怖い夢
「七海」
私を呼ぶ声に目をゆっくりと開く。
するとリビングのソファで寝てしまっていた私を両親が優しく起こしてくれたことに気がつく。
「あれ?私は何してたの?」
寝ぼけ顔で目の前の優しい表情の父と母に訊ねた。
「晩ご飯のあとにソファの上で寝てしまっていたのよ」
と優しく母が説明する。
「ちゃんとお風呂に入ってベッドで寝ないと風邪を引くぞ」
と父も優しい表情だった。
「うん…何か私…変な夢を見ていた」
「ん?どんな夢を見ていたんだい?」
と父が私に優しく訊いた。
「お父さんとお母さんは私の本当のお父さんとお母さんじゃなくて、それを知った私はショックからこの世界を捨てて別の世界に行くの…」
私の言葉に両親が顔を見合わせて笑い出した。
「七海が私たちの本当の子供じゃないって?何を言ってるのこの子は?」
母が変なことを言った私を笑った。
「よっぽど怖い夢を見たんだね」
父が可哀想にといった表情を作る。
「あなたは私がお腹を痛めて産んだ子よ。私たち以外、他の誰の子でもないわ」
と母が私をぎゅっと抱きしめた。
それに心から安堵する。
…一体、私は何の夢を見ていたんだろう?
きっと長い悪夢を見ていたに違いない。
お父さんとお母さんが本当の両親でない筈がないじゃないか。
それにこの世界以外に別の世界が存在する筈がないし、こんな素晴らしい世界を捨てて、違う世界なんか行く理由もない。
母の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
眠い…まだ眠り足りない。
今度はきっといい夢を見れるといいな…
と私は再び眠りについた。
『ナナミ!』
誰かが私を呼んだ。
声が聞こえたというよりは、直接頭に話しかけられたような感覚…
「誰…?」
そう口にした瞬間、目が覚めた。
すると、土と草木の匂いが私を現実に引き戻す。
やっぱり夜が訪れて、辺りはすっかり暗くなってしまった。
何だ夢か…
私は両親の本当の娘だった…そんな当たり前のようなことが今は夢なのだ。
そして、こんな世界に迷い込んで知らない森の中の地面に寝転がっている方が現実なのだから滑稽で仕方がない。
ファンタジー症候群…
何がファンタジーだ…実際はこんなものだ。
あの世界ですら適応出来なかった私がこんな世界でやっていける筈がない。
「エヴァはあなたを優しく迎えてくれますよ。七海さんならきっと」
六倉さん…ロックさんが言っていたことを思い出す。
その言葉で私は決心した。
何も考えずにただ現実逃避したいだけのファンタジー馬鹿の頭の私が…
ロックさんは悪くない…
分かってる。
私が一番嫌なのは私。
もう、嫌だ…
ロックさんは森を抜けて町へ行ってと言っていた。
まさかこんなところで私が泣きべそをかいているとは思わないだろうな…
…ごめんなさいロックさん。
私は本当にダメなんです…
目を汚れた腕で覆った。
涙が止まらない…
悔しさ?寂しさ?怖さ?
どの感情か最早分からない。
ただ、暗闇の森の中で泣き続けた。
…家に帰りたい。
あの夢の中のような家に…
『ナナミ』
また、聞こえた。
今は目が覚めているからはっきりと分かる。
耳で聞こえたのではなく、直接頭に入ってくる感覚…
泣くのをやめて、上体を起こし辺りを見渡した。
ロックさんが私のことを頼んでおいたという男の人?
たしかに声は男の人のものだ。
しかし、辺りには誰の姿もなかった。
薄暗くてはっきりとは見えないけど、人の気配を感じない。




