ファーシルの教え④
男が私のところに来て乱暴に私の髪を持ち上げたのだ。
その拍子にアクエリアスが床に落ちた。
「痛い!離してください!」
「身なりは変なくせに立派な剣を持っているじゃないか?まあ、これは主人の貢ぎものとして貰っておいてやる」
と男が私の髪の毛を離して、床に落ちたアクエリアスを拾い上げる。
「やめて!返して!」
アクエリアスを取られて思わず声を荒げて、男から剣を取り返そうとした。
すると頬に激しい痛みを感じた。
男が拳で私の頬を叩いたのだ。
その勢いで私は床へと倒れた。
「おい!」
男がそう大きな声を出すと、店の中に別の二人の男が入ってきた。
二人とも大きながたいをしている。
「お呼びで?」
「ああ、こいつを連れて行け。今日から私の新しい奴隷だ」
男の言葉に頬を押さえながら、何とか逃げないとと立ち上がる。
しかし、付き人の片方の男に右手を掴まれてしまう。
「おっと、逃がさないぜ。諦めな、今日からお前はこのお方の奴隷として生きて行くんだ」
と私の手を掴んだ男がケラケラと笑う。
力いっぱい抗うも、私の力なんかで振り解ける筈もなかった。
…誰か…誰か助けて!
恐怖で声を出せない代わりに周りを見渡した。
しかし、誰も助けてくれそうにない。
店の者たちは見て見ぬふりをしている。
周り客は関わらないようにしている。
アクエリアスも応答がないまま…
駄目だ…このままじゃ本当に奴隷にされてしまう。
…でも、私じゃどうしようも出来ない。
全て嫌になって逃げてきた世界で奴隷だなんて…きっと罰が当たったのだ。
…ごめんなさい六倉さん。
ごめんなさい…お父さん…お母さん…
自ずと涙がこぼれ落ちた。
その時だった。
何かが私の横で動くのを感じた。
「やめろ」
男の声だった…
私を無理矢理連れて行こうとしている者たちとは別の…
「何だ?お前は?」
私の手を掴んだ男がその声の主に問いただす。
身動きが取れない私からは声だけで男の顔は見えない。
「聞こえなかったのか?やめろと言ったんだ」
誰かは知らないけれど、誰かが私を助けようとしている。
…でも、この強そうな男たちに逆らったら、この人も痛い目に遭ってしまうかもしれない。
「何だ貴様は?これは私事だ口を挟まないで貰いたいね」
私を奴隷にすると言った男が答えた。
すると、私が食事したテーブルにこの世界のお金と思われるものが置かれた。
「この娘の食事代だ。これで文句はないだろう?早くその手を離せ」
「残念だが、そういう問題じゃあないんだ。痛い目に遭いたくなければ、それをさっさと引っ込めてどこかへ去れ」
金色の髪の男の言葉に私を助けようとしてくれた男がテーブルの上のお金を再び手に取った。
「そうだ。分かればいいんだ」
…私としては複雑な心境だったけど、私の代わりにお金を払って助けようとしてくれた人が酷い目に遭わないことを安堵した瞬間、私の手は自由になった。
気がつくと私の手を掴んでいた男が床に倒れていたのだ。
…一体、何が起きたの?
と私は横に立っている男の人を初めて見た。
パッと見て、すぐにその印象的な青い髪が目についた。
長くも短くもない少しボサついた青い髪。
服の上に灰色のマントのようなものを羽織った割と長身の男の人だ。
この出会いが私のこれからの人生においてとても重要なものになるとは、まだこの時の私は微塵も予想していなかった。




