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「正直、わからない。階さんの話を聞く限りでも、そのお友達は依存気味になっていると感じる。そんな状況から抜け出すには、プロのカウンセリングが必要だ。下手に触れると、躍起になってますますサークルにのめり込むこともある」


「……はい」


その通りだと思った。

本当は力になりたいけれど、架紀ちゃんの抱えている悩みは、話を聞くだけでは解決しないだろう。金銭的なこと、お母さんの体調、将来のこと。架紀ちゃんのあの翳りのある表情を見てしまったから、無闇に「大丈夫」だとは言えなかった。


「でも、『力になる』と言った階さんの存在は大きいと思う。今後、お友達から何か反応があったら、まずは話を聞いてあげるといい」


今は様子見。そういうことだと思って、「わかりました」と返事をした。


漆喰さんはくしゃりと、乾ききっていない髪を掻き上げた。やたらと色っぽい。さらには、お父さんの浴衣が高級ブランドの品に見えてくるから不思議だ。


「相変わらずやることが狡猾だ。助けを求めていない人間を助けるほど、厄介なことはないからな」


重みのある言葉に頷くしかない私に、漆喰さんが軽く咳払いをした。


「それで……弟のことだが」


「あの人が漆喰さんの弟、輝夜さんで間違いなかったんでしょうか」


ハニーブロンドの髪。オリーブグリーンの瞳。銀鼠色の美しい着物姿。今でも鮮烈に頭に焼き付いている美貌の持ち主。

私は布団を握っていた手を離し、輝夜に触れられた髪をなんとなく掻き上げた。


「声は間違いなかった」


漆喰さんは言いづらそうに、弟が家を出てから行方を探しているが、ずっと会えないでいることを話してくれた。

数年前から健照教に入信したらしいことは把握しており、人づてに生きていることは分かっていたが、それでも会えないことに変わりはなかったという。

今回のように、はっきりと姿を現したことには漆喰さん自身も大変驚き、それで私の家まで駆けつけてしまったのだと語った。


漆喰さんは始終、沈痛な面持ちで「弟はきっと、俺と鬼ごっこをしているような感覚なんだろう」と言った。やはり、兄弟の間には複雑な因縁があるようだ。

漆喰さんは肩を深く落としそうになったが、自ら気づいたように姿勢を正して私を見た。


「少し話が逸れたな……とにかく、あいつがわざわざ表に出てきたのは、階さんと白狐に興味を持ったからだろう。あれは常に『面白い』と思えることを探しているからな」


漆喰さんは低い声のまま続けた。

弟は今すぐには行動を起こさないだろう。


何かをじっくりと考えてから仕掛けてくるはずだから、一人の時は気をつけるように、と。何かあった時のために、漆喰さん本人や、彼が懇意にしている弁護士、警察署の連絡先などを教えてもらった。

最後に、「巻き込んでしまってすまない」と言われた。


その言葉に、私はゆっくりと首を振った。それでも、部屋に広がった沈黙は重く停滞したままだ。


漆喰さんの悩みの全貌を、私は知らない。

知っていいのかもわからない。

けれど、沈黙が長引くほど空気の重みが増していくような気がして──それが嫌で、私はぱしっと手を打った。部屋に甲高い音が響く。

いわゆる「柏手」だ。

そうして、自ら気合を入れ直した。


「漆喰さん。大丈夫。なるようにしかなりませんよ。せめて良い方向に向かうように、白狐様にお願いしておきますから。ね? きっと大丈夫ですっ」


弟さんのことは怖かったけれど、無闇に怯えたくはない。むしろ今は「よくも怖い目に遭わせてくれた!」という反撃の気持ちの方が強い。

架紀ちゃんに変なことをしたら絶対に許さない、という強い思いを抱きながら立ち上がる。


壁の時計の針は、二十四時前を指していた。


「漆喰さんも、明日はお仕事お休みでしょう?」


「そうだが」


「だったら、今からコンビニに行きましょう。こんな時は甘いものを食べて、寝てしまうのが一番ですよ」


私の言葉に、漆喰さんは数回瞬きをしてから、くすっと苦笑した。


「そうだな……今日くらいはええか」


あ。関西弁になった。浴衣姿で関西弁を喋る漆喰さんは、メロい。とてもメロい。漆喰さんもすっとその場に立ち上がる。


「行こうか。奢るよ。そうだ、今度、階さんにバッグを買わせてほしい」


「バッグ? 私に?」


なぜ、と首を傾げる。


「弟が階さんの私物を汚した罪滅ぼしだ」


そんなの気にしなくていいのに。でも、その気遣いが嬉しくて、ちょっとだけ悪戯心が疼いた。


「ふふっ。私がハイブランドのバッグが欲しいって言ったら、どうしますか?」


すると、漆喰さんもふっと笑った。


「じゃあ、明日買いに行こうか。京都の百貨店なら外商カードを持っているしな」


「え、えっ。外商カードって……」


漆喰さんはスマホを手に取ると、「コンビニに行こう」と部屋をスタスタ出ていく。


「ま、待ってください! 私のバッグなんて、そのへんので大丈夫ですからー!」


私も慌ててスマホと財布、上着を掴み、漆喰さんの後を追うのだった。

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