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しかし、私の声に反応したのは輝夜さんのほうだった。

カツッと足音を響かせて一歩前に出た。


「兄さん。久しぶりに再会したのにびっくりしたよ。まさか車で突っ込んでくるなんて。これ、ちゃんと弁償してよね」


ふぅ、と漆喰さんは大きくため息をつき、輝夜さんと同じく一歩前へと踊り出た。


迷うことなく、足は凹んだ車のボンネットに向かった。そこに腰を下ろして長い足を組むと、きしっと微かに車が軋む音がした。


まるで玉座に座るかのような、圧倒的な佇まいに息を呑む。


「──うるさいわ。こんなショボい建物、敷地ごと現金一括で買い取ってやる」


漆喰さんのオリーブグリーンの瞳が、同じ色の瞳を射抜くように睨みつける。全身から立ち上るような怒りの気配。


口調に混じる関西弁。これは──完全にブチ切れている。


対して輝夜さんは、相変わらずの余裕を崩さない。

漆喰神楽と漆喰輝夜。

兄弟の再会。

因縁の対決。


私は床に腰をついたまま、事の成り行きを見つめることしかできなかった。

口火を切ったのは、弟の輝夜さんだった。


「それにしても、よくここに現れたね。兄さんが介入できないように細工したはずだけど……あぁ。そうか。狐か……」


そこで、輝夜さんはじっくりと私を見つめてきた。そしてすぐに視線を引き剥がし、兄へと戻した。


「なるほど。さっきまでいなかった狐が戻っている。狐が兄さんを呼んだってことか」


──やっぱり、白狐様が戻ってきている!

姿は見えないけれど、これ以上なく心強いと感じる。


「そうや。打ち合わせしていたらいきなり白狐が現れて、頭に直接『神託』を下した。階さんを助けに行けと命令された。それでここまで来た」


「神託か。へぇ」


「道中、信号はすべて青。しかも階さんの身に起こっている出来事が、こちらにもリアルな情景として頭に浮かぶ……お前ら教団の醜悪さも、階さんの奮闘も、すべて把握してる」


「それは不思議な体験だね。興味は尽きないところだけれども──宮ちゃんは置いて、帰ってくれないかな? 今いいところだったんだけど」


輝夜さんの軽口に、漆喰さんは何も答えない。

代わりに上着から煙草を取り出して口に咥え、火をつけた。カチッと火が灯る音に続き、紫煙が漆喰さんを包み込む。


ボンネットの上で煙草を吸う漆喰さんは、あまりにも様になりすぎていた。鬼気迫る迫力なのに、輝夜さんはそれをするりと受け流すばかり。


「狐が戻ってきたから、次は狐を抑える対策をして、宮ちゃんを抱こうと思っているんだ。だから帰ってほしいんだよね。あ、それともその様子を見学でもする?」


「──反吐が出る。いちいち煽ってくんな、鬱陶しい。今、お前が楽しみを邪魔されてイラついているのは分かってる。お前は自分の計画を乱されるのが、一番嫌いやからな」


ふう、と新たな紫煙を纏わせる漆喰さん。

今度は輝夜さんが何も答えない。


「俺はな、お前が両親を殺して家を出て行ってから、ずっとお前を探してた。こっちには募るほどの話したいことがあるねん。ゆっくりしていけ」


──やっぱり、と思っていたことを漆喰さんの口から直接聞いて、悲しくなる。

そしてそれを、なんとも思っていないかのように悠然と佇む隣の人が、怖くなる。


「僕には募る話なんかあんまりないけど。強いて言うならあの時、僕を逃がしてくれてありがとう、ってことぐらいかな。そうだ、なんであの時、僕を庇ってくれたの?」


軽い問いかけに、漆喰さんは重い紫煙を吐き出した。


「言いたくない。言ったところでもう今更やろ」


「確かに」


「それが俺の人生最大の汚点や。あの時……俺はお前を殺しておけばよかったと、ずっと思ってる。そうしていれば、お前の快楽のために犠牲になる人はいなかったやろうな」


漆喰さんはトン、と指先を軽く弾いて、煙草の灰を下に落とした。


床に届く前に輪郭が消えていく灰を見つめて、漆喰さんのあまりに過酷な言葉に、私は絶句してしまう。


弟を庇ったのは──そんなの「信じたくない」という愛情に決まっているじゃないか。


赤の他人でもそんなことはわかる。


なのに輝夜さんは、さらりと髪を耳にかき上げただけだった。


その反応に私の心が奮い立ち、言葉が口を突いて出た。

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