現実なんていらない①
六倉さんに素敵な話を聞かせて頂いた翌日、少し上機嫌で登校した。
きっと私の中のファンタジー症候群のせいだ。
昨日も父は帰って来なかった。
だけど、骨董品をあとにしてからの私の頭の中は現実に引き戻されずにいたので、両親の不仲についてあれこれ考えなくて済んだ。
しかし、いざクラスに入ると一気に現実に引き戻されてしまう。
でも、それはいつものネガティブな思考ではなかった。
そうだ…今日は昼休みに五十嵐くんが屋上で私に話があるんだった。
こんな大事なことを今の今まで忘れていた自分に少し呆れるも、もし昨晩に覚えていたら気になってきっと寝不足になっていたに違いない。
再度、六倉さんに感謝する。
でも、一旦それを思い出すと気になってしまって授業中も勉強にあまり集中出来なかった。
授業と授業の間も五十嵐くんの方を見るどころか、声が聞こえる度にドキドキしてしまう自分がいた。
…話って一体何だろう?
勿論、変な期待なんて1ミリもしていない。
…でも、クラスの中で言えないようなことなのは間違いない。
そのことにどこか期待してしまっている私がいる。
私なんかを五十嵐くんが相手にする筈ないのは分かっている…だけど、少しくらい期待したって良いじゃない?
そう自分の中で葛藤し続けていた間に、ついに昼休みがやってきてしまう。
「七海、一緒にお弁当食べよ」
いつものようにれいちゃんが誘いに来てくれる。
「うん」と答えてお弁当を持っていつものグループに入れてもらう。
いつもならその輪の中に座る度、場違いな気持ちに苛まれるが、今日の私はそれどころじゃない。
「七海、大丈夫?」
「…えっ?」
隣に座るれいちゃんがふいに私に訊いた。
「なんかさっきからずっとぼっーとしてるよ?」
「…そ、そうかな?大丈夫だよ…ちょっと考え事をしていただけ」
れいちゃんがふーんと私を覗き込む。
「ねぇ?れいってば話聞いてる?」
「ごめん、ごめん…で、何の話だっけ?」
「…もう!ちゃんと聞いててよ〜」
再び、グループの会話に花が咲く。
…そう、私が邪魔したらダメ。
私は空気のように頷いてないとダメなんだ…
れいちゃんの気が逸れるようなことをしたら迷惑が掛かる。
といつものようにただの空気のようにグループの輪の中で頷くことに徹した。
昼ごはんタイムが終わるといつもみんなでトイレに向かう。
私もいつも一緒に行っている。
でも、今日は屋上に行かなければならない。
「…ねえ、れいちゃん?」
グループで固まって教室を出ようとした時、れいちゃんを呼び止める。
我ながら小さくて情けない声だ。
「ん、何か言った?」
れいちゃんがどうしたのという表情をみせる。
「ごめん、私ちょっと用があって…」
もじもじしながられいちゃんに伝える。
「そうなんだ。分かったみんなで先に行ってるね」
とれいちゃんが私に小さく手を振って、みんなに追いつくように小走りで教室を出て行った。
それに安堵し、しばらくしてから教室を出て屋上を目指した。
昼休みが終わるまであと10分足らずだ。
五十嵐くんを待たせたかな…
もう少し早く抜け出したかったけど、変に詮索されたくなかったので仕方ない。
屋上への階段を小走りで駆け上がり、屋上に出る扉をそっと開ける。
すると、屋上にはフェンスにもたれている五十嵐くんの姿があった。
「…来てくれたんだ。ありがとう一ノ瀬」
と五十嵐くんが笑みを浮かべる。
…でも、どこかいつもの笑顔とは違った。




