ファーシル王国③
「当初、ファーシル王と王妃の間にはなかなか子が授からずにいたので、例え跡継ぎに直結しない女の子でも産まれた時は国中が大いに喜びました。でも、姫が産まれて半年くらい経った頃、何者かによって口に毒物を含まされて姫は命の危機に晒されました」
六倉さんの話をすぐに脳裏でイメージする。
「ルウの力でなんとか一命を取り留め、事なきを得ました。しかし、次は我が子を連れて王妃が里帰りをなされた時、その一行が野党に襲われてしまいます。幸いなことに有能なルーラーを連れていたお陰で無事でした」
…すべて大臣の仕業?
なんとしてもファーシル王に報復したいのだろうか?
母親が違えど、半分は同じ血を引く兄弟なのに…
「…そして、遂に悲劇は起きてしまいます。姫が産まれてもうすぐ一年を迎えようとしていたある日、部屋で寝ていたはずの姫の姿がどこにもなかったのです。すぐに城中を探しましたが誰も姫を見つけることが出来ませんでした。国中を探しに捜索隊が派遣されましたが、一年以上経っても成果を得ることはなかったのです…」
六倉さんの話にいつのまにか感化されすぎた私はまるで私もファーシル王国の民になった気持ちになってしまい、思わず目頭が熱くなった。
「悲しみにくれた王妃は睡眠はおろか食事もろくに取れなくなり、みるみるうちに衰弱していきました。見かねた王は王妃を北の町へと療養に行かせたのです。それからしばらくして王が重い病に倒れてしまいました」
「…それも大臣の仕業!?」
なんとも言えない話についつい少し力がこもってしまう。
「いえ、病までは流石に大臣の仕業ではありません。王の健康は大臣の息のかからないところでしっかりと管理されていましたから…」
六倉さんは首を横に振りながらそう語った。
「数年後、王は亡くなられ、王亡きあとの王国はもう目も当てられない状況でした。…王の意思を継ぐ部下たちがなんとしても大臣を王にはさせまいとし、大臣はすぐに自分の母親を城に戻し、親子で亡きファーシル王につく者たちを根絶やしにしようとします。そんな後継者争いが何年も続く間に王国はすっかり豊かさを失い、やがて各地で反乱が起こるようになりました」
「…ファーシルはそれからどうなるんですか?」
私の問いに六倉さんはそっと目を閉じた。
「分かりません。王が亡くなって10年以上経った今も現状は変わらないまま…各地で起こっていた反乱は王国が武力によってねじ伏せたため鎮まりましたが、ファーシルはもうかつての豊かさを取り戻すことはないかもしれませんね」
その言葉に酷く悲しみを覚えた。
すると、目の前の六倉さん突然クスッと笑う。
「あくまで架空の物語の中のお話ですよ。七海さんはすぐに真に受けるので話甲斐がありますね。ほんと面白い方だ」
六倉さんがそう言いながら再度、笑う。
それに思わず赤面してしまう。
「だ、だって、六倉さんがあまりにも現実味のある言い方をするから…もう!あまり揶揄わないでください」
と頬を膨らませる。
六倉さんの話にすっかり騙されてしまった。
その話術の上手さから、まるで「エヴァ」が現実に存在しているような気になってしまう。
話を聞くのに夢中になっていて、淹れてもらったコーヒーを飲むことを忘れていた。
せっかく淹れてくれたのでと、すっかり冷めてしまったコーヒーを口にする。
「物語の世界観を味わって貰えましたか?」
六倉さんの問いにコーヒーカップをテーブルの上に置いてから、大きく頷いた。
「ええ、とっても。すごい楽しい時間を過ごせました」
自分でも驚くくらい、きっと今の私は良い表情をしているだろう。
「喜んで貰えて光栄です。でも、今日は一段と話が長くなってしまいましたね。くれぐれも気をつけてお帰りください」
と六倉さんは相変わらず優しい笑みを私に向けていた。
「いつも素敵なお話ありがとうございます。あっ、あとコーヒーも!…また来ても良いですか?」
「ええ、勿論です。いつでも歓迎しますよ。また、お話をお聞かせしますね」
そして、六倉さんに見送られながら、満足気に店をあとにした。




