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「え……架紀ちゃんのお母さんから?」
熱くなっていた顔が、一気に冷えていくのを感じた。
『そうなの。実は架紀ちゃん、もう一週間くらい家に帰ってきていないそうよ』
「ええっ!? それ、何かあったんじゃ……!」
スマホを握る手に、思わず力が入る。
『宮ちゃん、落ち着いて。それがね、ちょっと妙なの。どこかに泊まっているらしくて、一日に一回は必ず連絡が来るんですって』
「……なにそれ」
『どうやら、架紀ちゃんは勤め先にも有給を出しているそうでね。「旅行に行く」と言っていたらしいのだけれど、どこへ行ったのかお母様も分からなくて……心配でうちに電話をかけてこられたのよ。宮ちゃん、行き先とか聞いてない?』
「知らない。今、初めて聞いた……」
『そう。なんだか心配ね。他のお友達で行方を知っている人がいたら、お母様に連絡を差し上げて。ひどく心配されていたから』
そう言って、お母さんは後で架紀ちゃんのお母さんの連絡先を送ると告げて電話を切った。
通話が終わった瞬間、さっきまでの柔らかい部屋の空気が一変した。心臓の鼓動が早くなる。
「まずは落ち着こう。連絡はついているんだから、架紀ちゃんは今のところ、きっと無事……」
人間、ひどく疲れたら、ふらっと旅に出てデトックスしたくなることもある。リフレッシュして帰ってくることだってあるはずだ。
きっと架紀ちゃんもそういうケースなんだ。そうに違いない。
……そうだと思いたいのに。
「ピュアライト……それとも、健照教が何かした?」
嫌な想像が勝ってしまい、どうしても悪い予感が拭えなかった。
その時、扉の向こうでガチャリと玄関が開く音がした。
「漆喰さんが帰ってきた……!」
私はベッドから飛び降り、今のことを伝えようと駆け出した。
※
翌日のこと。
不安を抱えながらも仕事をこなしたが、今日は少しだけ早く上がることができた。漆喰さんがこの後、各所での打ち合わせに奔走するためだ。
そうして私と漆喰さんは事務所で別れた。時刻は十七時前。
家で料理を作る気力はなく、日本橋商店街にあるアジアンカフェで夕食を済ませた。
ルーロー飯に生春巻き。アイスチャイミントティーは実に美味しかったけれど、お腹が満たされても気持ちは重いままだった。
足取りも重く、家に帰る為に、とぼとぼと難波駅を目指す。
アニメショップが連なる道は人が多いので、商業施設のなんばパークス側の道を歩くことにした。
道沿いには、ずらりと飲食店が並んでいる。
大阪らしくたこ焼き屋にお好み焼き、イタリアンに天ぷら屋。何でも揃っている。店先では、どの店に入ろうかと迷っている客たちの姿が賑やかだ。
普段の私ならお店に目移りしてしまうところだが、今日はずっと俯き加減でスマホを見つめていた。
──架紀ちゃんからの連絡は、まだない。
「架紀ちゃん、返信だけでもしてほしいな。はぁ……」
昨日、帰宅した漆喰さんには、お母さんからの話をすべて伝えた。
けれど「待つしかない」というのが漆喰さんの結論だった。本人から連絡がある以上、警察に失踪届を出せるわけではないし、職場にも筋を通して休んでいる。何より、ピュアライトや健照教と結びつける証拠が何もないのだ。
状況証拠だけで動くのは危険だ、と諭された。
その通りだと思う。私が騒いでも仕方がない。頭では分かっているのに、胸のざわつきが消えない。
「家に帰っても、ちょっとしんどいな。久しぶりに新しいお香でも買って、ベランダで焚こうかな」
気分をリラックスさせられるような香りがいい。難波駅周辺ならお香くらい売っているだろう、と思ったその時。スマホが震えた。
ぱっと画面を見ると「非通知」の文字。
「あ……架紀ちゃんじゃなかったか」
落胆しつつも、非通知が気になる。一体誰だろう。
私は道の端に寄り、少し緊張しながら通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『宮ちゃん、こんばんは。素直に出てくれて嬉しいよ』
聞き取りやすい声。
先日聞いたばかりの声に、心臓が跳ねた。
「その声……まさか、輝夜さん……?」
『あたり』




