七つの大陸②
だって、その方が素敵じゃない。
こんなつまらない世界だけなんて、私にはあまりにも残酷だからだ。
そんなことを思いつつ、六倉さんの指を見つめているとその指が動いたのに気がついて慌てて集中する。
タサンより北、ルーゴフェルベの西に位置する大陸だ。
「最後にこの大陸。銀海と呼ばれるきらきらと輝くことがある美しい海に囲まれたファーシル王国です。緑も豊で作物も豊富です。ここはルウの発祥の地でもあり、ルウの発展が最も優れています」
どこかしら六倉さんの説明に力がこもっているように感じた。
「ルウ」の発祥の地。
この王国から「ルウ」は世界へと広まっていったのかと、ファーシル王国を見つめる。
「…ただ、国王が亡くなってからは良くないですね。王の跡目争いが難航して王国は混乱…更に各地で反乱が絶えない状況でかつての豊かさはもうありません」
六倉さんの言葉に私は目を丸くする。
それに気づいた目の前の六倉さんがクスッと笑った。
「…という設定ですよ。でも、そういう過去現在があった方が七海さんの妄想もより深いものになるだろうというお手伝いです」
その年甲斐もない無邪気な表情に自然とこちらも気を許してしまう。
「ありがとうございます。とても素敵なお話でした」
自然と笑みが溢れた。
こんな表情が普段から出来ていたら、私は決してこんな私ではなかっただろう。
「いえ、少し話が長くなり過ぎましたね。七海さんが相手だとついつい調子づいてしまっていけません」
六倉さんがどこか申し訳なさそうに地図を手に取った。
「またまた。六倉さんは相変わらずお世辞が上手ですね?」
「お世辞じゃありませんよ。だって、そんな情熱的な目で見られてはこちらも気分は良くなりますからね」
六倉さんの褒めるような言葉が私の心をズキっとさせた。
…六倉さんは普段の私を知らない。
きっと、普段の私を知ればがっかりするだろう。
「今日のお話はここまでです。すっかり遅くなりましたね…申し訳ありません」
と六倉さんが謝る。
「い、いえ、とんでもない。素敵なお話をありがとうございました。また、聞かせてくださいね」
と会釈する。
「ええ、近いうちに是非」
そして、名残惜しい気持ちを抱きながら、六倉さんに見送られて店をあとにした。
店の外に出ると辺りはやや薄暗いものの、まだ完全に暗くはなっていないので、すっかり暗くなってしまうまでにと帰路を急ぐ。
だが、どうにも虚無感が込み上げてきて足が進まない。
店から出た私はまるで魔法を解かれたシンデレラのようだ。
…いや、果たしてそんないいものなのだろうか?
シンデレラは物語の主人公。
どんなに惨めな境遇にあってもそれは変わらない。
私は確かにシンデレラほど酷い境遇ではないし、恵まれている部分は多い。
…でも、私は物語の主人公にはなれない。
いや、主人公どころか登場人物ですらなれないだろう。
きっと、物語の中にも入れないただの人物。
…そう永遠に脇役すらなることはない。
なんて、馬鹿げた思考を巡らせながら、徐々に歩くスピードを速めた。




