交易場
「……あれか。」
「……そうだぜマスター。」
俺とウェルは物陰から二人の男が見張りをしている扉を確認する。
俺の『トワイライト・ミックスボイス』だとあの扉の奥に巨大な空間があることが分かる。そしてそこが違法奴隷の交易場だと予測している。
けど、どう入ったものか。恐らく何かしら暗号を言わないといけない思うし無理矢理破壊すれば普通にバレる。どうしたものか。
「よし、マスター。ちょっとどいてくれ。」
「どうするんだ?」
「何、一発であいつらをどうにかしてやる。」
俺の陰からウェルは出て男たちの方に歩いていく。
何をするつもりだ?俺としては何をするのか若干楽しみではあるけどわざわざ拾った命、無駄にはしないでもらいたい。
「おい、貴様何者だ!?」
「お兄さんたち……私の眼を見て?」
男たちの視線がウェルの眼に向いた瞬間男たちは武器を捨ててしまった。
なるほど、魔眼持ちか。あの様子から見ると『魅了』、『支配』、『隷属』の類いか。
「では、私の連れと一緒に入れてもらえるかしら。」
「よろしいでしょう。」
話が纏まりそうになってきたからウェルの方に歩いていく。すると男たちは俺を歓迎して重そうな扉を開ける。
よし、これで中に入れる。
「では、これで。」
そう言って男たちは扉を閉める。
さて、これで中に入れたけどどこにいこうか。感じる魔力的には結構な奴隷がいることが分かるけど今回は解放ではなく調査だしな。
取りあえず、進もう。
「おい、中に入ったけど何をするんだマスター?」
「取りあえず裏帳簿を探しだして奪う。その後さっさと撤収だ。」
「へへっ、簡単で分かりやすいんだぜ。」
そう言って俺たちは中を進んでいく。
中は全体的に暗いが広く、一つのゲージの中に五から十人程の奴隷が押し込まれており、こちらを警戒するような視線が感じれる。また、悲鳴もよく聞こえ、その後すぐに聞こえなくなったりもする。それに、幾つかの船もあることが分かる。まさに密輸用の港だ。
他にも盛っているところにも遭遇したり従業員であるゴロツキどもにバレそうになったりとかなり大変だった。
「どこにもないなマスター。」
「そりゃあ裏帳簿だ。見つかったら一発で終わりの代物だぞ?簡単に見つかるなんて思っていない。……お?あれは……。」
俺は物陰から見えた一人のエルフの男の後を追い、その後ろをウェルが追う。
男は仕立ての良い黒いスーツを着込み、手には白い手袋を着け、灰色の髪にシルクハットをかぶり、片手には杖を持っていた。
前に会った時からあの場の雰囲気とはミスマッチな服を着ているな。
男の名前はティターン・ドーピスト。『地下闘技場』の支配人であり、俺とコネクションを持つ人物だ。
「よお、ティターン。」
「おや、あなたはルーナではありませんか。」
俺はティターンに話しかけ、ティターンは笑顔で手を出してくるからその手を握る。
こいつ、見た目や口調は紳士的なのに中身はバリバリの武闘派で会った人物の手を握ることで相手の力量を測っているのだ。
「それで、ルーナはここに何をしに来ているのですか?」
「何、ダンタロッサ商会を潰す依頼を受けてその裏帳簿を探しに来たんだ。」
「裏帳簿ですか。実は私もそれを確認しに来たんですよ。そう言えばそちらのお嬢さんは?」
「オレはウェル。マスターの奴隷さ。」
ティターンはウェルをいぶかしむ目で見た後すぐに何時もの明るい笑顔に戻した。
こいつ、今の言葉に嘘がないか確認していたのか。
「それにしても、ティターンも裏帳簿を狙っていたとは意外だったな。」
「ええ。私としてもこの港から流される犯罪奴隷たちを使って殺しあいをさせていますが、最近は妙におかしいのです。」
「おかしい?」
「実は最近『ウッド』の中毒者ばかりがこっちに流れて来ているのですよ。私としてもその状況は受け入れがたいのですよ。」
俺とティターンは中を歩きながら話し、裏帳簿がありそうな場所を探す。
裏帳簿がありそうな場所ならこの広い空間のどれかにあることは予想出来ているが……俺としてもコネクションの相手であるティターンの話しには興味がある。
「やはり、裏帳簿の鍵となるのは『ウッド』中毒者か。」
「ええ。私もそう睨んでいます。」
