七つの大陸①
俯いていた顔をパッと上げて、すぐにそれへと視線を向ける。
古びた世界地図。
世界地図と言っても、私たちがよく知る世界地図ではない。
おそらく「エヴァ」の世界の地図だ。
「正解です。お察しの通りの地図ですよ」
六倉さんが答えた。
「…まだ、何も言ってませんよ私」
と少し剥れる。
「言わなくても表情で分かります。七海さんはとても素直な方ですから」
六倉さんに揶揄われて、きっと私は顔を赤らめてしまっているだろう。
でも、正直のところそんなことはどうでもいいくらい目の前の地図に釘付けだった。
地図に視線を向けると地図はすっかり色馳せており、端はぼろぼろでラミネートしていなかったら触るだけで破けてしまいそうな印象だ。
そこがまた私の好奇心を向上させていく。
地図にはいくつかの大陸が描かれていた。
中央には他の大陸より少し大きめの大陸がある。
その左右にそれぞれひとつずつ、上に二つ、下にも二つの大陸があった。
合計7つ。
六倉さんが言っていたように「エヴァ」には七つの大陸が存在して、そのそれぞれの大陸の周りには海がある。
七つの海。
それはまるで私の名前そのもの…これにファンタジー症候群の私が何か運命を感じないわけが無い。
目の前の地図に自分勝手にわくわくしていると、六倉さんの指がスッと地図の真ん中を示した。
「この真ん中にある大陸はルーゴフェルベです。帝国であり、かつては武力を振りかざし世界を支配していました。まあ、現在は以前ほど力はありません」
と六倉さんがまるで「エヴァ」が存在して、今尚その世界の時間が流れているような言い方で話す。
きっと私の妄想心を煽ってくれているのだろう。
現実に引き戻されるような冷めたことをなるべく言われたくない私には非常に有難いことだ。
「そのルーゴフェルベの周りの海は竜海と呼ばれています。名前の通り一度暴れ出すと手が付けられない危険な海です」
六倉さんが少し真剣な眼差しで語る。
それに思わず固唾を呑んだ。
そして、六倉さんの指がルーゴフェルベから左上に動いた。
方角で言えば北西。
「ここは石海と呼ばれる海に囲まれた王国モデウスアスです。他の国よりも自然が豊でこの国の城や街はほとんど森の中にあります。そして、石海はその名の通り重みのある海で時に船を沈ませることもあるほど船乗り泣かせの海ですね」
六倉さんの指が今度は右に動く。
モデウスアスから東、ルーゴフェルベから北東に位置する大陸で六倉さんの指が止まる。
「続いてこの大陸は白海と呼ばれるなんとも美しい海に囲まれたマンモ公国です。ただ、綺麗な海とは反対に大陸は緑が少なく砂漠が多い。常に気温が高いので住みやすさでは世界の中でも下の方です」
六倉さんの話を餌に頭の中で妄想する。
想像の中で一瞬、綺麗な白い海の先に暑さで乾涸びたような砂漠が見えた。
続いて六倉さんの指が私の方へと下がる。
マンモ公国から南、ルーゴフェルベから東に位置する大陸だ。
ルーゴフェルベよりは少し小さいが、他の大陸よりは大きい。
「ここはヴィアレタン王国。周りの海は神海と呼ばれるほど、まるで神様に加護されているような穏やかな海のため、海に出やすく貿易が盛んで世界で最も栄えている国です。あまりの豊かさに他の国から移住を求めてやってくるため、人口が一番多いんですよ。街には店がたくさんあって、何よりあそこは物がありますね」
六倉さんがまるで見てきたように話すものだから、おかげで妄想が止まらない。
そして、六倉さんの指が次の大陸へと動く。
ヴィアレタンから南、ルーゴフェルベから南東に位置する大陸。
「ここはベルバブゼ。常に蜃気楼が発生している虚海に囲まれた王国で、どの国よりも一番気温が低くため、ほぼ毎日が雪国です」
そう言い終えた途端に六倉さんの指が横へと移動する。
おそらくあまり遅くなると私の帰路が暗くなるため、時間を気にしてくれているのだろう。
そのため、やや初めよりも早口に感じる。
「滅海と呼ばれる海に囲まれたタサン王国です。一日の夜の時間が非常に長くて日が当たる時間が極端に短いため、あまり作物や木や植物が育たないのが特徴ですかね」
ルーゴフェルベから南西に位置する大陸だ。
六倉さんの説明に私は何の疑いも抱かないでうんうんと頷いていた。
きっと想像の世界の説明をこんなにも信じて聞くのは私ぐらいだろう。
…勿論、私も想像の世界だということは頭では理解している。
ただ、そんな世界があって欲しいと信じたいのだ。




