期間限定の旅の始まり②
そんな私の心情を悟ったのか、ブルーさんが優しい表情で私に話し掛ける。
「そんなに落ち込むな。要はファーシル城に辿り着ければいいのだろう?そこまでなら案内することは出来るがどうする?」
ブルーさんの提案に驚く。
「えっ!いいんですか!?」
と歓喜の声を上げたが、すぐに冷静になって考える。
ブルーさんは旅人であり、これは私の事情だ。
二度も危ないところを助けて貰ったのに何の恩返しも出来ないどころか更に助けてもらおうとしている。
それはあまりには迷惑だと思った。
「…でも、何も関係のないブルーさんを巻き込んでしまうのはあまりにも…」
とせっかくの提案を断ろうとする。
「…何を言っている。もう手遅れだ」
「えっ…?」
ブルーさんの言葉に私は思わず狐につままれた顔をしているに違いない。
「すでに巻き込まれている。さっきの戦闘で俺はあいつらに楯突いた。いくら関係ないと否定しても、次からは例えその場に俺だけしかいなくとも容赦なく襲われるだろうな」
とブルーさんが笑う。
その笑みにどこか余裕すら感じる。
それくらいブルーさんは強いということなのだろう。
「だったら、一緒に旅して狙われる方がまだマシだろ?」
「…私は嬉しいです。でも、何でそんなに私に優しくしてくれるんですか?」
素直にブルーさんの優しさを受け入れられなかった。
ブルーさんを疑う気持ちは全くない。
むしろ信頼出来ると心から思っている。
…だからこそ、どうしても巻き込んでいいのかと悩んでしまうのだ。
「ファーシルの教え」
ブルーさんが急にそんなことを言った。
「えっ…えーっと…困った時は助け合うのがファーシルの教えでしたっけ?」
ファーシルの教えという言葉に奴隷商人の顔とコナンさんが顔が浮かんだ。
「ああ、らしいな。ファーシルのお姫様なんだろ?なら、その教えに沿って助けてもらうのも大事なんじゃないか?」
ブルーさんが言った言葉に悩んでいたモヤモヤが晴れたような気がした。
「そうですね。ファーシルの姫がファーシルの教えに背く訳にはいかないですよね?」
と思わず笑ってしまう。
釣られてブルーさんも笑った。
「ところでまだ名前を聞いていなかったな。あんたは俺の名前を知っていたようだが…」
「ブルーさんに助けて貰った店のお客さんがブルーさんのことを知っていて教えてもらいました。私の名前は七海です」
「ブルーで構わない。あと敬語もいらない。どうも敬語は苦手だ…」
とブルーさ…ブルーが言った。
「…わかった。よろしくブルー」
自分の言葉の不慣れを感じながら、自然に手を差し出した。
「ああ、こちらこそよろしくなナナミ」
とブルーと握手を交わした。
『くれぐれも足手まといになるなよな』
とずっとだんまりしていたアクエリアスが急に喋り出す。
「アクエリアス!」
と思わずアクエリアスを叱りつける。
「その剣捨てていっていいか?」
ブルーがアクエリアスを指差して言った。
「だ、ダメ!アクエリアスは六倉さんから預かった大事な剣なの!」
とアクエリアスを守るようにブルーから遠ざける。
するとブルーが笑い出す。
「知っている。冗談だ…剣相手に本気では怒らないさ。剣相手にはな」
とどこかアクエリアスを挑発するようにブルーが言った。
『何だと!さっきから剣剣って馬鹿にしやがって!俺様はただの剣なんかじゃないんだぞ!』
アクエリアスがブルーの挑発に乗って怒り出す。
「…ほう?たしかにただの剣じゃないな。ただの剣の方が静かでお利口だ」
とブルーが更に煽る。
『何だと!?叩き斬ってやるから近くに来やがれ!』
アクエリアスが私の腕の中でバタバタと暴れ出した。
…もう!
いきなりこれじゃあ先が不安だ…
こうして、このすっかり暗くなってしまったメキラの町の広場から私たちの旅は始まった。
ファーシル城に着くまでの期間限定の旅。
…だけど、その旅は予想以上に過酷なものになってしまうとはこの時の私もアクエリアスもそしてブルーすら予想していなかった。




