ナリア姫①
「…ファーシル。ここがあのファーシル…」
ファーシルと聞いて、六倉さんから聞いたファーシル王国の話を思い出す。
あの時は架空のお話だと思って聞いていたので、今こうして実際にそのファーシルに訪れると六倉さんが言っていた話が現在進行形だったことを理解する。
なら、今のファーシルはかつてのような豊かさない…
「さて、こちらに来たのでルウの力が思うように使えます。まずは濡れた服を乾かしましょう」
そう言って六倉さんが私の頭の上に手を置いた。
思わずその手を見上げると、さっきの魔法陣と同じ青い光が六倉さんの手から発せられる。
その瞬間、制服がフワッと浮いた感じがした。
すると、さっきまで濡れていたはずの制服が見事に乾いているではないか…
…これが「ルウ」の力。
制服を触りながら、心の中でその力に驚く。
「さて、次はコレですね」
と六倉さんが突然、私の眼鏡を取った。
眼鏡が無くなって急に六倉さんの顔がぼやけて見える。
「な、何をするんですかいきなり!?」
すぐに返してとばかりに手を伸ばす。
すると六倉さんは眼鏡を私に返す代わりに右の掌を私の顔の前に広げた。
そして、また青く光る。
「えっ…?」
きっと今、私は狐につままれたような顔をしているに違いない。
「どうですか?眼鏡が必要ならお返しますよ」
その問いに首を横に振った。
「…嘘?眼鏡無しでもよく見える…」
これも「ルウ」の力…?
凄い…視力が回復した…!
「視力だけではありませんよ。ついでにこの世界の言葉が分かるようにしておきました。あと、字も読めるようにね」
と六倉さんが左手に持っていた私の眼鏡を手品のようにパッと消した。
代わりに別の物が出てきた。
剣だ。
それは日本刀ではなく、西洋の歴史に出てくるような剣だった。
私の身長の半分くらいの長さで、剣なんて実際に見たことなんてないが、割と細い感じがした。
剣は赤い綺麗な玉のついた鞘に収まっている。
「この剣をあなたに預けておきます」
と六倉さんが剣を丁寧に私に差し出した。
「…私にですか?」
「ええ、あなたにはその正当なる資格があるからです」
「えっ、それは一体どうゆう…」
六倉さんにそう訊き返す。
しかし、六倉さんの表情が急変したことに気がついて途中でやめる。
「…困りましたね。このまま、七海さんと一緒にファーシル城を目指そうと思っていたのですが、どうやらそうはいかないようです」
六倉さんが後ろを振り返り、誰もいない場所を見ながらそう言った。
「えっ…」
六倉さんの言葉に意味が分からず剣に手を伸ばさずに固まっていると、六倉さんが視線を向けている場所に突然何かが現れた。
「!?」
私は声にならない声を上げた。
気がつくと六倉さんの視線の先には人が何人か立っている。
ただ一人は顔が見えているから人ではあるとは思うけれど、残りは皆顔が布で隠されているので、本当に人かどうかは分からない。
「…思ったより早かったですね」
六倉さんが私を庇うように私の前に立つ。
六倉さんの横から再度、その者たちを確認する。
真ん中にいるのは女性だった。
その女性は目のデザインが施されたとんがり帽子を被って、ハロウィンの仮装で着るような派手な魔法使いのような格好をしている。
その女性を囲むように複数のフード付きのローブに身を纏い、布を垂らして顔を隠くしている者たちが立っていた。
その布には大きな目の絵が描かれていた。
どう見ても六倉さんの仲間には見えない…
「お久しぶりです先輩。しばらく見ない間に随分と老けました?というか何ですその変な格好?」
仮装でもしているのかという女性が六倉さんに話掛ける。
六倉さんはチェックのカーディガンに無地のチノパンといった至って普通の格好だ。
むしろ、その女性の方が変な格好している。
「後ろの子なんかもっと変な格好してる。それが向こうの世界では普通なの?」
となんとも挑発的な喋り方をする女性だ。




