限界①
朝が来ると熟睡していたナナミを起こす。
目を覚ましたナナミの表情からは疲れが残っていた。
食事をしたらすぐに発つと伝えると、食欲がないからとナナミは首を横に振った。
「無理にでもお腹に入れておいた方がいい」
という俺の言葉にナナミは店で貰った食料の残りを食べ切った。
「…ブルーが水を入れてきてくれたの?」
水筒を手にしたナナミが俺に訊いた。
「…ああ、水分補給は大事だからな」
「ありがとう…」
ナナミが笑みを浮かべて俺に礼を言う。
その顔に昔のジーナを思い起こす。
思わず目を逸らした。
…やっぱり似ている。
出発前に俺は綺麗目の布をいくつかナナミに手渡した。
「山の中だ。必要な時に使えばいい。それに女は色々とあるだろうからな」
と手渡してすぐに出発する。
ジーナも初めは大変だった。
用を足すのにもいちいち文句を言ったり、当時女の身体の知識がまるでなかった俺は知らず知らずのうちにジーナを怒らせてはデリカシーがないと何回も頬を引っ叩かれた。
今となっては懐かしい思い出だ。
とうっかり笑いそうになるのを堪えた。
◯
それなりに時間が過ぎた。
出発してからまもなく雲行きが怪しくなってきて、やがて雨が降り始めた。
地面が濡れるとそれなりに歩きにくくなり、更に激しく体温が奪われる。
降り始めてすぐ寝る時に使わせている布を雨避けに使わせたが、すぐに濡れきってしまいあまり役に立っていない。
雨脚はそんなにキツい方ではないが、止む気配はなかった。
しかし、俺は足を止めずに進んだ。
ナナミもなんとか俺についてきている。
急斜面に差し掛かり、所々に水が上から流れてきていた。
ナナミのことを少し気を遣いながらなるべく緩やかなところを通っていく。
急斜面が過ぎた辺りでまたナナミのペースがぐんっと落ちた。
そろそろ限界か…
そう思っていた矢先、後方のナナミが濡れた地面に足を取られて思いっきり派手に転んだ。
すぐに足を止めて、後ろを振り返った。
ナナミはなかなか起き上がろうとしない。
仕方なく歩み寄っていく。
すると、ナナミがゆっくりと泥だらけになった顔を上げた。
顔は雨か涙か分からないが、泥と混ざって酷いものになっている。
手をスッと差し伸べると、その手をナナミが弾いた。
「もう、いや!何で私がこんな目に遭わないといけないの!」
ナナミが突然、叫び始めた。
疲労がピークに達したのだろう。
俺は黙ってそれに耳を傾けた。
「…私が一体、何をしたって言うのよ!私は私なりに必死で生きてきた…なのに、誰とも上手く話せずに気がつくとすぐに孤立してしまう…きっと私は向こうの世界には向いていないんだってずっと思っていた。実際、私はこのエヴァの世界の人間で両親だと思っていた人たちは偽物だった…だから、今度は上手くいく…この世界は私が産まれた世界だから今後こそ上手くいく…それなのに…何でこんな目に遭うのよ!」
ナナミが懸命に吠えた。
溜まっていたものを全て吐き出すように…
「…私が何したって言うの?ただ、穏やかに過ごしたかった…この世界を妄想していた時は楽しかった…なのにこの世界に来ても私はちっとも幸せになんかなれないじゃない!」
『落ちつけナナミ!』




