代償
***
レシュリー<1st>の眉間を【超速球】で打ち抜いた途端、【絶封結界】が解ける。
レシュリーが解いたのではなく、勝手に解けた。
「どこに行った?」
結界が解けた瞬間、レシュリー<1st>の姿も消えていた。
「倒したの?」
アリーが駆け寄り、レシュリーに話しかける。レシュリーは倒したと思ったが、その感触もはっきりとはしない。
『HUMA・Ntte117>うわわわわ、なんだも?』
途端、戦っていたPCから次々と声が上がる。見れば、敵味方問わずPCの姿が消えかかっている。
『B0DH1・5ATTA>あらら、また{勝負}して{欲}しかったのに……{残念}!』
『Buddhak's etra>わったくしたちの勝ちで良いのでしょうか』
『yahks>良いだろうよ。負けたらアバター失うが失ってもないし。この戦いの経験値はどうなるんだろうなあ』
などと生き残ったPCは感想を零しながら消えていった。
「PCどもが消えたってことは終わりか?」
ぽんぽこLifEのタヌキたちもゆっくりと消えていく。表情はどことなく満足げではあった。
「じゃあやっぱり僕が倒したのか」
未だその感触ははっきりとしない。眉間を打ち抜いた途端、レシュリー<1st>はそのまま消えてしまったのだから。
そうして、唐突に、唐突に風が吹いた。
誰しもがその風に耐えきれなかった。
偵察用円形飛翔機が壁にぶつかり壊れるなか、突風に見舞われたディエゴたちは壁にぶつかることもなく、城から押し出される。
やがてふわっとした感覚のあと、
「いきなりびびるじゃん。何が起きたじゃんか」
原点草原レベル1の拠点の周囲にまばらに倒れるように転移していた。
それはPCの戦いに援軍として来れなかった冒険者たちも含まれていた。
「魔物はどうなった?」
「風が吹く前に消えた。消えたと思ったら風が吹いた。いったい何がどうなっているやら?」
「レシュリーさんがいません。アリーさんも」
「イロスエーサ、偵察用円形飛翔機は?」
「ほとんど壊れているである。いや一機、映りそうなのはあるにはあるが……それでも半壊していて映るかどうか……」
偵察用円形飛翔機からはわずかに城内が映るが音一つなく静かでアリーとレシュリーの姿は場所が悪いのか映っていない。
***
「ここは?」
レシュリー<1st>は目を覚ます。
見えたのはどこか見覚えがある景色。城内。やたらと静かだが、空気は濁っているように見える。
「死んだのか……」
レシュリー<1st>は自分の眉間が打ち抜かれたことを思い出す。あれは即死のはずだったが、こうして自分は生きている。
ふと視線を落とすとボロボロの適温維持魔法付与外套が目に入り、そして骨の手が見えた。
立ち上がる。両手を見て、両足を見る。骨だった。頬を触るがない、目を触るが、ない。
鏡も硝子の破片もなく自分の姿は見れないが、骸骨だと気づいた。
「これは……」
そうして気づかされる。
ここはどこだったか。
異端の島の魔王の城砦。
魔王がいない空の玉座。
そこにレシュリー<1st>は座っていた。
いや座らされていた。
おそらくこれが' 'たちの言っていた負けた代償なのだろう。
未来永劫、次元を問わず。
魔王として君臨する。
「アァ」
おそらく勝負は決したと判断した' 'たちが、この姿にレシュリー<1st>を変えたのだろう。
原点草原レベル9の伽藍の魔王が姿なく存在していなかったのは、まだレシュリーとレシュリー<1st>の勝負の行方が分からなかったからだろう。
だから存在していなかった。
勝負がついたからこそ、そこからようやく伽藍の魔王は魔王として存在する。
だからこそ伽藍の魔王はボロボロの適温維持魔法付与外套だけは羽織っていた。
それはレシュリーとレシュリー<1st>の互いが来ていた象徴のようなものだったから。
現に今、レシュリー<1st>は再び魔王としてボロボロの適温維持魔法付与外套を羽織っている。
「アァ」
涙は流れない。
骸骨に目はないから。
「アァ」
その声もどうやって鳴らしているのか分からなかった。
喉もないのに、それでも喋ろうとするとその音が鳴った。
「アァ」「アァ」「アァ」「アァ」
ゆっくりと歩いて外に出る。
原点回帰の島へと大量に送りこんだばかりだからか、目の突く範囲には魔物はいなかった。
当たり前だが、冒険者もいない。
「アァ」
そう思えばこそ、孤独を感じた。いつもいてくれるはずだったアリーもいない。
もう願いは叶わない。
「アァ」
涙は零れてくれない。頬を伝うこともない。頬を伝ってくればこそ、悲しいと思えるのにその涙さえもない。
ゆっくりと玉座に戻るために歩き始める。
そうして扉を開けて、
「アァアアアアアアアアアアア!」
玉座の前、床に突き刺さる剣を見つける。
魔々充剣アリテイシアだった。
見間違えるはずがない。
急いで駆け寄り、抱きしめる。
「アァ、アァ、アァ、アァ、アァ」
このときばかりは泣いていた。涙などなくとも。
一緒にいてくれるのだと、分かって。
一緒にいたいと、いさせてほしいとアリー<1st>が' 'たちにお願いしたのかもしれない。
未来永劫、魔王として世界に組み込まれたのだとしても、レシュリー<1st>は嬉しくて泣いていた。




