険しき山道①
日の出と同時に出発する。
その少し前にナナミを起こし、ナナミがメキラの町の飲食店の店主から貰った食料を食べ終えるのを確認してからの出発だ。
「ブルーも食べる?」
と気を遣ってナナミは俺に貴重な食料を手渡そうとした。
「俺はいいから自分のために残しておけ。この先まともな食料なんて確保出来ない。もし、それが無くなったら山の中の物を取って食べるしかなくなるぞ」
脅しのような冷たい返しに少しナナミの表情が曇った。
しかし、それが真実だ。
甘い言葉を掛けてもそれは変わらない。
夜明けと同時に山の中を歩き続けた。
剣くらいは俺が持とうかと思ったが、それも甘やかしかとやめた。
急斜面の所も幾度かあり、足場は常に悪い。
それでいて山に対する耐性がナナミにはまるでなかった。
ナナミの疲労はみるみるうちに顔に出ていた。
一応、歩くスピードは合わせて進んでいたが、一切止まることはしなかった。
最低、これくらいのスピードで進まなければ、何日掛かるか見当もつかない。
それにしても、ナナミの靴は酷かった。
とてもこんな山の中を歩くのに適しているとはとても思えない靴だ。
しかも、もうボロボロだった。
せめて、靴くらいは新調してから町を出れば良かったと反省する。
ずっと歩き続けて日中の半分を過ぎた頃、ついにナナミの足が止まった。
前を行く俺もそれに気づいて立ち止まる。
「どうした?」
膝に両手をついて息切れしているナナミに冷たく訊いた。
どう見ても疲れ切っている。
よくここまで一回も止まらなかったものだと感心するも、態度には出さない。
「…仕方ない少し休むか」
と近くの木にもたれかかるように座った。
そして、荷物の中から水が入った水筒を取り出して水分補給をする。
ナナミも同じように水筒を取り出して口にしていた。
…大丈夫か?
という質問は飲み込んだ。
『おい…お前少しはナナミのことを考えろよな。こんな山を進むなんてそもそも無謀なんだよ』
ナナミの座る横に置いてある剣が俺にいきなり文句を言い出した。
「アクエリアス…!」
それをナナミが声を荒げて止める。
「考えているさ。だからこそ山を進むことを選んだ。このルートなら奴らに襲われる心配は少ないからな」
と冷静に答える。
『ナナミのいた世界はこの世界とは違う。向こうの世界で育ったナナミにこんな山を越えるのは無理だ!』
「だからこそだ。向こうさんのルーラーもそれを知っている。なら、俺たちがこのルートを通るなんてことは考えない筈だ」
間髪入れずに剣に反論する。
「それとも安全な道で襲われる方を選ぶのか?メキラの町で襲われたクラスのルーラーに次々と狙われるぞ。悪いが初めから戦いに巻き込まれると分かっていて協力は出来ない。その時は自分たちの力だけで行ってくれ」
『この薄情者!何がファーシルの教えだよ!助ける気なんて初めから無いじゃねぇか!』
剣が激しく揺れる。
「もう、いい加減にして!」
とナナミが怒鳴った。
「ブルーの言う通りだよ。私たちが狙われないように敢えて考えてこの道を選んでくれているんだから、文句言わないでアクエリアス。私のためを思って言ってくれるのは嬉しいけど、私は大丈夫だから…」
ナナミが剣にそっと手を置いた。
すると、それから剣は文句を言うのを止めたらしく、しばらくは普通の剣として大人しく振る舞っていた。
そして、そのあと俺たちはすぐにその場から離れるように先を進んだ。
日中でも山の中は薄暗く、暑くなったりひんやりと涼しくなったりと所々でまばらだった。
それもナナミの体力を著しく奪っていく。
既にさっきよりもペースが落ちてきている。
だが、日中の間になるべく進んでおきたい。
少しナナミとの距離が空いても強引に前を進んだ。
夜になっても明かりを灯しながら進んでいくことは出来る。
…だが、それは獣に襲われる可能性もあるうえに何より歩きにくい。




