709.白犬と犠牲者
「はあ……まあ……まあ、いいんじゃない?
仕方ないよね。
引き取れば……まあ、僕はいいよ……くっ」
黒犬大公をジトリと睨んでからの、何だか悔しそうな発言をしたのは、キャスちゃんだ。
「どうして?
私はキャスちゃんだけでも良いのよ?
ディアも独り立ちしたし、ピケルアーラはラグちゃんと親子水入らずで何十年か過ごしたいからと、ラグちゃん共々、あまり顔を見せなくなったわ。
私と一緒の時間が長く過ごせるって、喜んでいたのに……」
「……ふふふ、僕の腹毛が、こんなに危機的状況になるなんて、考えてなかった……」
するとキャスちゃんが……うーん、声がくぐもっていて、何を言ったのかわからなかったわ。
「キャスちゃん?
ボソボソ声で聞き取れ……」
「とにかく!
自力解除できないみたいだから、黒犬を解除するまでラビの側に置いて、僕の腹毛の身代わり、んんっ、番犬代わりにでもしておけばいいよ」
「でも、本当に納得しているの?
キャスちゃんが少しでも嫌だと思うなら、私は……」
「それにソイツ、ベルの時より毛並みが良くない?」
キャスちゃんが発する魅惑の言葉に、はたとなる。
「あらあら、確かに」
言われた通り、黒犬モードの大公はツヤツヤのフワフワしている。
特にお腹の毛が……ああ、たまらん~……。
「キャウッ」
どうしてかしら?
まるで怯えるように、黒犬大公の尻尾が、お尻の方にクルンと丸まって、耳も垂れてしまったわ?
「レジルス、堪えろ。
選んだのは、お前……」
「ワンワン!
ワンワン!」
お兄様が何かを言いかけた時、全く別の方向から、大公とは違う犬の鳴き声がした。
「まあまあ、今度は白犬さんね?」
白い犬が、どこからともなく……あらあら?
「あ、頭に寄生植物?
いや、魔獣?
まさか昔見た……いや、しかし随分と小さいな。
それにしても何で、眉毛の太い山羊が……」
そう、私同様に困惑し始めたお兄様の言う通りだ。
白犬の頭頂部には、隊長が品種改良した山羊がいる。
小さいけれど、隊長の魔力を内包した寄生植物の山羊は、ハイヨしかいない。
ハイヨは教皇であるリリの頭頂部に寄生していたはず。
「ワンワン!」
「ンメェ~」
黒犬を押し退けた白犬もまた、私の手に頭を擦りつけてきた。
この子もハイヨも、毛がツヤツヤのフワフワ。
大変、心地良い。
「ねえ、この犬って……」
「そうね、キャスちゃん。
はあ……困ったわ……」
ドン引きした声を出すキャスちゃんは、白犬の正体に気づいているみたい。
『リリじゃ~ん!
どっかの大公が、犬になる魔法を開発したのを聞きつけたリリが、自分も犬になってラビと旅がしたいって言ったじゃ~ん!
だからハイヨを媒介にして、獣化させたじゃ~ん』
その時、どこからともなく隊長の声が頭に響く。
白犬の正体は、リリで確定だ。
けれど今の私は、そんな事よりも……。
「何て撫で心地の良い……ああ、吸いたい……その、腹毛達が……私を呼ぶ……」
「「キャ、キャウン?!」」
「「ヒゥッ(メッ)」」
うっとりと毛並みの感想を呟けば、どうしたのかしら?
白黒の犬達も、私とリリの頭頂部それぞれに鎮座するキャスちゃんとハイヨも、小さく悲鳴を上げる。
どうしてかしら?
悲鳴を上げるシチュエーションじゃなかったはずよ?
きっと大きく息をしただけよね?
息をした獣達が、1つに固まって私から遠ざかる。
だからどうして?
私の頭にいたはずのキャスちゃんまで、いつの間にか転移して、塊の構成員になっているのだけれど?
解せないわ?
「ラビアンジェ……ひとまず、その変た、いや、人ならざる顔を戻すんだ」
「お兄様?
言い直した意味……」
チラリと視線を下に向ければ、塊を構成する各々が、ビクッと体を強張らせる。
『変態はそのへんにするじゃ~ん!
リリも預けたし、さらばじゃ~ん!
あ、教皇の座はナックスっていう百合沼神官が継いだから、心置きなく白犬リリを可愛がるじゃ~ん!』
言うだけ言って、隊長の気配が消える。
「ラララ、ラビ!
白犬も飼って!
身代わり、んんっ、犠牲者は多い方がマシ!」
「「キャウン?!」」
キャスちゃん、言い直した意味。
それに一緒に旅をしたがっていたはずの犬達が、どうして悲鳴のような鳴き方を?
「ラビアンジェ、キャスケットの許しも出たし、増えた白犬共々……な?」
「……そう、ですわね。
まあモフモフ可愛らしいので、旅のお供には良いのかしら?」
きっと2頭の犬達は自らの寿命を迎えるまで、私の側にいる。
そんな風に魔法師としての勘が告げる中、首を縦に振った。
そうして私は、どこに行くにも白黒の犬達を連れ歩くようになった。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
本編完結まで、あと1話(*^_^*)
そして明日は本作書籍の発売日です!
WEB版とは結末が変わり、冒頭も、影虎とのラブが一瞬ですがあったりと、オリジナルシーンが随所に入ってます(*´∀`*)
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