エヴァへ①
店の中に入ると少しここで待っててくださいと六倉さんが私に告げて、店の奥へと小走りで入っていった。
店内の床に雨に濡れた体から水がぽたぽたと落ちる。
それを申し訳なく思った。
すぐに店の奥からバスタオルを持って六倉さんが戻ってくる。
「さあ、これで体を拭いて」
何も言わずこくりと頷き、その好意に甘えた。
乱れた三つ編みを解いて、濡れた髪をタオルで拭く。
続いてびしょ濡れの制服を拭いていく。
最後に眼鏡の水滴を軽く拭き取った。
「七海さんが着られるような服が店に無くて…タオルだけですみません」
「…い、いえ、タオルだけでも十分で…私の方が申し訳けなくて…本当に迷惑を掛けてごめんなさい」
「コーヒーを淹れてきますね」
そう言って、六倉さんが再び奥の部屋へと入っていった。
私はしばらく椅子に座ってタオルに包まってぼっーと何も置いていないテーブルを見つめていた。
流石にこの季節に雨に濡れてしまうと結構寒い…でも、今はタオルの温かみで少し寒さが落ち着いてきた。
…六倉さんに迷惑を掛けっぱなしだ。
しばらくしたら家に帰ろう…
これ以上は迷惑を掛けるわけにはいかない。
「私と一緒にエヴァへ行きませんか?」
学校帰りに私がここを訪れた際に六倉さんが言ったことを思い出す。
あの言葉が本当なら今すぐにでもそれに縋りたい。
…でも、あれはきっと私のためについた嘘だ。
いくらファンタジー症候群の私でも実際に「エヴァ」が実在すると信じるほど夢みる夢子ちゃんではない。
などと現実に向き合おうと思っていた矢先、六倉さんがコーヒーを淹れて戻ってきた。
「さあ、温かいうちにどうぞ」
そう言って六倉さんは私の前にソーサーにのっているコーヒーカップを置いた。
そして、静かに私の向かいの席に座る。
コーヒーカップの取っ手に手を伸ばし、熱いうちに口へと運ぶ。
口から温かみが広がり、身体に染み渡る。
相変わらず、六倉さんのコーヒーは絶品だ。
私がコーヒーを全て飲み終えて、再びカップをソーサーに戻した時、六倉さんがゆっくりと口を開いた。
「何かありましたか?」
あまりに優しい口調だった。
それだけで少し目頭が熱くなる。
「…すみません。さっき来た時も色々聞いてもらったのに…まただなんて…」
「いいんですよ。先程も言いましたが、本当に迷惑だなんて思っていません。むしろ、あなたの助けになるならこんなに光栄なことはありませんよ」




