怒り
「えっ…?」
一瞬、何が起こったのか把握出来なかった…
「ボス!」
地面に倒れているパウロがアイリンに向かって叫ぶ。
私はアイリンからアッサラームへと視線を戻した。
すると、少し離れたアッサラームの手にはすでに剣が無くなっていた。
その時、ようやく状況が把握出来た…
おそらくルウの力を使って剣を飛ばしてアイリンの胸に突き刺したのだ。
嘘でしょ…?
アイリンの身体から血が溢れ出してきた。
私の身体にアイリンの血の温かみが伝わってくる。
「見せしめは終わった。あとは全員捕らえろ」
アッサラームの声が遠くに聞こえた。
すると、王国兵士たちの足跡が私の横を通り過ぎていく。
「離せ!」
直接、見てはいないがパウロの叫ぶ声が聞こえた。
おそらく王国兵士に捕まえられたのだ。
…このままでは他の子供たちも王国兵士に捕まってしまう。
しかし、私は呆然と胸に剣が突き刺さり血を流すアイリンを見下ろしていた。
それは目の前の状況を受け入れられないのもあったが、アイリンが血を流して今にも死にそうな現実に恐怖を感じたのだと思う。
…目の前に起こる死。
その恐怖に身も心も固まってしまっていた。
そんな私をアイリンの手が我に戻した。
アイリンが私の手を握ったのだ。
「ア、アイリン…」
私の目から涙がぼろぼろと溢れ出す。
「…そんな顔をするなナナミ。いずれはこんな日が来ると覚悟をしていた…」
アイリンが掠れた声で最期の命を燃やすかのように語り出す。
「巻き込んで済まなかった…でも、最期に私の側にナナミがいてくれて良かった…やっぱり死ぬのは怖いな…」
私を支配していた恐怖心が消え、今は悲しみが一気に押し寄せてきた。
「い、いや…死なないでアイリン…あの子たちはどうするの?アイリンがいないとやっぱりダメだよ…」
と言う私の言葉もアイリンにはもう届いていない様子だった。
「…向こうで…マリアに会えるかな…」
アイリンがそう言った瞬間、アイリンの手から力が抜ける。
「アイリン!!」
私はもう動かなくなったアイリンを抱きしめて叫んだ。
涙を流して、彼女のまだ温かい体を強く強く抱きしめた。
「…きっと、マリアさんに会えるよ」
私はアイリンの顔を寄せてそう伝える。
そして、そのあとすぐに私の中で何が弾けた。
恐怖を感じ、悲しみが私の感情の全てを覆ったあと、私の中で意外な感情が湧き起こる。
怒りだった。
かつてないほど沸き起こる怒りが抑えられなくなる。
その時、不思議なことに感覚が研ぎ澄まされた。
近くで地面に一人の兵士に押さえられて必死に抗うパウロ。
少し離れたところでトンヌラとクッキーが兵士に捕らえられて離せと叫んでいる。




