白雪
「お前は白雪である前にジーナだ。ジーナが全てのことを背負う必要なんてないだろう?」
あの日、俺は海賊団レインボーフラッグの団長である白雪に久しぶりに会うことが出来た。
ヴィアレタンにおいてのレインボーフラッグの名誉はもう戻せないほど地に落ちてしまっていた。
何がどうしてこうなった…?
分からない…それだけレインボーフラッグはあまりにも大きくなり過ぎたのだろう。
ヴィアレタン王国は兵を挙げてレインボーフラッグの団員の討伐と団長である白雪を血眼になって探している。
正直、早く白雪…いや、ジーナを安全なところへ避難させないといけないというのに、目の前にいるジーナはまだヴィアレタンの地に留まっていた。
俺はレインボーフラッグのメンバーの保護や逃亡の手筈を整えるのに追われて、しばらくジーナから離れていた。
そして、てっきりもう違う国へと避難しているとばかり思っていたジーナがまだヴィアレタンにいると聞き、急いで駆けつけたのだ。
「ブルー…」
とある町の民家の地下にジーナは身を潜めていた。
その地下の一室で俺はジーナを説得している最中だ。
ランプの灯に照らされてジーナの白い髪と白いドレスがオレンジ色に染まる。
俺に説得を受けているジーナは悲しげな表情を浮かべていた。
「頼むから早く安全な場所へと逃げてくれ!もう二度とこの国は俺たちを受け入れてはくれないのだから…」
躊躇い続けているジーナについつい声を荒げてしまう。
「…お願い。怒らないで…」
と悲しげな表情で俺に訴えた。
「…悪かった。でも、ジーナのことを思って言っているんだ」
少し落ち着こうとジーナが座っている椅子の横にあるベッドの上に腰掛けた。
「…分かっている。でもね…私は団長なの…事を収めないといけない責任が私にはある」
と分からず屋の台詞を吐いた。
昔からジーナは責任感が人一倍強い。
幼馴染である俺がそれを一番よく分かっている。
だから、俺たちの団長になった。
…でも、今のジーナは責任感ということで逃げないと言っている訳ではないことくらいは知っている。
ジーナは昔から困っている人たちを放っておけない性格で何かあるとすぐに首を突っ込んでは俺たちを困らせていた。
最早、病気だ。
だから、ジーナがこの国から逃げれば困る人たちがいることを知っていて、きっとジーナはそれを見過ごすわけにはいかないのだろう。
どちらにしろレインボーフラッグはもう終わりだ。
俺からしたら出来るだけ皆を助けてやりたいが、そうはいかない。
実際、自分の命は構わないから白雪を助けてあげてくれと言う者たちがたくさんいる。
それだけ皆んなにとって白雪の存在は偉大なんだ。
「…出来るだけ俺たちがなんとかするから、ジーナはとりあえず逃げてくれ。もう、団長が出て行ってどうにかなるレベルではなくなっているんだ…」
と俺は頭を抱えながらジーナにそうお願いをした。
「ブルーは…ううん…レインはどうするの?」
ジーナが俺の手に触れて訊いた。
レインは俺の本当の名だ。
ブルーはレインボーフラッグの前身である七旗を立ち上げた時に付けた名である。
俺は顔を上げて答えた。
「…出来るだけのメンバーを逃してやりたい。やるだけのことはやる」
俺の返答にジーナの表情が曇った。
「…心配するな俺も命は惜しい。必ず逃げてジーナの元へ帰るから、先に行っておいてくれ」
と優しい表情でジーナの頬に触れる。
今すぐ抱きしめたい衝動をグッと堪えた。
すると、ジーナが俺に抱きついた。
それを優しく抱きしめ、ジーナの白い頭をそっと触れる。
「約束して…必ず生きて私の元に帰ってくるって…」
ジーナが泣きながら耳元で言った。
いつもはレインボーフラッグの団長の白雪として毅然とした振る舞いを見せてきた女とは思えないくらいに腕の中の彼女は弱々しかった。
「…ああ、約束する。無事に逃げ遂せることが出来たら白雪とブルーではなく、ジーナとレインとして余生を暮らさないか?」
優しくジーナを抱きしめたまま、俺はそう告げた。
「…嬉しい。私もそう思ってた…レインともう離れたくない…だから必ず帰ってきて…」
ジーナの言葉と温もりを心で感じながらも、この時の俺は嘘をついていた。
死を無くしてはきっとジーナを守れはしない。
だから無謀にもこの時の俺はヴィアレタン王国に真っ向から衝突する覚悟をしていたのだ。
暫しの時間をジーナと共にしたあと、俺はジーナを残してこの場を離れた。
…これが生きているジーナと会った最後だった。
この日から二ヶ月後、レインボーフラッグの反乱は団長・白雪の自らの死によって終止符を打たれる。
そして、海賊団レインボーフラッグは解散した…
…こうして俺は全てを失った。




