ファーシルの教え②
「…あの…まだ何か?」
この人が悪い人ではないと分かったけど、人と話すのが苦手な私はこの人が六倉さんの言っていた人じゃない以上、あまり関わりたくはなかった。
「まあまあ、そんなに警戒しないで。見たところ服も汚れているし、探し人がなかなか見つからなくて困っているんじゃないか?私で良ければ力になるよ」
関わるのが苦手な理由だけでこの男性優しさを邪険に扱うのはなんだか胸が痛んだ…
この世界で変わるんじゃなかったの…?
その時、私のお腹がぎゅるると鳴った。
「おや、どうやらお腹が空いているようだね?」
恥ずかしい音を聞かれてしまって思わず俯く。
「…昨日から何も食べていなくて」
最後に食べたのは学校の昼休みのお弁当だ。
アクエリアスに空腹感と喉の渇きを癒してもらったが、実際に何か食べたり飲んだ訳じゃないので、流石にお腹が空いて喉もカラカラだった。
「食べるものを買うお金は持っているのかい?」
男性の言葉に首を横に振った。
「そうならそうと早く言ってくれればいいのに。何か食べに行こう。お金のことは心配しなくていい」
と男性が優しく私の手を掴んだ。
「い、いえ、そんな知らない方にご馳走してもらう訳にはいかないので…」
再び首を横に振って、男性の好意を断った。
「なあに、困った時は助け合うのがファーシルの昔からの教えだ。遠慮することはないさ」
ファーシルの教え…
その言葉にどこか安堵する。
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
そう答えると男性はにこやかに、さあこっちへと私を誘導した。
少し躊躇いもあるが、それについて行く。
変わらなきゃ…
一人でこんな世界で生きていける筈がないのだから。
「さあ、この店にしよう」
と男性に連れられて一軒のお店の前に辿り着いた。
店外から見る限りでは結構大きなレストランのような印象を抱いた。
そして、店内から漏れてくる匂いが私の食欲をそそる。
男性に続いて店の中へと入っていく。
中にはカウンター席とテーブル席があって、私の知っている飲食店とさほどイメージは変わらない。
店内には割とたくさんの客がいた。
私を連れてきた男性はカウンターの向こう側にいる店主だと思われる男性に声を掛ける。
「この子に何か美味しいものを。お腹を空かせているんだ」
「分かりました。席にお持ち致します」
と言葉を交わしたあと男性は私を店の奥の方にあるテーブルへと案内した。
男性に促されて席に座る。
それを確認した男性が優しく笑みを浮かべて向かいの席に座った。
「どうやら、色々と苦労したようだね。お金も持っていないなんて…」
男性の言葉に実は違う世界から来たんです…なんて言える訳がないと、理由は何にしようかと頭を必死に巡らせる。
「大丈夫、理由は聞かないから安心していいよ。人には人の事情がある。ただ、困っている人を放っておけなかっただけだから…」
目の前の男性の優しい言葉に、この世界に来てこんな優しい人に出会えて良かったと安堵した。
ファーシルにはもうかつての豊かさはないと六倉さんが言っていたので、てっきり悪い人ばかりいるとどこかで思っていたのかもしれない。
「ありがとうございます…」
「いいよ、お礼なんて。さっきも言っただろう?困った時は助け合うって」
と男性は金色の前髪を右手で直しながら言った。
「お待たせしました」
と女性の店員さんが料理を運んできた。
そして、私の前に料理を並べる。
見た目には何が何の料理とまでは分からないけれど、肉料理やパスタのようなものなど何品かが、私の前に並べられた。
匂いから間違いなく美味しいと理解する。
「さあ、遠慮なく」