「じゃあ、一つ聞きたいが……高級奴隷がいる場所はどこにある。」
「高級奴隷……?なるほど、そうゆうことですか。こちらです。」
俺の言葉の深意を理解したティターンは俺らの前に出て道を示す。
さっきから奴隷たちを見てきたけど一体も魔族がいなかった。魔族は普通の奴隷よりも高価だし、そういった高級な奴隷は一つに集められているのだろう、と予想したのだ。
そして、高級な物があるところは警護が固い。裏帳簿を隠すにはぴったりだ。
「……あの扉の奥ですね。」
「……ああ。」
要り組んだ道を通り、俺たちは高級感が漂う扉の前に立つ。
この扉は他の場所のように薄暗くなく、いつも灯りが灯っていたためどう考えても高級奴隷がいるエリアだろう。
「けど、この扉……」
「ええ、魔道具です。触れた相手が入る資格のない者だと攻撃を仕掛ける類いですよ。」
俺はこの扉には手を着けず、僅かにある魔力の気配のみで魔道具であることを見抜く。
魔道具だということは別に解除する方法はあるけど……ティターンに見られることとなる。こいつから俺の能力が分かると困る。故に使えない。どうしたものか。
「あ、この鍵はこの扉の鍵だったのか。」
「「えっ?」」
ウェルは指で鍵束を回しており、それを見た俺とティターンはすっとんきょうな声をあげる。
えっ!?まさかすったのか!?俺らとしてはありがたいけど、いつの間に!?
「へへっ、俺の盗人時代の手癖の悪さでつい盗んでしまったけどマスターたちにメリットがあって良かったぜ。」
猫のような笑みを浮かべながら鍵を差し込み、扉のロックを解除する。
こいつ、元盗賊か。それも俺らに気づかないうちに物を盗むとなるとかなり優秀だとわかる。これはかなりメリットのある買い物だったな。
「ここが高級奴隷の部屋か。」
「……ほう。」
俺は扉の奥にある広間に入り、驚嘆する。
壁には金銀財宝で出来た装飾に高価そうな壷や絵画などが置かれ、ゲージの中にはヒューマンやエルフ、ドワーフたち以外にも『エンジェル』『ゴースト』『ヴァンパイア』『鬼』なんかの魔族も多い。
そして何より特徴的なのは客層の違いだ。
先ほどの客層はゴロツキや商人たちだったがここの客層は王族や貴族といった上級階級ばかりだ。おおよそ、ここに呼ぶ人たちを選別しているのだろう。
「私としてもここに入ることになるとは予想外でしたが……。」
「まぁ、よくね?」
「そうですね。……おや、あの人はドルトマス王国の王家の紋章を持っていますね。」
俺たちはゲージの影に隠れながら裏帳簿を探していると奥で商談をしている従者と思われる人間が見える。そして商談相手は……
(シリウス・ダンタロッサ……!)
肥太った豚のような体型に油汗を流し、目を欲望にギラつかせる男だ。
見間違える筈がない。俺らの村を焼いた勇者の仲間の一人、シリウス・ダンタロッサに違いない。
「おや、どうかしましたかルーナさん?」
「マスター、なんか顔が怖いんだぜ。」
「……すまない。」
俺は今すぐにでも殺したい感情を押し留めて商談のほうを見る。
今は助かったなダンタロッサ。もし、この二人がいなければ確実に殺していただろうな。
「『今からオークションを始めるから手配を始めます。会場の方にお向かいしてください』『わかりました』」
「読唇術か。」
「そうだぜマスター。」
ナイスだウェル。あのダンタロッサが取り仕切っているのだったら裏帳簿を守る警護が若干手薄になるはずだ。
あとは場所だが……仕方ない、か。
「仕方ない、使うか。[風よ、風よ。迷宮を迷いし我に道を示せ。王の歩みは何人たりと止めてはならない。『ウィンド・ポイントマップ』]」
俺は白い風を生み出し、脳内に目的地までの道のりをインストールする。
これはあまり使いたくなかったが……仕方ないだろうな。見つからなかったら元も子もないからな。
「こっちだ……!」
「本当に、ルーナさんを味方につけると百人力ですね。」
「はっ、言ってろ。……裏切るなよ?」
「分かってますよ。殺されたくないですし。」
「なにやってんだマスターたち!さっさといこう!」
俺とティターンが全く目が笑っていない笑みを浮かべながら走っていると後ろを走っているウェルからツッコミが入る。
さっさと裏帳簿を見つけ出しますか!




