エヴァへ行きませんか?
気がつくと七つの絵のあるショーウィンドウの前に立っていた。
絵を眺めるも、絵たちが私をいつものように「エヴァ」の世界へと連れて行ってくれない。
現実から切り離せないそのどうしようもないもどかしさが堪らなく私を傷つけた。
今日は午後から天気が崩れると、今朝見たテレビの天気予報のコーナーで言っていた。
雨が降るかもしれないので、今日はここに来る予定はなかった。
…でも、来てしまった。
ぽつりぽつりと雨雫が私を濡らす。
ショーウィンドウにも雨がつく。
少し雨脚がキツくなり始めたけれど、私は微動だにしない。
天気予報を見たあとに鞄の中に折り畳み傘を忍ばせたけど、それを出すことさえ今は億劫だ。
…それに今の私には雨に濡れている方が合っている。
と思ってただ絵を見つめていたら、急に辺りが暗くなった。
ショーウィンドウに映った傘と人物で理解する。
「こんなところで傘もささずに突っ立っていたら風邪をひきますよ」
「…六倉さん」
振り返って、頼りない声で私を見下ろす六倉さんの名前を呼んだ。
「…話は中で聞きましょう。とりあえず濡れた身体を拭かないと…さあ、中へどうぞ」
六倉さんが優しく私を店内へとエスコートする。
タオルを貸してもらい、いつもの席に座って濡れた髪を拭いた。
「どうぞ。温まりますよ」
と六倉さんがコーヒーを出してくれる。
タオルを頭に乗せたまま、コーヒーを頂く。
いつもは飲みやすく少し冷ましてくれているが、今日はしっかりと熱くて、飲むと身体が温まる気がした。
それから少しすると、心に落ち着きを取り戻す。
そのタイミングで六倉さんが向かいの席に座る。
今日は私に話をするのではなく、私の話を聞く雰囲気を醸し出して…
私はそれに甘えるように言葉を吐き出した。
私という人間のことを…
今日あったことを…
この世界においていかに私が不適合なのかを…
こんなに内に秘めた想いをぶちまけたことが今まであっただろうか…?
六倉さんは私の言葉にただ黙って相槌を打っていた。
優しい表情で…
六倉さんに話しながら、私はこんなにもネガティブでマイナス思考な人間なんだなと再認識する。
話し終えたところで、残りのコーヒーを飲み干した。
「…すみません。変なことを話してしまって…迷惑でしたよね?」
カップをテーブルに置いて、後悔を口にする。
六倉さんは静かに首を横に振った。
「いえ、そんなことはありません。むしろ七海さんの胸の内を聞けて光栄です」
と笑みを浮かべた。
「人にはそれぞれ向き不向きがあると思います。それは世界も同じ。人には向いている世界とそうではない世界があると私は思いますよ」
六倉さんはきっと私を元気づけようとそんな優しいことを言ってくれているんだろうな…と申し訳なくなってきた。
「だから、七海さんにとってそれはこの世界ではなくエヴァなのかもしれませんね…」
六倉さんの言葉に私も同感だった。
もし「エヴァ」が存在するなら、私はきっとその世界の方が向いているのだろう。
なんの根拠もないけれど、そんな気がした。
…まあ、そんな夢物語のようなことを思ったところで、この世界から逃げることは出来ない。
現実逃避は出来ても、それは一時的なものだ。
…だから、向き不向きで逃げたところでどうしようもない。
俯いてタオルで顔を隠した。
「では、私と一緒にエヴァへ行きませんか?」
六倉さんの言葉にバッと顔を上げた。
その拍子にタオルが床に落ちる。
「…えっ?」
思わず訊き返した。
…今、なんて?
「七海さんさえ良ければ、私と一緒にエヴァへ行きませんか?」




