期間限定の旅の始まり①
どうやら「ルウ」の中には移動する力もあるらしい。
まあ、次元を越える力が存在するなら、瞬間移動の力くらい当然といえば当然か…
地面に振り下ろした剣を肩に掛けている鞘に収めながら、ブルーさんが私の方へとゆっくりと歩み寄る。
「大丈夫か?」
そう言って、ブルーさんが地面に尻もちをついてしまっている私に手を差し伸べる。
突如、見たこともないような出来事が目の前で繰り広げられて心がとても追いつけず、やや腰が抜けかけていたのだ。
「…はい、何とか大丈夫です」
私は右手を出して、ブルーさんに引っ張り立たせてもらった。
すると、左手に持っていたアクエリアスが邪魔をするように上下する。
「ち、ちょっとアクエリアス?危ないからやめて!」
危うく体勢を崩し掛けてしまいそうになったので、咄嗟に声を荒げた。
『ふん』
と何やらアクエリアスはご機嫌が斜めの様子だった。
きっと私がブルーさんに助けてもらったのが気に食わないのかもしれない。
六倉さんから私のことを任されていたのに、私を助けたのが違う人だったからだろうか…?
でも、そんなことで拗ねるアクエリアスが少し可愛く思えた。
「どうやら逃げたようだな…」
ブルーさんが遠くを見ながらそう言った。
「…また、助けて頂いてありがとうございます」
そうお礼を言って、ブルーさんにボンサックを手渡す。
「…一体、何に巻き込まれている?あのレベルのルーラーに命を狙われているなんて相当なことだ。まあ、話したくないのなら別に無理に答えなくても構わないが…」
ブルーさんが私から受け取ったボンサックを肩に掛けながらそう話す。
「…いえ、お話します。二度も助けて頂いたのに説明しない訳にもいきませんし…」
とブルーさんに全てを話すことを決めた。
アクエリアスがそれを拒んだり邪魔したりするのかと思ったら、意外なことに普通の剣らしく大人しくしている。
私たちは噴水の近くのいくつか置いてある椅子代わりの石の上に座った。
辺りはすっかり薄暗くなり、もう少しで完全に夜になってしまうだろう。
でも、そんなことは気に留めず、ブルーさんに全てを話した。
私がこの世界とは別の次元の世界に住んでいたこと。
この「エヴァ」には六倉さんに連れて来てもらったこと。
私は実はこの「エヴァ」の人間で、この地ファーシル王国の王の娘ナリアだったこと。
ファーシル王の弟君である大臣に命を狙われたため、十六年前に六倉さんによって向こうの世界に身を隠したこと。
六倉さんとこの世界に来てすぐにイシスという女ルーラーに襲われたこと。
六倉さんが私に託してくれたアクエリアスが森の中で私を助けてくれたこと。
話し終えた時、辺りはすっかり暗くなっていた。
薄暗くてはっきりとは見えないものの、些かブルーさんの表情が険しいものに変わっている。
私が全てを話したあと、暫しの沈黙が流れた。
ブルーさんは何やら考えている様子で、その難しい顔をしているブルーさんに何て声を掛けていいのか分からずにただ黙ってブルーさんの言葉を待った。
すると、ブルーさんの表情に変化があった時、ブルーさんが沈黙を破るように話し出す。
「…すまない。あまりの空前絶後の話に頭の中で整理がつかなかった…つまり、あんたはこの世界で産まれたけれど、俺の知らない違う世界が存在していて、そこで育ったということか?」
ブルーさんの言葉に私はこくりと頷いた。
「…はい、そうです。信じられないかもしれませんが…ていうか私自身もまだ信じ切れてはいないですけど、本当の話なんです」
…そうだ。
無理矢理納得はしていたが、まだ心の奥底ではこれは夢なんじゃないかって思っている私がいる。
私が答えたあと、また暫しの沈黙が続いた。
その沈黙をまたブルーさんが破った。
「…要するに今はファーシルの正統なる後継者のあんたを邪魔だと思っている大臣の差し金であるルーラーたちに命を狙われているんだな?」
ブルーさんの言葉に再度頷く。
「…でも、まさか六倉さんの言っていた人まで大臣側のルーラーだったとは思いませんでした」
「まあ、裏切ったのには何かそれなりの理由があったのかもしれない。もしかしたら、意図的に裏切らされた可能性もある。例えば親しき誰かを人質にされたとかな…」
ブルーさんの言葉にハッとなる。
その可能性には辿り着かなかったからだ。
「まあ、あくまでこれは憶測だ。単に初めから寝返るつもりでそのムツクラの仲間のふりをしていただけかもしれないしな」
たしかにノアニールさんが裏切った理由は気にはなった。
しかし、今の私にはそれよりも唯一のアテが無くなってしまったことの方が大事だ。




