険しき山道②
それに夜も歩き続ける体力がナナミにあるとも思えないので、日中の間に出来るだけ進んでおき、夜は疲れを癒すことに専念する方がいい。
やがて、日が暮れそうになった時、ナナミはほとんど歩いていなかった。
これ以上頑張っても今日はもうたいして進めないと判断して、辺りに休めるスペースを探す。
そのスペースにナナミが辿り着くと、すっかり疲れ切ってしまったのか座り込むと同時に眠りについてしまう。
その前に火を起こして、ナナミに布を掛けてやる。
そして、ナナミの水筒を確認すると中身はもう無くなっていた。
仕方なくナナミの水筒を手に取り、自分の水筒も持って近くに水が流れる場所を探しに行く。
「おい、剣。少し離れるから何かあったら俺に知らせろ。それくらいは出来るだろ?」
と眠りについたナナミの側に横たわる剣に向かって話し掛けた。
しかし、返事がない。
どうやらまだ拗ねているようだ。
小さくため息を漏らして、剣を信じてその場から離れる。
一応、水のことを気にしながら山の中を進んでいるので、少し探索すると水が流れている小川に辿り着く。
二つの水筒に水をしっかりと入れて、すぐにさっきの場所へと戻る。
火に当たりながら熟睡しているナナミの横のボンサックに水筒を戻した。
その時、残り僅かの食料に目がいく。
仕方ない…今のうちに少しでもナナミが食べられそうなものを探しておくか。
と再びナナミを置いてその場から離れた。
虫や小動物ならすぐに確保出来るが、果たしてナナミがそれを受けつけるか分からない。
何より違う世界から来た人種だ。
何を好んで食すのか分からない。
…メキラの町では色々と抵抗なしに食べていた。
もしかしたら、あまり食文化に違いはないのかもしれない。
なら、魚や木の実の方がいいだろう。
とそんなことを考えていると、ふと昔のことを思い出した。
あの時もこんな山の中だった…
俺がまだ少年と呼ばれていた頃のことだ。
俺とジーナとあとジークもいた。
あの時の俺とジーナは当たり前だと思っていた普通の生活が一変して全てを失ったあとだった。
しかし、ジークは俺たちとは違って、山の中で一人で食料を調達することに長けていた。
いや、それだけじゃなくて山のことも熟知していたし、常に獣に対する警戒も怠っていなかった。
しかも、あの時も今のように追っ手に追われていた。
きっと、ジークなしではあの時、あの山を越えることは出来なかっただろう。
出会ったばかりのジークは恵まれた環境で生きてきた俺たちとはまるで違って、自分の命は自分で守るしか無いという人生を生きてきていた。
当時はとても同じくらいの年齢とは思えないくらいアイツは頼もしく思えた。
追っ手から逃げるため、山の険しい道を進んでいる最中、お腹を空かせた俺とジーナにジークは取ってきた食料をくれた。
しかし、そのほとんどが虫だった。
俺は躊躇しながらも食べたが、ジーナは無理だった。
虫だろうと食べられるものを取ってきてくれたジークに対してジーナはこんなの食べられないと文句を言って虫を地面に投げつけた。
正直、この時のジーナは目の前でたくさんのものを失って心身共に疲れていた。
普段のジーナならジークの優しさを踏み躙るようなことはしなかった筈だ。
そんなジーナを見兼ねたジークが今度はジーナに馴染みのある小さな魚と木の実を取ってきた。
すると、ジーナは泣きながらそれを食してジークに謝っていた。
ジークは表情を常に変えないので何を考えているのか分からなかったが、少なくともこの時のジークは少し微笑んでいたように俺は感じた。
そんな思い出に耽っている暇はないなと急いで俺は木の実と魚を取りに行く。
木の実は小さな袋に詰めて、魚は火で炙って荷物からパンと塩を取り出し、ナイフで魚の身だけをパンの上に乗せて塩で味付けしてから挟む。
明日の昼食はこれでいいだろう。
少し甘いかと思ったが、俺と町を追われたジーナも最初はこんなんだったなとナナミの顔に視線を向ける。
そして、俺は手短に栄養のある虫を食してから少し眠りについた。




