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勇者アカネ

「ここが会場か。」

「……眠い。帰りたい。」

「帰りませんよ、エラ。」

「俺っちとしてはさっさと飯を食べたい。」

(わたくし)としてもそちらのほうが良いかと。」

それぞれの衣装を身に纏った俺たちは思い思いの事を喋りながら無駄に豪華な馬車から降りる。

あれから数日後、遂に剣魔祭前日となった。

俺たちはそれぞれのスーツやドレスに着替えてきた。

エラは紫色のIラインドレスを着ており、白い兎の髪飾りで前髪を止めている。

エリカは黒と白のフィッシュテールを着込み、白のカーディガンを身に着けている。

アルンは黒の燕尾服を着込み、腰に何時もの剣を帯刀としている。スーツと言うよりも執事じゃないか?

ジャスミンは俺らの中でも異質でまさかのアラビアンなドレスを羽織り、適度に露出している。

うーん……目立つな。全員が元の素材が良いこともあるけどこの場にあった服装をしているからか素材の良さをこれでもかと引き出している。

『す、すげぇ……。』

『綺麗……。』

『やだ、何あの人、かっこ良すぎない!?』

『ちょっと話しかけて来なさいよ。』

『む、無理だって……!』

やっぱり、目立ってんじゃねぇか。

「さっさと会場に行こうぜー。俺っちら、なんか目立ってるっぽいし。」

「分かっている。」

そうして、俺たちは人の目を気にしながらそそくさと会場に向かって歩き始めた。

会場はこの街で最も豪華な建物で、本来は各国の王族や上位貴族たちが使用する宿泊施設である『ステラ・サンジェルマン』と呼ばれる場所の大広間である。


=========

「ふう……。」

俺はシャンパンを片手に入ってきてすぐに気配を消して近くの壁際に移動する。

何故って?いくら気配を消しても黒纏いとは違って目には見える訳だからな。それは困る。

「む、ルーナ殿も来ていましたか。」

「久しぶり、なのかな。アネモ生徒会長。」

俺の隣にシャンパンの入ったグラスを持った少し疲れた顔をしたアネモが歩いてきた。

やっぱり貴族だからかこういった場の空気に慣れている雰囲気がする。やっぱり、こういった場所は慣れが必要なのかもな。

「少し疲れているように見える。」

「あぁ……、勇者たちと会話していてな。ついつい話が盛んになってしまってな。」

「勇者……ですか……。」

俺はあの忌々しい単語を聞き、僅かに顔をしかめる。

あの『ユウ』では無いことは分かっている……だが、勇者と言う言葉を聞くだけで怒りと憎悪が溢れだしそうになる。

……いかんな。こんな場所で殺気だってしまっては。

「少し風にでも当たって来る。」

「そうか。では、外の庭園を散策してみるといい。あの庭園は美しく、見所が多い。」

俺はシャンパンを飲み干してウェイターの盆に乗せて庭園に出る。

庭園には人がおらず、辺りはひっそりとしていて風がとても心地よい。

「……ルーナ?」

「お、エラか。」

庭園に入ってすぐの場所にあるベンチに少し窶れた顔をしたエラが座っていた。

そう言えば、さっき男女問わず囲まれていたからな。暗殺者として過ごしてきた時期が長かったエラにとっては珍しい体験だったかもな。

「……ルーナはどうして庭園に出てきたの?」

「あの空気に慣れなくてね。少し散策するつもりだ。」

「……そう。」

短く要点をまとめて伝えたらエラは目をつむり、瞑想を始めた。

さて、俺も少し散策するか。


「……迷った。」

俺はまさかの庭園の迷路で道に迷ってしまった。

アースリアの時も思ったが俺、かなりの方向音痴じゃないか?

仕方ない。[ウィンド・ポイントマップ]でも使って戻るとするか。

「ふっ!はっ!」

「……ん?」

僅かな風切り音とかけ声を聞いて俺は聞こえてきた方を見る。

聞こえてきた方には小さいながら細かい彫刻がされた白い噴水があり、そこで黒髪の少女が()を振るっていた。

少女は黒い袴を着ており、足袋(たび)を履いて草履を履き、長い黒髪を束ねてポニーテールにしている。

間違いない、彼女は勇者だ。

「……ん?そこに誰かいるのか?」

「……気配を隠していたのだがな。」

俺の視線に気がついた少女が刀を鞘に収め、こちらに声をかけてきたため仕方なく姿を表す。

本音を言えばさっさと去りたいのだが……逃げれる状態ではないし、仕方ないよな。

「……女か?」

「男だ。」

「にしては綺麗な顔立ちだな。」

「初対面の人に向かって失礼だと思わないのか?」

俺をいぶかしむ視線に僅かに怒りが滲む。

消してもいいが……辺りから人の気配がすることから考えても護衛がいるな。相手にするのは面倒だ。

だから堪えないとな。

「失礼した。私の名前はアカネ・シラツキ。貴方の名前は?」

「ルーナだ。」

「ルーナ……ねぇ……。そうだ、ルーナさん。」

「どうかしましたか?」

「一つ、勝負しませんか……!」

「ッ!!」

俺は背中に隠していた『アビス』から愛剣を取り出して抜刀してくるアカネの刀を防ぐ。

速い。そして、それなりの重さがある。それなりの剣士……いや、『侍』だと言うことがわかる。

「あまり、手をかけたくなかったんだがな……!」

俺は鍔競り合う剣を凪ぎ払い、距離を取った瞬間、剣を鞘に収めロケットスタートの要領で加速して抜刀する。

アカネはそれを見えているかのように刀で受け止め、振り払う。

「そう言う割には剣に迷いがないのですね。」

「生憎、俺は敵対者に容赦がないからな……!」

俺は再び加速して近づき、刀の間合いで剣を落とす(・・・)

「なっ……!?」

「甘いんだよ、お前は。」

僅かにアカネの視線がこぼれ落ちた剣に向き、刀の振り下ろすのを躊躇った瞬間、頭を握り、地面に叩きつける。

こっちは数年間もの間殺しあいの世界にいたんだぞ?勝つためならどんなことだってする。例え、自分の武器を捨て、こっちが不利になってもな。

「ま、参りました……。」

「なら、よし。」

地面に押し付ける手を離してアカネは起き上がる。

ちょっと白いスーツが汚れてしまったが……よし、ちょっとやるか。

「[風よ、我が穢れを落とせ『ウィンド・クリーン』]」

俺は風初級魔法を発動させて汚れを吹き落とす。

こういった小手先の魔法は俺の『夜風』にはないから風属性魔法でしか使えないんだよな。

「ルーナさん、広間に戻りませんか?」

「あぁ、戻るとしよう。」

俺とアカネは隣り合って歩き、広間の方に戻っていった。

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