奇妙な狂気と半人前の暗殺者
「お、ルーナじゃないか。」
「久しぶりだな、テルトラ。」
俺たちが会場の方に戻っていると、入れ替わりでスーツ姿のテルトラが広間から出てきた。
なんつーか、筋肉量が多過ぎてスーツがはち切れそうになっているんだが……まぁ、そこら辺は気にしたら負けだと思う。
「つーかルーナ。そっちの別嬪さんは?」
「アカネ・シラツキと言います。異世界の日本と呼ばれる国から来ました。」
「へー……へっ!?まさか、本物の勇者様かい!?」
「勇者……と呼ばれるにはまだまだ研鑽不足です。見習いと言った方がよろしいです。」
アカネの正体を知ったテルトラは目を飛び出すかと思うほど見開き、アカネは謙虚に礼をする。
名前から思った通り、アカネたちは日本……前世の故郷だったようだ。最も、その事について話すつもりはないけど。
「あ、アカネー!」
「せいっ!」
「わっきゃー!?」
「なんだよ、いきなり。」
「へぶっ!?」
いきなりテルトラの後方から飛び出してきたドレス姿の少女をアカネは俺がいる方向に投げてきてため、取りあえず腹に蹴りを入れて植え込みに蹴り飛ばす。
いきなりなんだよ、びっくりした……。
「いったーい。アカネ、いきなり何するの!?」
「それはこっちのセリフですよ、美鈴。ここは公共の場ですよ?」
「分かってるよ。……それにしても、隣の人、すごく綺麗な人だね。」
「うっさい。うせろ。」
「へぼぁ!?」
美鈴と呼ばれた人が飛び起きてこっちに近づいてきたため、裏拳で殴る。
すると、美鈴は体が回転して地面とキスする。
こいつ……体が勝手に殴り飛ばしてしまった。第六感が警告を鳴らしているのか。それに、なんだ?この感覚は。心の底からこの美鈴を嫌っている。今までこんなことは起きたことがないのに。
「す、すまない。美鈴はかなりはっちゃけた性格をしているのだ、許してくれ。」
「ま、いいか。」
「きゅー……。」
俺は適当に蹴り飛ばして美鈴をベンチに乗せて広間の中に入る。無論、気配を消してである。
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「なんか……凄い人ですね……。」
「ま、あれでも我らの学校の中でも最強の一角だし、傲慢になるのも当然だろう。」
「いいえ、彼の恐ろしいところは一切傲慢で無いことです。彼の行動には何かしらの意味があります。」
「意味?我にはそう思えないのだが……。」
「当たり前です。彼は自覚なく起こしているからかと思います。……あそこまで驚異となりうる戦士はそうそうにいませんよ。」
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「ふーむ……うまい。」
俺は適当にテーブルに置いてあったローストビーフを皿に乗せて食べる。
この食感……恐らくドラゴンの肉か。あまり食べたことがないが最低でもワイバーンよりも高位のドラゴンだ。
ドラゴンは最低ランクのワイバーンでもBランクであり、最高ランクに至っては、たった一頭で国家を滅ぼす災害とも言われている。
……もっとも、俺は一度しか見たことがないけど。
「あ、ルーナ。」
「よう。そっちも目立たないように精一杯だな。」
「こういう時にルーナやエラが羨ましいよ……。」
一人、壁際に寄ってスクランブルエッグを食べているエリカに話しかける。
こいつもこいつで色々と苦労していたようだ。でも、何事も経験だからな、やっておいて正解だろう。
「ジャスミンとアルンは向こうで話しているよ。……でておいでよ、殺さないから。」
「ふーん……それで、俺らの話を盗み聞きしている奴はどこのどいつだ。殺されたくなかったら出ろ。」
俺とエリカは話を止めて虚空に話しかける。
すると、虚空が歪み、赤いスーツを着たごくごく平凡なモブ顔の青年がいた。
空気を操っていたのか……?しかも、かなりの精度だ。……勇者たちの一人か。素質はあるし、人を殺す覚悟さえ手に入れればかなりの暗殺者になれるだろう。
「どうやって気がついたんだ?」
「「直感。」」
困惑する青年に俺とエリカは声をハモらせて答える。
俺らの直感はAランクを軽く凌駕する。それこそ、最高ランクのドラゴンと比較しても引けを取らないほどだ。
「いいな……俺さ、向こうにいた頃から影が薄くてさ……。」
「ふむふむ……。」
「影が薄すぎて先生からも半年ほど存在を忘れられてたりもしたんだ……。」
「それは……御愁傷様としか言えない。」
どこかうじうじとした動きをする青年に俺らは少し同情する。
暗殺者としての才能と素質がありすぎるだろ……。生活に影響でてるんじゃないか?色々と。
「それで、名前は?」
「あ、僕の名前はタクヤ・スズキ。一応こっちに召還されたかな。」
鈴木卓也、ねぇ……またなんとも言えないありふれた名前だな。
「あ、そうだ。向こうで同郷の人たちと話をしませんか?お互いによい刺激になるかと。」
「行かない。どうせ、強い能力でももった奴とかが取り仕切ってんだろ?そんな奴等と話を合わせる必要がない。」
「ボクも行かないかな。ご飯食べたいし。」
「うわぁ……。」
あまりにも自己中心的な考えの俺たちにタクヤはドン引きする。
ま、自己中心的な考えは別に建前だけど、陽キャの奴等と話すだけでも時間の無駄なんだよ。
「おい、タクヤ。」
「どうかしたの?」
仲間の元に戻ろうとするタクヤを俺は呼び止める。
こいつ、なかなか良い素質や才能があるんだし、それを生かせるように助言しておこう。
「暗殺者の才能があるんだ、それを十全に生かせるように努力しろ。」
「あ、暗殺者って……僕は人殺しなんてしたくないんだけど……。」
「この世界は残酷だ。そんな甘い考えを持った奴から死んでいく。」
「なっ……!」
俺の言葉にタクヤは驚きを隠せずに目を見開く。
唐突に言われたらそりゃそうなるか。けど、エラに匹敵するほどの暗殺の才能を生かさないというのは少しつまらない。
「お前らの世界の道徳心については知らん。だが、この世界は人の命は軽い。才能を十全に生かし、殺される前に殺さないとこっちが殺される、そんな世界だ。」
「……………。」
「残酷な選択こそがこの世界の理だ。……最も、俺がそれを知ったのは大切な物が全て失われた後だったけど。」
「……僕、は……。」
タクヤは暗い顔をして押し黙る。
さて、言うこと言ったし飯を食いにでも行こうか……あ、そうだ。これも伝えておかないとな。
「ついでに言っておく。さっさと同郷の奴等から離れろ。地位とかも捨ててな。」
「えっ……?」
「そちらの同郷の中には人の命をなんとも思わない奴がいる。そいつに殺されたくなければ最短でも今すぐ、最長でも剣魔祭終了後、武者修行にでも出掛けろ。」
俺はタクヤの答えを待たずに人混みの中に紛れる。
さて、飯でも食べますか。




