ファーシルの教え③
そう促されて、私はテーブルの端に店員が置いたフォークとナイフを手に取った。
この世界でもフォークとナイフを使って食べるのは一緒のようだ。
「…あの…あなたは食べないのですか?」
にこやかに私を見つめている男性に訊いた。
「私はさっき食べたところでね。さあ、構わないから遠慮なく召し上がれ」
そう言われ、料理に手を伸ばした。
そして、口に入れる。
…美味しい!
久しぶりの食事に思わず歓喜する。
お腹が空いているのもあるけれど、この店の料理がとても美味しかった。
あまりの美味しさについつい次から次へと口に食べ物を運んでしまい喉を詰まらせてしまう。
「あははは。よほどお腹が空いていたんだね?さあ、水を飲みなさい」
と男性が水の入ったコップを私の近くに置いた。
それを手に取り、喉に流し込む。
「…あ、ありがとうございます」
「ゆっくり食べるといい。料理は逃げないからね。足りなかったら遠慮なく言って」
と男性が笑う。
それに少し恥ずかしくなる。
自分でも驚くほどに食べた。
普段、絶対に食べたりしない量だ。
それだけ私にとっては過酷な時間を過ごしたのかもしれない。
夢中で食べてしまっていて、あまり会話をしていないことに今更ながら気がついた。
失礼だったかなと、少し申し訳なく感じる。
「…すみません。黙々と食べてしまっていて…」
「あはは、気にしなくていいよ。おかわりはいるかい?」
「…いえ、もう充分です。本当にありがとうございます」
…まだ少し食べられなくもないが、これ以上は悪いと男性の申し出を断る。
「…そうか、それは良かった」
と男性が笑顔をみせた。
「…ところであなたは何で見知らぬ私にこんなに良くしてくれるんですか?…やっぱり助け合うのがファーシルの教えだからなんですか?」
「主人が奴隷の食事の面倒を見るのは当然だからね」
「えっ…?」
男性の言葉に一瞬、固まった。
…奴隷?
「ああ、たった今から君は私の奴隷になるんだよ」
男性の表情が豹変する。
「…奴隷だなんて私なりません」
と慌てて否定する。
「おいおい…こんなに食べておいてそれはないだろう?」
目の前の男性がさっきまで向かいに座っていた男性と同一人物とはとても思えないくらいの豹変ぶりだった。
「だって、それは困った時に助け合うのがファーシルの教えだと…」
私がそう反論すると、金色の髪の男が高笑いした。
「ファーシルの教えだと!?そんなもの今のファーシルでそんな言うやつなんて老人くらいなものさ!大体、王国自体がすでに助け合いを通り越して歪み合っているのに、民が助け合う筈がないだろ?」
男が席から立ち上がって声を荒げた。
…これがこの男の本性。
「だからって食事だけで奴隷だなんて…」
と小さめの声で反論した。
「食事だけだと!?この国でまともに食事が出来ない人間がどれだけいると思う?食事だけで充分奴隷にする権利はあるってものだ!」
男の威圧感にすっかり気圧されてしまう。
「…嫌です。奴隷なんて私、嫌です!」
気圧されても何とかしないとと奴隷になることを必死に否定する。
「だったら、今すぐここの食事代を払って貰おうか?」
「…えっ?」
…そんなこと出来る訳がない。
だから、この男は私がお金を持っているのかを確認したんだ…
何で見抜けなかったんだろう…私、馬鹿だ。
「ん?どうした?奴隷が嫌なら今すぐ払え。出来ないなら私の奴隷になるしかないな」
…怖い。
顔を下げて膝に置いていた剣をぎゅっと握った。
助けて…アクエリアス!
すると、急に髪の毛をぐいっと引っ張られて顔を無理矢理上げられた。




