の宝石〔冒険は一区切り〕へと変化。
それを指輪の石座に填めて、完成する。
「宝石の名前は少し安易かもしれませんが……これが、一区切り。ここまで到達した証です」
「気に入ったわ」
アリーが自分へと渡された混沌色指輪をレシュリーに渡し、レシュリーに渡るはずの指輪を手に取った。
「私につけてよ。あんたにつけるから」
そう言ってアリーは躊躇いもなくレシュリーの左手の薬指に指輪をつける。
じっ、とレシュリーが見つめると
「何? 深い意味なんてないわよ」
そう言って左手を差し出す。
レシュリーは少し緊張しながら同じく薬指に指輪をつけた。お互いの指の大きさは知らないけれど、' 'たちが創造した指輪はお互いの指にぴったりだった。
「さて、次はレシュリーさんの願いです」
しばしアリーを見つめていたレシュリーへと' 'たちが尋ねる。
「最初は今まで死んだ人を生き返らせたい、って願おうと思った」
「それは……」
「無理ってわかってる。無理じゃなかったとしても、もしかしたら世界を巻き込むうえに、そこで死んだ人はもう生き返らないみたいな無理難題かもしれない」
想像でしかないけれど、そこでアリーを失えば、願ったことを恨んでしまいそうだ。第二の魔王になってもおかしくない。
「だったらそうじゃなくてゴーザックさんたちをって思ったけど、ゴーザックさんたちも救われた」
だからせめて救うという約束をした人を助けようとして、けれどそれは思わぬ形で救うことに成功していた。
そうやって考えて、レシュリーは渇望を口にした。
「僕はまだ冒険を続けていたい。でももうこの世界のほとんどを回り切ったから、楽しめるところなんてあるのかな」
試練は世界中に散らばっていた。試練を行うには竜の頭に似ているこの世界のほとんどを回る必要があった。
そして全ての試練を突破したレシュリーとアリーはほぼ全ての世界を回り切っている。
言ってない場所といえば、はるか天空と、海底だがそこまで行く技術はまだこの世界にはない。
一応、望遠鏡では何も住んでいないことだけは確認できているらしいが。
一方で終極迷宮も存在するが、終わりがないその迷宮に潜り続けるほどの熱意と目的をレシュリーは持っていない。
「なるほど。そういう願いですか……驚きました」
' 'たちの声色が驚嘆に染まる。
「まさか、こんな早い段階で、その願いを言う冒険者が現れるなんて――」
「――どういうこと?」
「レシュリーさん。あなたはこの世界のほとんどを回り切った、と言いましたが……この大陸を回り切ったにすぎませんよ」
「えっ……それって……」
「どうして空中庭園は空中大陸という名称ではないのか、ご存じですか?」
「確かにそうよね。空中庭園以外、空中に浮いている大陸はないのに……」
「つまり最初からヒントは提示してあったのです。もっともレシュリーさんたちは気づいてないようでしたが……、あなたたちが冒険していたのは世界の断片。このアズガルド大陸は竜の頭。胴体に当たる大陸がまだ存在するのです」
「どこに?」
「海底よりもはるか下の下、底の底に。そこはアズガルド大陸が空中に浮き、亜人続たちが争いを続ける世界。つまりアズガルド大陸こそが空中大陸だったのですよ」
「だとしたら周囲の海も浮いていて、沈んでいけば、新大陸にたどりつく……わけないわよね」
「ええ、海底も天空も一定以上進むと結界によって引き戻されるようになっていますからね。あ、ちなみにその結界は【偽装押倒】でも壊せませんよ」
「だとしたらどこから?」
「終極迷宮です。レシュリーさん、あなたの願いを受理しましたので、これより、終極迷宮にかかっていた海底、天空と同様の結界を解除し、地下10000階に新大陸の入り口を出現させます」
「今、終極迷宮を冒険している人はどうなるの?」
「地下1階まで戻したうえで、説明します」
「PCは?」
「いつも通り出現します。もちろん出現階層は変わりますが」
「つまり階層に制限ができる以外は何も変わらないのね」
「ええ。あ、そうだ。混沌色指輪を扉の鍵としましょう。新大陸に挑戦できる冒険者はランク7以上ですが、新大陸に挑戦できる次元はランク10冒険者を生み出した次元だけ」
「つまり一番乗りできるってわけね」
「そういうことです。それでは、引き続き、良い冒険を!」
そう告げると' 'たちの声は聞こえなくなりレシュリーとアリーの体も元の世界へと戻った。
***
気がつけば、ふたりは原点草原の入り口に立っていた。
他の冒険者に見つかり、矢継ぎ早にどうなったのか質問攻めに合うなか、地面が揺れる。
世界改変だった。
そしてこの大陸が空中に浮いている大陸であること。新大陸が下に存在し、終極迷宮にいけるようになったことを説明する。
疑いの目もあったが、数日の休息後に、アリーとレシュリーはコジロウたちを伴って、地下10000階にある施錠された扉を発見して、レシュリーの言葉が真実であったと証明された。
***
そのさらに数日後、
「「行ってきます」」
レシュリーとアリーはコジロウたちに挨拶して、終極迷宮へと向かう。
そのわずか数時間後には地下10000階にある施錠された扉が開き――
ふたりは新大陸へと旅立っていった。
-完-




