アイリン⑤
それでも、人質なんて私は取りたくなかった。
きっと、ブルーも私が正解だと言ってくれる筈だ。
「完敗だ…」
アイリンがそう呟いた。
「えっ…?」
私が訊き返すと彼女はゆっくりと私に歩み寄ってきた。
「私たちの負けだ。アンタのさっきの表情にある人を思い出してしまったよ…いつから私たちはこんなにも汚れてしまったんだろうね…」
アイリンの言葉に彼女を見守る子供たちからも私に対する敵意が消えたように感じた。
「記憶は消さない。消さなくてもアンタは言わないよ。信用する」
と彼女が笑みを浮かべた。
その言葉に安堵する。
「…良かった。これで帰れる…」
と急に安心すると力が抜けて思わず倒れそうになる。
それをアイリンが支えてくれた。
「本当にすまないことをした。是非お詫びをさせてくれ。良かったら今日は一日ここに泊まっていって欲しい」
アイリンの言葉は素直に嬉しかった。
「…嬉しいけど、私たちを待っている人が心配するから出来れば今すぐ帰りたい」
脳裏にブルーを思い浮かべた。
きっとブルーが心配してる。
「…そうか。だが、もうじき日が暮れる。今、山に戻るのは勧められない。それに牢を抜け出すために頑張ったせいで身体中がボロボロじゃないか…?今日はここで身体を休めて、明日の朝に発てばいい」
アイリンの提案に持っていたアクエリアスが反応を示す。
『俺様もこの女の言うことに賛成だ。ナナミは疲れている。ここで休んだ方がいい。きっとアイツも今の状況を知ったらそうしろと言う筈だ』
サマンサという少女の声を使ってではなく、アクエリアスの本当の声で私の頭にその言葉が聞こえた。
「…アクエリアス」
「と剣も言ってくれているがどうするナナミ?」
とアイリンが私の名前を呼んだ。
たしかに身体中が痛む。
…それにせっかく歳が近そうなアイリンと和解し合えたのにすぐお別れは少し寂しいと思った。
「…うん、じゃあお言葉に甘えようかな。でも、他の子たちは大丈夫…?」
アイリンは歓迎すると言ってくれたが、他の子供たちはどう思っているのだろうかと心配になって、視線をアイリンの後方へと向けた。
「俺たちはボスがいいと言ったら全員賛成だ」
赤茶色の髪のパウロがそう答える。
「だそうだ。歓迎するよナナミ。ようこそフリーダムへ」
と私はアイリンに支えられながら、子供たちが集まるところへと歩いていった。




