If影虎~2人だけの物語⑤~ラビアベルside
「真っ暗ね」
気づけば、真っ暗な空間に独りきり。
けれど遠い記憶にある、懐かしい魔力に向かって歩を進める。
「んむっ」
暫く進むと、何か柔らかな壁に軽くぶつかる。
そっと手を翳すと、魔力を練って作った壁だと気づき、自分の魔力で干渉して消し去る。
すると明かりがついた研究室のような空間が現れ、見知った人の姿を見つけた。
「あらあら、お久しぶりですわね、お父様」
「ふむ……ラビアンジェか」
そう、私をラビアンジェと呼び、私がお父様と呼ぶ人物は、ライェビスト=ロブール。
前世で血が繋がっていた、私のお父様だ。
「今はラビアベルですわ。
既に察したでしょうけれど、転生しましたの。
一目で私の正体を見抜くなんて、さすがでしてよ。
こんな所で、何をしてらっしゃいますの?」
ついつい前世の口調で話してしまう。
「お前が亜空間で魔力暴走を起こして作ったという世界に興味があってな。
やってみた」
「まあまあ、よく生きてらしたわね。
そういえば、前世のいつからか行方不明になってましたけれど、この空間でずっといらしたのね」
「亜空間は魔力暴走を引き金に、圧縮し始めると聞いていたからな。
聖獣ヴァミリアの羽根つきハリセンを持って入り、ハリセンに高密度の魔力を流して振ってみた。
そうしたら圧縮は止まったが、ハリセンが亜空間から外に飛び出してしまってな。
出られない空間になった」
「左様でしたのね。
もしかして空間の創造神権限で時間を止め、今まで過ごしてらしたんじゃ……」
「ああ。
ちょうどいいかと思って、少しの間こもっていた」
「きっと本当に出ようと思えば、創造神権限で出られましてよ。
この空間に興味を覚えて、無意識下で留まる事を望まれたのでは?
それに少しだなんて。
既に百年は過ぎてましてよ。
まあ、魔法馬鹿らしい……んんっ、お父様らしく、うっかり集中しすぎましたのね」
「それで?
何の用だ?」
さすが魔法馬鹿、んんっ、お父様らしいわ。
明らかにラビアンジェから転生している今世の私を見ても、時間の経過にも、興味はなさげ。
その上、用件を真っ先に尋ねるなんて。
いかにもお父様らしくて、転生ぶりだからかむしろ新鮮に感じちゃう。
「何をどうなったのか、この空間に入った者は、空間内でなら願いを具現化できる権限を付与されるようですけれど、何か知りませんこと?」
「ふむ……願いを?」
私の質問に、暫しの間を置いたお父様は、何かに思い至ったような素振りを見せた。
「ああ、時々騒がしくなっていたんだった。
私の研究スペースを強固な壁で囲って、外から何者かが入っても気づかれないようにして、好きにさせていた。
私も何者かも気づかないし、飽きたら勝手に出て行くと思ってな」
「うーん……お父様が権限に興味ないからかしら?
リアちゃんの世話焼き気質が空間に影響して、第三者をお世話がてらお願いを叶えていた、的な?
本来なら、創造神となった者だけが好きにできる空間なのだけれど……。
となると、どうしてハリセンに封緘魔法と高度な鑑定認識阻害魔法を……ああ、もしかしてお兄様が?」
ここで私が言うお兄様とは、ミハイル=ロブールの事だ。
意図せずお父様がこの空間の出入り口とハリセンを繋いでしまい、この世界に前世の私の甥と姪、もしくはその子供達の誰かが入ってしまったなら?
お兄様の瞳の力なら、ハリセンに吸引された子供にも気づけたはず。
外部から入った人間なら、この空間を心から出たいと考えれば出られたでしょうけれど、この空間内で自分の願望が叶うと気づいたら、きっとかなりの時間、出てこなくなる。
危険だと判断したお兄様が子供を連れ戻した後、ハリセンに封緘魔法と阻害魔法をかけたに違いない。
となると十中八九、経年劣化で封緘魔法が解けかけていたのね。
トゲツを引きずりこんだ犯人が、ある程度の魔法を扱えるなら、完全に解く事が可能な状態だったと言えるわ。
そうして今回の犯人がハリセンに入り、この空間の権限を使って、トゲツをこの空間に引きずりこんだに違いない。
鑑定認識阻害魔法がハリセンにかかっていたから、ロブール家の瞳の力がない限り、この空間を把握できないはず。
前世でお兄様の瞳の力を完コピしていたから良かったけれど、していなければトゲツを見つけるのは不可能だったんじゃないかしら。
だってトゲツを引きずりこんだ人間は、つい最近まで頻繁に学園OBとして学園を訪れては、不慮の事故を装って私を魔法で攻撃してきた女の人だもの。
ハリセンに引きこまれる際に感じた魔力の内、1つはその女性の魔力だったわ。
「そうか」
お父様が、そう言ってパチリと指を鳴らす。
すると真っ暗な空間がガラガラと崩れ、崩れた途端、砂塵のようになってふっと消えてしまう。
だだっ広い空間の向こうに、どこかのホテルの一室のような部屋がポツンと見えた。
「見つけたけれど……あらあら、まあまあ?
まさかの、2つ前の人生で見たような懐かしい光景ね?
今世でも女性に襲われるなんて……ふふふ……へえ、そう。
これは今世こそ、監禁お世話コースにして欲しいという意思表示かしら?」
黒い気持ちが心に生まれ、思うままに言葉を口にした。
――ガラガラ、ドーン!
落雷が部屋のある空間よりも奥で落ちた。
トゲツ達はソレに気づいていない。
「……ふうぅぅぅ」
「ほう、落雷か。
ラビアンジェ、創造してもいないのに空間に影響を与えるとは。
どんな魔法原理を使った?」
ため息を吐くと、お父様の無表情なお顔が、どことなく輝き始める。
さながら小さな子供が、興味を引かれる何かに出会った時のようね。




