森の中
草原を走って森へと辿り着く。
普段からこんなに走ったことなんてなく、息を切らしながら木にもたれかかるように休んだ。
せっかくロックさんに制服を乾かしてもらったのに、体中に汗をびっしょりとかいている。
…ロックさんは大丈夫なのだろうか?
森の中から今しがた走ってきた草原を見返した。
しかし、ここからは何も見えない。
追っ手がこないということはロックさんが足止めしてくれているということだろう。
進まなきゃ…
森を抜けると町が見えるとロックさんは言っていた。
そこに私を助けてくれる人がいるとも…
なら、ゆっくりしている場合ではない。
木から体を離して、足場の悪い森の中を進んでいく。
初めこそは割と軽いと思っていた抱きかかえている剣が今は結構な負担に感じてきた。
これさえなければもっと身動きが取れるのに…
「七海さんの役に立つ筈です」
ロックさんの言葉を思い出す。
あの女性ルーラーも「ルウ」の力を宿した「メア」だと言っていたし、きっと私にとって大事なものなのだろう。
…でも、少なくとも今の私には役に立つとは思えない。
草原を走ってきただけで、すでに足が悲鳴を上げていて、体力的にももうあまり長い時間歩ける自信がない。
とはいえ、こんな森の中でゆっくり休めるとは思えないし、さっさと森を抜けて町で休む方が絶対いい。
と意気込んで森の中を進んでいく。
しかし、五分もしないうちにその意気込みは消失する。
私の知っている世界では森の中でもある程度整備された道があるし、ないところなんて普通は歩かない。
でこぼこ道にバランスを何度か崩しそうになるし、木の根に何回か足が引っかかって転びそうになった。
更に虫や小動物が出てくる度にビクッとして、心臓に悪い。
靴もただの学校への通学用の革靴であって運動靴ですらない。
靴下も履いていないため、足のあちこちに草木や木の枝によって出来た傷が痛む。
たった五分で私は根をあげて木にもたれかかって、うずくまっていた。
しかし、近くの茂みでガサガサという音がすると飛び上がって逃げるようにその場から離れる。
その時、木の根っこに足が引っかかって、バランスを崩して派手に前に転ぶ。
剣を抱きかかえていたので顔面を地面に思いっきりぶつけた。
「…っ!」
ゆっくりと上体を起こして顔を触った。
落ちている枝で頬を少し切ったのか、少し血が出ている。
更に両腕も何箇所か擦りむいていた。
なんとか立ち上がり、転けた反動で前方に飛んで落ちてしまった剣を拾いにいく。
剣を拾ったところで気が折れて、地面にへばりついた。
森をまっすぐ抜けろといっても、最早どの方向がまっすぐなのかも分からない。
この世界を妄想していた頃のように自由に空を飛べたら森の上からどう進めばいいか分かるのに…
と思わず空を見上げると木々の間から太陽が見えた。
この世界にも太陽はちゃんとあるんだなと感心するも、森の中は太陽が出ていても薄暗く、もし私がいた世界同様に太陽が沈んで夜が来れば確実に森の中は暗闇と化してしまうだろう。
そうなれば、ますますどう歩けば森を抜けられるか分からなくなる。
夜が来る前に森を抜けないと…
剣を握りしめて踏ん張って立ち上がろうとする。
…痛い!
どうやら、さっき転んだ時に左足を捻ったようだ。
再び、その場に座り込んでしまう。
早く、行かなきゃいけないことは頭で分かっている。
…でも、体が言うことを聞かない。
「なんなのよ…もう…」
思わず、涙が出て来た。
こんなことなら元の世界の方がよっぽどマシだったような気がする…
もっと、違うことをどこかで予想していた自分の甘さに腹が立ってきた。
もしかしたら私は夢を見ていて、夢から醒めるときっとあのどうしようもなく嫌だった現実に戻れるのかもしれない。
…そうだ。
きっとそうに違いない…
そう自分に言い聞かせて私は地面に寝転んで目を閉じる。
すると、疲れからか一気に睡魔が襲ってきて、いつの間にか眠りについてしまっていた。




