ナリア姫②
「…随分と早い歓迎だな?」
六倉さんが女性に向かってそう言い放つ。
いつも私に優しく語りかけてくれた六倉さんとはまるで別人のような口調だった。
「ええ、まだかまだかとこの時を待っていましたから。何せ同じ師を持つ者同士、こういうことは私の方が得意だと先輩もご存知だったでしょう?それとも長い間、平和ボケし過ぎて忘れちゃいましたか?」
ペラペラととんがり帽子の女性が六倉さんに話し掛ける。
「…まったく、相変わらずよく喋る後輩だ」
六倉さんが小さくため息をついた。
「…誰なんですあの人たち?」
恐る恐る六倉さんに確認する。
「七海さんに分かりやすく説明すると、大臣側のルーラーですよ。名はイシス。昔、ルーラーになる修行をしていた頃、同じ師に教えてもらった相弟子です」
色んな情報に頭の整理が追いつかない。
「…六倉さんはルーラーだったんですね」
小さな声でそう言った。
「ええ、王側の有能なルーラーですよ。なんてね」
六倉さんが顔だけこちらを見て答えた。
王側の有能なルーラー…?
かつて王妃と姫を野党から救った有能なルーラー…そうか、それって六倉さんだったんだ。
「正解です」
六倉さんがまるで私の心の中を読んだように答えた。
「ついでにお話しますと、姫は何者かに誘拐されて行方不明になったのではないのです」
六倉さんは前を向き直り、背中で私に話しかけた。
「えっ…?」
「姫の命を守るため、王はわざと行方不明になったと騒ぎを起こし、姫を安全な場所へと避難させたのです。大臣の目を欺くために…」
六倉さんの言葉に訳が分からず、ただ耳を傾けていた。
「そうよ。王は側近のルーラーに娘を決して見つからないところに身を隠すように命じた。だから今でも王の娘…姫は生きている」
突然、イシスという女性が六倉さんの代わりに話し出す。
「そして、それがあなたよ七海ちゃん。そうよね?六倉 三喜彦さん。こちらではたしかロックという名だったわよね?」
その言葉に驚愕する。
…私が姫…ファーシルの!?
「黙れ。貴様に名前で呼ばれたくはない」
六倉さんがやや怒り口調で言った。
「…ど、どういうことですか?私が姫…?六倉さんが私をエヴァから向こうの世界に連れて行ったの…?」
頭がパニックになりそうだった…
…だから、両親は本当の両親ではなかった。
私が本当にファーシル王の娘なら血のつながりどころか本来住む世界すら違っていたのだ。
なんて滑稽な話だ…
「…すみません七海さん。混乱させてしまいましたね…本当は落ち着いてお話しする筈だったのですが…」
六倉さんが申し訳なさそうに謝る。
「七海ちゃんショックを受ける必要なんてないのよ?だって、居心地悪そうだったじゃない?そりゃそうよ。だってあなたはここの世界の住人で、しかもこの地…ファーシル王の娘・ナリア姫なのだから」
イシスという女性が私に言った。
…ナリア?
それが私の本当の名前…?
「…貴様。さては向こうの世界にまで…!?」
「あら…?見当がつかないとでも思った?でも、安心して私は行っていないから。だって、違う次元の世界に行くなんて怖くて出来ないわよ。…だから、実験台に何人かのルーラーを行かせただけ。その手のルウもロックのように完璧ではないし、実際に何人か次元を越えられず消滅したわ」
頭の整理が追いつかないものの、イシスという女性の話を聞いてそんなリスクがあったことに今更恐怖を感じた。
…二度と戻って来られないかもしれない。
と六倉さんが言っていた。
多分、そういうことなのだろう。




