エヴァへ②
「…また、そんな大袈裟な」
と思わず笑みが溢れた。
六倉さんもクスッと笑う。
「…私、やっぱりこの世界には必要のない人間でした。…両親と私は実の親子じゃなかったんです。ほんと笑っちゃいますよね?」
と自嘲気味に笑う。
「…そうですか。それはさぞ辛かったでしょう?」
六倉さんの一言になんだか我慢していたものが一気に込み上げてきた。
タオルを顔に持ってきて覆う。
「いいですよ。遠慮なく泣いてください。悲しいときは悲しいと泣く方がいい」
六倉さんの言葉に甘えるように、タオルを顔に押し当てて泣いた。
部屋に私の嗚咽だけが響き渡る。
六倉さんは一言も発せず、ただただ私が泣き止むまで待ってくれていた。
やがて、少し落ち着いたところでタオルから顔を離して六倉さんに視線を向ける。
「…ありがとうございます。泣いたらなんだか少し落ち着きました。…少ししたら帰りますね」
「帰るところはあるんですか?」
六倉さんの言葉に両親の会話を思い出す。
ぎゅっと胸が苦しくなる。
これが夢ならどんなにいいだろう…
「…たしかに家には帰りたくはないですが、他に行く当てなんてないですし…家に帰ります」
私の返答に六倉さんは何も言わなかった。
部屋に沈黙がしばらく続く。
「私と一緒にエヴァへ行きませんか?」
六倉さんが何時間か前にここで言った言葉を再び思い出す。
そして、恐る恐るそれを確認するために私は静寂を破った。
「…エヴァなんてないですよね?…あれは私には心配してくれる人がいるってことを気づかせてくれるための嘘だったんですよね?」
「…嘘?そんなこと私がいつ言いましたか?」
六倉さんの返答に思わず目を丸くする。
…えっ?
「あなたが本当に心から望めば自ずとエヴァへの扉は開きます。これは嘘ではありません」
衝撃な一言に心が大きく揺らいだ。
「…私が望めばエヴァに私を連れて行ってくれるんですか?」
自分でも何を言っているんだろうと思うも、私の中の欲望が止まらない。
「はい。あなたがこの世界への未練を断ち切れるなら私があなたをエヴァの世界へと連れて行きます」
六倉さんの目に嘘はないと感じる。
…でも、本当にエヴァの…七つの海と七つの大陸の幻想の世界が存在するの…?
にわかには信じ難いけれど、今の私には帰りたい場所がない。
…それに「エヴァ」の世界なら私を受け入れてくれる気がする。
「…行きます。もうこんな世界には未練なんてありません。一時的な気の迷いなんかじゃない…もう私にはエヴァしかないんです!」
少し身を乗り出して六倉さんに訴えかける。
「分かりました。では、あなたをエヴァへとご案内しましょう」
六倉さんが薄く笑みを浮かべてそう答えた。
その言葉に未だ信憑性が湧かないけれど、胸が高鳴るのを感じた。
「準備に一時間ほど要します。服が濡れて気持ち悪いとは思いますが、待っていてもらえますか?向こうに行ったらなんとかしますので」
と六倉さんは立ち上がって奥の部屋へと消えていく。
その後ろ姿を見ながら「エヴァ」に行ったら着替えを用意してくれるのだろうか?
「エヴァ」の話は六倉さんから色々と聞いた。
本当に「エヴァ」に行けるなら、「エヴァ」のどこに行くのだろう?
一気に興味が湧いてくるも、やはり不安の方が大きくてあまり考える気にはならなかった。
この世界とお別れすると決めた…あとは成り行きに身を任せるだけ…
この世界にとどまるよりはマシな人生が私を待っている筈だ。
と私は心中でそう自分に言い聞かせる。




