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その人はすらりとした長身に、ハニーブロンドの明るい髪色。

銀鼠色の着物を着た男性だった。背をこちらに向けているので、顔まではわからない。

一瞬、外国人の男性が着物をレンタルしてお参りに来たのかと思ったけれど、手荷物を持っていないあたり、日本人の観光客だろうか。


ゆっくりと参道を歩いて、その人に近づく。

どこからかお線香の香りがした。私にとっては懐かしい、境内の香りだ。端にある南天の木も、風にさわさわと揺れて元気そうだった。どこも変わったところがなくて、ホッとする。


さあ、手を合わせてから家に入ろう──そう思った時、前にいた男性がくるりとこちらを向いた。

白面の、綺麗な顔立ち。

ハニーブロンドの髪がさらりと揺れる。

眉、鼻、唇の形がくっきりとしていて、芸能人のように整った華やかな美貌だった。着物姿も実に艶やかで、容姿端麗という言葉がそのまま形になったような姿。


誰もが振り返るほどの美形。

けれど、私はある一点に目を奪われ、思わず言葉を漏らしていた。


「オリーブグリーンの瞳……そっくり……」


すると、その男性は私と視線が合うなり、ニコリと完璧な微笑みを浮かべた。それは舞台俳優のような甘い笑顔で──漆喰さんの笑顔と重なった。


「君、ひょっとして階宮さん?」


声まで明瞭だった。聞きやすい、良い声。

けれど、どこか温度の低い響き。

初対面の相手に名を呼ばれ、私の体は反射的に身構えた。


「……そうですけど。あの、あなたは?」


「僕は──漆喰輝夜。君に会いに来たんだ」


「!」


私の驚きに反応するかのように、境内にざあっと強い風が吹き抜けた。

嘘。漆喰輝夜って……漆喰さんの弟!?

本当に?

なぜ、そんな人が私の目の前にいるのかと混乱する。けれど、そのオリーブグリーンの瞳は、あまりにも漆喰さんに似すぎていた。

この人が弟さんで間違いなのだろう。そして私の元・お見合い相手。


突然の当事者の登場に頭の中は混乱し、何も言い返せない。

そんな私に、ざりっと草履の音を立てて輝夜さんが歩み寄る。


「来るのが遅くなってごめんね。お見合いの件で、本当は君にもっと早く会いたかったんだけど。色々と、旅立ちの準備をしていてね」


「旅立ちの準備……?」


「ああ、こっちの話。とにかく忙しくて君に会えなかった。そうしているうちに断られてしまって……それが残念でね。もう一度チャンスはないかと思って来たんだ」


にこにこと喋る様子に、不自然なところはない。

むしろ穏やかな表情と端正な容姿のせいで見惚れてしまいそうになるが──。


この人は、漆喰さんの心を痛めている原因そのもの。さらには健照教の幹部だ。

私は深呼吸をしてお腹に力を入れると、鋭い視線で輝夜さんを見つめた。


「わざわざ来てくださり、ありがとうございます。ですが、お見合いはお断りさせていただきました。失礼がありましたら申し訳ございません。ですが、これ以上私とあなたがお話しすることは何もありません」


「つれないね。でも、その凛とした態度、素敵だ」


また綺麗に微笑まれてしまう。私の言葉なんて、この人には何一つ届いていない気がした。けれど、ここで引くわけにはいかない。


「はっきり言います。あなたが欲しいのは──白狐様なんでしょう?」


「……へぇ」


漆喰さんとそっくりな瞳から、柔和な光が消えた。

それだけでゾワッとするような怖気を感じる。まるで、尖ったガラスの破片を突きつけられているような心地。


「白狐様は絶対にあげません。私はあなたと結婚なんてしません。ですから、お引き取りください」


「なんだか、僕のことを知っているみたいな素振りだね。ふぅん。何も知らない可愛い女の子だと思っていたけれど、違うみたいだ」


私は何も答えない。本当のところ、輝夜さんをじっと見つめ返すだけで精一杯だった。

漆喰さんもそうだけれど、あまりに綺麗な人は、そこに立っているだけで相手を圧倒する。この輝夜さんは、そのパワーが尋常ではない。


オーラやカリスマと言っても差し支えない、目に見えない迫力。まるで『魔性』だ。こんな人には出会ったことがない、と喉が鳴る。


「そんなに警戒しなくてもいいのに。いきなり取って食べようなんて思わないけれど……君は、食べたら美味しそうだ」


「……美味しくありませんよ」


「なら、一度食べさせてみてよ。何を怯えているのか分からないけれど、僕のところにおいで。悪いようにはしないから……ね?」


しなやかな手が伸びてきて、私の髪に触れた。

それだけで、彼が私を誘惑しているのだとはっきりと分かった。

怖い。なのに、動けない。

そう思った瞬間。ざくり、と果実が裂けるような音が耳元で響いた。


「……何の音?」


なんだろうと思った時には、私に触れていた輝夜さんの手がひゅっと引かれていた。


パタパタッ、と。

白い石畳の上に赤い液体が点々と落ちる。

夕日を受けて、その液体の表面がぬらりと輝いた。

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