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tenth  作者: 大友 鎬
最終章 異世界転生させない物語(3)
897/900

代償

 ***


 レシュリー<1st>の眉間を【超速球】で打ち抜いた途端、【絶封結界(ホリゾントバリアー)】が解ける。

 レシュリーが解いたのではなく、勝手に解けた。

「どこに行った?」

 結界が解けた瞬間、レシュリー<1st>の姿も消えていた。

「倒したの?」

 アリーが駆け寄り、レシュリーに話しかける。レシュリーは倒したと思ったが、その感触もはっきりとはしない。

『HUMA・Ntte117>うわわわわ、なんだも?』

 途端、戦っていたPCから次々と声が上がる。見れば、敵味方問わずPCの姿が消えかかっている。

『B0DH1・5ATTA>あらら、また{勝負}して{欲}しかったのに……{残念}!』

『Buddhak's etra>わったくしたちの勝ちで良いのでしょうか』

『yahks>良いだろうよ。負けたらアバター失うが失ってもないし。この戦いの経験値はどうなるんだろうなあ』

 などと生き残ったPCは感想を零しながら消えていった。

「PCどもが消えたってことは終わりか?」

 ぽんぽこLifEのタヌキたちもゆっくりと消えていく。表情はどことなく満足げではあった。

「じゃあやっぱり僕が倒したのか」

 未だその感触ははっきりとしない。眉間を打ち抜いた途端、レシュリー<1st>はそのまま消えてしまったのだから。


 そうして、唐突に、唐突に風が吹いた。


 誰しもがその風に耐えきれなかった。

 偵察用円形飛翔機(ドローン)が壁にぶつかり壊れるなか、突風に見舞われたディエゴたちは壁にぶつかることもなく、城から押し出される。

 やがてふわっとした感覚のあと、

「いきなりびびるじゃん。何が起きたじゃんか」

 原点草原レベル1の拠点の周囲にまばらに倒れるように転移していた。

 それはPCの戦いに援軍として来れなかった冒険者たちも含まれていた。

「魔物はどうなった?」

「風が吹く前に消えた。消えたと思ったら風が吹いた。いったい何がどうなっているやら?」

「レシュリーさんがいません。アリーさんも」

「イロスエーサ、偵察用円形飛翔機(ドローン)は?」

「ほとんど壊れているである。いや一機、映りそうなのはあるにはあるが……それでも半壊していて映るかどうか……」

 偵察用円形飛翔機(ドローン)からはわずかに城内が映るが音一つなく静かでアリーとレシュリーの姿は場所が悪いのか映っていない。


 ***


「ここは?」

 レシュリー<1st>は目を覚ます。

 見えたのはどこか見覚えがある景色。城内。やたらと静かだが、空気は濁っているように見える。

「死んだのか……」

 レシュリー<1st>は自分の眉間が打ち抜かれたことを思い出す。あれは即死のはずだったが、こうして自分は生きている。

 ふと視線を落とすとボロボロの適温維持魔法付与外套(マジックマルチウェア)が目に入り、そして骨の手が見えた。

 立ち上がる。両手を見て、両足を見る。骨だった。頬を触るがない、目を触るが、ない。

 鏡も硝子の破片もなく自分の姿は見れないが、骸骨だと気づいた。

「これは……」

 そうして気づかされる。

 ここはどこだったか。


 異端の島の魔王の城砦(サタンパレス)


 魔王がいない空の玉座。

 そこにレシュリー<1st>は座っていた。

 いや座らされていた。


 おそらくこれが' 'たちの言っていた負けた代償なのだろう。

 未来永劫、次元を問わず。

 魔王として君臨する。


「アァ」


 おそらく勝負は決したと判断した' 'たちが、この姿にレシュリー<1st>を変えたのだろう。

 原点草原レベル9の伽藍の魔王が姿なく存在していなかったのは、まだレシュリーとレシュリー<1st>の勝負の行方が分からなかったからだろう。

 だから存在していなかった。

 勝負がついたからこそ、そこからようやく伽藍の魔王は魔王として存在する。

 だからこそ伽藍の魔王はボロボロの適温維持魔法付与外套(マジックマルチウェア)だけは羽織っていた。

 それはレシュリーとレシュリー<1st>の互いが来ていた象徴のようなものだったから。

 現に今、レシュリー<1st>は再び魔王としてボロボロの適温維持魔法付与外套(マジックマルチウェア)を羽織っている。


「アァ」


 涙は流れない。

 骸骨に目はないから。


「アァ」


 その声もどうやって鳴らしているのか分からなかった。

 喉もないのに、それでも喋ろうとするとその音が鳴った。


「アァ」「アァ」「アァ」「アァ」


 ゆっくりと歩いて外に出る。

 原点回帰の島へと大量に送りこんだばかりだからか、目の突く範囲には魔物はいなかった。

 当たり前だが、冒険者もいない。


「アァ」


 そう思えばこそ、孤独を感じた。いつもいてくれるはずだったアリーもいない。

 もう願いは叶わない。


「アァ」


 涙は零れてくれない。頬を伝うこともない。頬を伝ってくればこそ、悲しいと思えるのにその涙さえもない。

 ゆっくりと玉座に戻るために歩き始める。

 そうして扉を開けて、


「アァアアアアアアアアアアア!」


 玉座の前、床に突き刺さる剣を見つける。

 魔々充剣アリテイシアだった。

 見間違えるはずがない。

 急いで駆け寄り、抱きしめる。

「アァ、アァ、アァ、アァ、アァ」

 このときばかりは泣いていた。涙などなくとも。


 一緒にいてくれるのだと、分かって。


 一緒にいたいと、いさせてほしいとアリー<1st>が' 'たちにお願いしたのかもしれない。

 

 未来永劫、魔王として世界に組み込まれたのだとしても、レシュリー<1st>は嬉しくて泣いていた。

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