アクエリアスを取り戻さないと
でも、牢から出られただけで喜んではいられない。
私は身体の痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がる。
そして、足音をなるべく立てずに階段の方へと近づく。
上を見上げても誰もいないし、話し声や物音もしなかった。
なので、ゆっくりと一段一段丁寧に階段を上っていく。
…もし、見つかっても相手が子供だったら半ば強引に突っ込んでいくつもりだ。
しかし、私を閉じ込めていたルウの塊や地下室の明かり…間違いなくルウを使える者がここにはいる。
…もしかしたら、あの子達もルウを使えるのかもしれない。
ここファーシルはルウの発祥の地。
子供が使えたって不思議ではない。
まして、ルウは生活に欠かせないものだと以前、六倉さんが言っていた。
ルウを使える相手なら、例え相手が子供でも敵いっこない…
その時、ふとある考えが脳裏に浮かんできた。
私も本当はここの世界の人間…
ある程度、練習すればルウを使えるようになるのだろうか…?
とルウを自由に使いこなす自分を妄想する。
私は首をぶんぶんと横に振って、それを掻き消した。
…いかんいかん、今はそんなことを考えている場合じゃないぞ七海。
私の中のファンタジー症候群が久しぶりに目を覚ましてしまった。
再び、目の前の現実に集中する。
ゆっくりと階段を上り切って上の階に出る前に壁に体を隠して部屋を覗く。
部屋にはテーブルと椅子がいくつか並んていて、奥にはキッチンらしきものが見えた。
しかし、人の姿はない。
もしかしたら奥にいるかもしれないので、引き続き足音を立てずに進んでいく。
そして、出口の扉の前にしゃがみ込んだ。
出口の扉には小さな窓が付いていて、そこから外を覗く。
見る限りは誰もいない。
ゆっくりと扉を開いて再び外を確認した。
誰の姿もないことに安堵して、私は建物から脱出する。
そして、この建物とすぐ横にある小屋の間に身を隠した。
そこから、覗き込んでこの集落の出口を見た。
ここから、そんなに離れてはいない。
走れば何とかなる。
…だけど、アクエリアスを取られてしまった。
私だけ逃げる訳にはいかない。
なんとか、アクエリアスを取り戻さないと…
そのためにはあの子たちがどの建物から出てくるかを把握しないといけない。
先に私が牢から逃げたことを知られれば、自由にこの集落を動けなくなる。
…でも、私が外に逃げたと思って外を探しに行くかもしれない。
だとすると、その時がアクエリアスを取り戻すチャンスだ。
アクエリアスさえ取り戻せば、見つかったとしてもアクエリアスの力で何とか逃げ切れる可能性は充分にある。
と意外にも私の中の考えはポジティブだった。




