再会
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冒険者たちを原点草原レベル1まで押し戻した突風が吹いたとき、レシュリーとアリーはまた白い空間に転移していた。
「またここにいるってことは……」
「終わったのね」
お互いの声が聞こえて、驚き見つめ合う。
いつも別々だったのに、今回は一緒だった。
「別々に話すのも面倒臭くなったので」
' 'たちの声が聞こえてくる。一緒に呼ばれた理由が随分と人間臭い。
レシュリーやアリー的には神様的立ち位置だとなんとなく察してはいるが、あえて問わなかった。
「魔お――いや<1st>のレシュリーはどうなったの?」
「あなたの一撃はレシュリー<1st>を確実に殺すものでした」
「お互い手加減なんてしなかったよ」
「ええ。それは別に良いのです。ただ、肉体や魂が消滅する前に、' 'たちが負けた代償として罪を与えたのです。そうしなければ、レシュリー<1st>の意識は薄れ罰にはならなかった」
「罰って……」
「強いて言うなら魔王化。この世界はあえて魔王の城砦に魔王を置かなかった。そのほうが面白いとでも思ったのでしょう。しかしそれでは試練にならない。だから' 'たちは考えた。もし、' 'たちでも叶えるのが難しいような願いを言った冒険者に試練を与え、もし失敗したのなら、これからの冒険者の試練として、その冒険者を魔王にしよう、と。もちろん、あなたの試練でもあった。あなたは願いをまだ叶えてないですが、十に分かたれた世界はそもそも、<1st>のレシュリーの願いに沿って、' 'たちが作り出したものですから、<1st>次元以外の最後の試練として厳しめに設定していました」
「それじゃあ僕が勝ったから、<1st>のレシュリーは魔王の城砦にいるのか……」
「ええ、未来永劫。それが代償であり罰です」
「もし、僕が解放を願ったら……」
「ちょっと」
「叶えることは可能ですが、情けをかけられたと知ったらレシュリー<1st>はどうすると思います?」
「火種を増やすだけだわ」
レシュリーのお人好しにアリーは呆れてしまう。
「それでも、もしこの先、レシュリー<1st>の理解者が現れ解放を願えば、未来永劫ではなくなるのかもしれません」
「それに期待したほうがいいわよ」
「そう、かもね」
少し不服さはあったが、それでも自分が同じことをされたら怒るだろうと理解して、無理やり納得する。
「ちなみにアリテイシア<1st>は彼に寄り添うことに決めたようです。それは彼女への罰でも代償でもなく、彼女に尋ね、彼女が決めたことです」
「そうなのね。なら少しは安心なんじゃない?」
アリーがレシュリーにそう問いかけると、レシュリーも少しだけ安堵した様子を見せる。
「まだ、他のことを聞いてもいい?」
「ええ。どうぞ。' 'たちは対話は久しぶりなので、お好きにどうぞ」
「ゴーザック。ゴーザック・アシモフェ――月の闘技場にいる、呪いがかかった人なんだけど――」
「もしかしてその人の呪いを解きたい、という願いですか?」
レシュリーは頷こうとする。
「それなら、願わなくても大丈夫です。最後の試練を行った<10th>そして<1st>の彼らの呪いは、この時をもって解かれています。彼らには伝えてませんが、最後の試練を見届ける、それが解呪の設定にしていますから」
「じゃあ……」
「ええ。あなたの願いは、あなたのお好きなように」
レシュリーの喜ぶ顔に' 'たちはそう答えた。レシュリーが憂いなく願いを言えることに喜んでいる、と勘違いしていた。
「ううん。せめて三人が救われて良かった」
それは<10th>のゴーザックたちだけではなく、<1st>のゴーザックも指しているのだろう。
