アースハンド
「いけないな。手が二つあるのは常識だろ?もう一つ出てくると予測しておかないと」
アッサラームが捕まえたアイリンを見ながら言った。
「アイリン!パウロ!」
私は叫ぶことしか出来なかった。
アッサラームが自分の両手を翳し、ぐっと力を入れる。
すると、土の両手がそれに共鳴するように空中でアイリンとパウロを力強く締めつける。
アイリンとパウロが堪らずに苦痛の叫び声を上げた。
その時、自分がいかに無力かを思い知らせた。
…目の前でアイリンとパウロが苦しんでいるにも関わらず何も出来ない。
足が恐怖で完全に竦んでしまっている。
「…ナナミ!早く逃げろ!」
アイリンが痛みを我慢しながらも、私にそう叫ぶ。
逃げるにも、恐怖で上手く足が動かない。
それに二人を置いてなんて逃げられない。
ごめんアイリン…
目を瞑って、助けることも逃げることも出来ない自分を嘆いた。
すると、アイリンを掴んでいた土の手が一部消滅していく。
そして、アイリンが土の手から解放されて、地面に落ちる。
「アイリン!?」
私は竦む足を叱咤するように手で叩き、アイリンのところまで駆け寄った。
そして、パウロを掴んでいた手もスッと消えていく。
突然、解放されたパウロも地面に勢いよく落ちた。
「…どうやら最期の悪あがきが成功したようだ」
アイリンが地面から上体だけ起こして、小さく笑みを浮かべた。
「…まさか力を解かれるとは思わなかった。いくら土を得意とするタイプだとはいえ、私のアースハンドを消し去るとは…」
アッサラームの表情が優越感のあるものから怒りがこもった表情へと変化する。
「全員、奴隷にするから殺さずにと思っていたが、どうやら少し見せしめが必要のようだな…」
アッサラームの言葉に思わず恐怖を感じた。
「おい!お前ら誰でもいいからあの女を殺せ!」
アッサラームがアイリンを指差しながら、王国兵士に命令をする。
「…しかし、命令は全員捕らえて奴隷商人に引き渡せとのこと。殺せという指示は出ていません…」
アイリンのルウによって倒れていた王国兵士たちが今はほんとんど立ち上がっていて、その中の一人だけ違う兜を被っている兵士がアッサラームの言葉に意見した。
おそらく王国兵士たちのリーダーなのだろう。
だけど、王国ルーラーの方が立場は上のようだ。
「構わん!これは私の命令だ!この任務は私に一任されている。どうするかは私が決める!」
アッサラームがその兵士に怒鳴りつけた。
「しかし、相手はまだ少女…私には出来ません…」
とアッサラームの命に背く。
「ええい役立たずが!私がやる!貸せ!」
アッサラームが怒りを露わにしながら、一番近くにいた兵士から剣を取り上げた。
そして、アイリンを鋭く睨んだ。
それにとてつもなく嫌な予感がした。
すぐ側にいるアイリンを起き上がらせて逃がさないとと思考を巡らせた矢先、何かがアイリンの胸に突き刺さる。




