ナリア姫③
「と、まあこんな感じ。私の役目はナリア姫をこの世界…この地に戻して始末すること。せっかくこの世界に戻ってきたばっかりで悪いけど死んでくれる?」
イシスという女性が不気味に笑う。
「…仕方ありませんね。プランBでいきましょうか…」
六倉さんがそう呟いた。
一体、何がどうなっているのか意味が分からず、ただ六倉さんの後ろで突っ立っているのがやっとだった。
すると六倉さんが私の方を向いた。
そして、右手に持っていた剣を再度、私に差し出した。
「アクエリアスという名の剣です。ファーシル王国に代々継承されてきた物できっと七海さんの役に立つ筈です」
六倉さんからそのアクエリアスという剣を受け取る。
見た目から、てっきり重いかと思ったけれど、剣は割と軽く感じた。
「へぇ…メアかぁ。そんな物を渡したところで姫様に扱えるとは到底思えないけど」
イシスという女性が口を挟む。
「…メア?」
誰に訊いた訳でもなく、そう口に出してしまった。
「ルウの力が込められた武器のことです」
と六倉さんが答えてくれる。
そして、そのあと六倉さんが私の後ろ側を真っ直ぐ指差した。
「この方向をまっすぐ進むと小さな森があり、その森を抜けると町があります。そこに七海さんのことを頼んである男がいますので合流してください」
「六倉さんは…?」
思わず、不安そうな声を出してしまう。
「私はここでこいつらを足止めします。…この世界ではロックと呼んでください。それが私の本当の名前です」
と六倉…ロックさんが優しく私に笑みを溢した。
「…無理です。私一人で町まで行くなんて…」
「大丈夫、七海さんなら出来ますよ」
と言って私の両肩を持って、私を森のある方向へと向けさせた。
「さあ、早く!」
とぽんっとロックさんが私の背中を押した。
ロックさんの言う通り、剣を抱えてまっすぐ走り出した。
すると、イシスという女性の周りにいた一人が突然私の前に現れて道を塞いだ。
「!?」
驚いて立ち止まる。
「させないわ。私の周りにいるルーラーはとても優秀なの。絶対に逃がさないわよ」
イシスという女性の怖い声が後ろから聞こえた。
私の目の前には目のマークが描かれた布で顔を覆ったルーラーが私を見下ろしている。
しかし、そのルーラーが突然、炎の中に包まれた。
「きゃっ!?」
目の前の炎に思わず、驚いて尻もちをつく。
「大丈夫ですか!?」
ロックさんが離れたところで私に叫んだ。
「は、はい!なんとか…」
そう答えてゆっくりと立ち上がる。
おそらくこれはロックさんの「ルウ」の力…
私をルーラーから守るためにロックさんが出した炎だろう。
「さあ、早く今のうちに!」
ロックさんが再度、私に叫ぶ。
逃げなきゃ…
目の前で炎に包まれているルーラーを避けて、前へと走り出す。
「逃がすもんですか!」
「お前たちの相手は私だ。いくらブランクがあるとはいえ、ファーシル王側近のルーラーであるこのロックに敵うと思うな!」
後ろでロックさんとイシスの会話が聞こえてくる。
すぐに後ろを振り返りたかったが、それを我慢して逃げるように草原を走った。
…捕まったら殺される。
さっき、目の前で上がった炎の柱は確かに熱かった。
夢じゃない…妄想でもない…
逃げなきゃ…ここにいたってロックさんの邪魔になる。
と必死に剣を抱えて、ロックさんが言った通りに森を目指してひたすら走った。