<1st>~<10th>の冒険者はあらゆる干渉によって、似たようで違う人生を過ごすが、ゴーザックたちはその役割上、呪いによって月の闘技場の役割に囚われ、ランク9の冒険者に異端の島の地図を渡す役目を担っている。ゆえにほとんどが同じような呪いの人生を背負っていた。
そんな三人が、最後の試練を見届ければ呪いが解けると知ってレシュリーは心底喜んでいたのだ。
「もちろん分かっていましたよ」
勘違いを悟らせないように' 'たちはごまかして、咳払い。
「ささ、世間話もこのくらいにして――」
ごまかした恥ずかしさを隠すように好きなだけどうぞと言った対話を切り上げて、' 'たちは問いかける。
「あなたの願いはなんですか?」
***
一発逆転の島――月の闘技場。
そこで偵察用円形飛翔機の映像を見終わったゴーザックは突然身震いに襲われた。
一瞬、寒気か、と思ったが、体は異常に熱い。
周囲の熱気のせいだ。
月の闘技場の試練を休止して、そこに偵察用円形飛翔機 の映像が見れる特設会場を作った。
それは太陽の闘技場も同様で、原点回帰の島に向かわなかった冒険者やそこに住む人々がその戦いに釘付けになり、戦いが終わった後もその熱狂を引き継ぐように祭りのような騒ぎになっていた。
その熱気が伝播して、ゴーザックも体が火照っていた。
何を隠そう、ゴーザックも、呪いを解きたいと言ってくれた冒険者が活躍していく様に心躍らせたのだ。
けれども、なぜか、身震いが止まらない。
「いったい、なんなのですか……」
少し小部屋で休もうと歩き出したところで受付の女性が目に入る。受付の女性もまた、偵察用円形飛翔機 の映像を見ていた。
名前も分からない、顔も見ないと思い出せない――はずだった。
「レイネー」
ふと名前が零れ落ちた。その名前に、受付の女性は確かに反応する。
思い出せていたことにゴーザックは驚き、名前を呼ばれたことにレイネーは驚いていた。
「呪いが……解けた」
思わず零れた言葉で、身震いが解呪の際に起こる症状だと理解した。
「私たちは死んで、いなかったのですね」
自分たちを地縛霊と揶揄し、呪いによって冒険者よりも長生きしているゴーザックは自分たちがとっくに死んだものだと思っていた。
だから呪いが解ければ死ぬものだと思っていたが、どうやら生きることを赦してもらえたらしい。
「大変です。ゴーザックさん」
そんなときだった。
若い冒険者が、受付へと駆け込んでくる。
「なんか、闘技場の中に半裸の男がいきなり現れて――ただ、なんていうか上手く喋れてなくて」
それを聞いてゴーザックは走り出した。レイネーも走り出していた。
一方で闘技場にいきなり現れた半裸の男は暴れもせず周囲を見渡して、泣きそうになりながら、
「オメ、ココ」
何かを言おうとして、上手く喋れずにいる。
「バリード!」
闘技場にそんな声が響き、ゴーザックが半裸の男バリードを抱きしめる。後からやってきたレイネーもそんなふたりに抱き着く。
「なんか、再会したのかな」
よく分からないが熱狂によって妙に興奮していた冒険者たちはそんな三人へと拍手をしていた。
「受付のレイネーさんってあんなふうに笑うんだな」
「ゴーザックさんもたいがい笑顔だけどな」
「ってか、レイネーさんってなんで今まで思い出せなかったんだ、あれ?」
そんな疑問も生まれたが、なんだかんだ感動の再会をした三人を見て、それは野暮だろうと忘れた。
ゴーザックとバリード、レイネーは泣きながら、笑っていた。
呪いから解かれグールから人間に戻ったバリード、同じく呪いによって忘れ去られたレイネーも認知されるようになっていた。
ゴーザックの呪いは、そんな変貌したふたりを永遠に見守らなければならない呪いだったが、それも今解かれた。
そしてもう死んだとばかり思っていた三人は、ここから新しく生き抜いて死んでいける権利を得たことに、何よりも感動していた。




