エヴァへ③
それから一時間待った。
色んなことがあった一日だったので、一時間が経過する間際は少しうつらうつらとなっていた。
六倉さんが部屋に戻ってくる足音にバッと顔を上げる。
「お待たせしました準備が出来ま……大丈夫ですか?」
六倉さんが少し心配そうに私を見下ろしていた。
「は、はい、少し寝かけていただけなので…」
「お疲れのようでしたら、もう少ししてからでもいいですよ?」
と六倉さんが気を遣って提案してくれた。
その提案に対して、頭をぶんぶんと横に振る。
「いえ、大丈夫です」
力強くそう答えた。
…きっと、時間が経てば迷いが出て決意が鈍ってしまうかもしれない。
だから、無理矢理にでも後戻りが出来ないような状態にした方がいい気がしたんだ。
「分かりました。七海さんがそうおっしゃるなら今すぐに行きましょう。さあ、私についてきて下さい」
私を誘うように六倉さんが立ち上がった。
それを確認して、私も心の奥の緊張感を押し殺しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「タオルは椅子に置いておいて頂いて構いませんよ」
と六倉さんに言われたとおりに身体に巻いていたタオルを椅子に置く。
「さあ、こちらにどうぞ」
と六倉さんが私を奥の部屋へと招き入れる。
奥の部屋に入ると真っ暗な空間の中にぼんやりとした青い光が目についた。
よく見ると部屋の中央にその青い光があり、その下には円が描いてあって円の中にはよく分からない文字が書いてある。
…魔法陣?
「私と一緒にあの円の中に入るとエヴァへと行ってしまいます。もう二度と戻って来られないかもしれませんが本当に構いませんか?」
その声に反応して暗闇の中で青光りに映る六倉さんの顔を見た。
六倉さんの言葉に少し決心が揺らぐ…
もう二度と戻って来られなくてもいいとは思っている。
…ただ、本当に「エヴァ」の世界に行くという実感が湧かないため、その不安が私の決心を少し鈍らせていた。
「そんなに怖がらなくてもエヴァはあなたを優しく迎えてくれますよ。七海さんならきっと」
少し厳しい口調だったさっきとは打って変わって優しい口調で六倉さんが私の不安を取り除く。
「私は大丈夫です。よろしくお願いします」
真剣な表情で六倉さんに決意を伝えた。
「分かりました。では、行きましょう」
六倉さんが青い光の中へとスッと入ってゆく。
「さあ、七海さんもこちらへ」
六倉さんが魔法陣の中から私に手を差し伸べて光の中へと誘う。
不思議と怖さが体の中から消えてゆく。
歩みを進め、六倉さんの手を取って魔法陣の中へと入いる。
魔法陣の中は特別変わった様子はなかった。
「では、いざエヴァの世界へ」
六倉さんがそう口にした瞬間、一気に景色が変わった。
思わず360度、辺りを見渡す。
さっきまで真っ暗な部屋だったのに、辺り一面緑豊かな草原へと変わっていた。
「…ここがエヴァ…?」
周りをキョロキョロと見渡しながらそう呟いた。
「はい、ここがエヴァの世界です。そして、ここはファーシルの地」
六倉さんがどこか懐かしむような表情を見せた。




