魔の調査
「ぬおおおおォォォォォォ……。」
「ちょっとまって下さいね『自然よ、大地よ、全ての怨嗟を絶ちきり、祝福を[スフィア・ヒール]」
俺は無理やり起こしたジャスミンに回復魔法を掛けてもらい、両腕の骨折と筋肉を癒してもらう。
すると、みるみるうちに傷がふさがり、骨折も治り、痛みも引いていく。
黒オークと闘っていたときはそこまで痛みを感じていなかったんだが……脳内麻薬でも出てたのかな?
「全く……これに関しては他の人たちに伝えないほうがいいでしょう。」
「まぁ、そっちのほうが良いだろうな……あ、『変異種』のオークの肉欲しいか?」
「ぜひ貰っておきたいわね。」
「ほらよ。」
「うわっとと。」
ジャスミンに対する口封じのために解体した黒オークの腕を渡す。
変異種の素材はかなり高く売れるからな。生粋の回復術者であるジャスミンにはそこそこ嬉しい物だと思う。実際、今もニヤニヤしている。
「……ふわぁ……。」
小さく可愛いあくびをしながらエメラルド色の髪した左目が紅色、右目がエメラルド色をした妙に神秘的な雰囲気の少女が天幕の場所から出てきた。
カスミか……?いや、カスミは両目がエメラルド色をしていたからこいつはセチアか。起きたってことは魔力が回復したようだ。
「……貴方たちは?」
「ん?ただの冒険者だが?」
「……?その力、私と同じ……いえ、何もないわ。」
セチアは年不相応の口調で俺らと話す。
……?今一瞬、今まで感じた事がない魔力を感じたのたのだが……気のせいか。
「あ、お姉ちゃん!」
「カスミ、大丈夫だった?」
「うん……!うん……!」
荷台から降りてきたカスミは自分の姉の姿を見て涙を流しながら飛び付いてきたため、セチアはカスミを抱き抱える。
いやー、やっぱりガキは悲しい涙よりも嬉しい涙のほうがいい気がする。これで移動するときの懸念が一気に吹き飛んだな。
「さて、他の奴等を叩き起こせ。飯を食ったら直ぐに出発だ。」
========
「ふーむ……。」
俺はセチアをコアに使った魔道具の部品を見て唸り声を上げながら首を傾げる。
俺らは他の奴等を叩き起こし、簡単な食事をとって馬車での移動を始めた。因みに馬も荷台もあったから囚われていた人たちはそっちに乗せた。
それと、あの姉妹の引き取り手に立候補したカーネと姉妹が交渉し、無事に引き取る事となった。
そして、俺は暇潰しにとロボット型魔道具の解析に当たっていたが、幾つもの奇妙な点について頭を悩ませていた。
「……どうかしたの、ルーナ。」
「エラか。いや、この魔道具の部品とかおかし過ぎてな。」
「……確かに、素材である最高級魔鉱石の『オリハルコン』にしては魔力が伝わりにくく、重い。」
エラは俺が調べていた魔道具の部品を持ち上げようとして持ち上がらず、珍しく不思議そうな顔をした。
オリハルコンとは俺のブーツの素材であるミスリルよりも希少価値の高い魔鉱石だ。特性は軽く、頑丈であり、魔力が極めて伝わり易い性質にある。
だが、これは俺がやっと両手でやっと持てるほどの重さであり、俺の攻撃を食らっただけであっさりと壊れるほど柔らかく、魔力があまり伝わりにくい。
数千年はかかるが経年劣化はするものの幾らなんでもここまで酷くはない。となると、別の要素が絡んでくると見て間違いないだろう。
(でも、一体なにが……)
「どうかしたのか、ルーナ。」
「うわぁ!?」
突然、耳元に蠱惑的な声が聞こえ、びっくりしてそっちの方向を見るといつの間にか簡単な服を着たセチアがいた。
確か、セチアはカスミやカーネたちと一緒の馬車に乗っていたはず。なのになんでこっちにいるんだ!?
「……どうやってこっちに来た。」
「私の魔法を使っただけよ。」
「あぁ、このガキンチョ、魔法陣から出てきたぞ。」
うかがわしい目でセチアを見ていると、俺の調査を勝手に覗き込んでいたディアがセチアの言葉を肯定する。
魔法で……?でも、魔法なら俺が探知出来ない筈がない。特に、俺の近くで発生するとなれば尚更だ。
「まぁ、それはいいでしょう。ちょっと貴方の調査に興味があって来たのよ。あの子は今カーネと話しているから暇潰しにね。」
「……そう。」
「じゃあ、これをどう見る。」
俺が魔道具をセチアの前にずらすとセチアは座り込み、両目を碧くして魔道具を細かく見る。
目の色が変わった……?こいつ、『魔眼』持ちか……!
魔眼。それは目に特殊な加護が宿った希少な加護持ちである。常時発動型や任意発動型などの違いがあるが、どれも強力な力を持っている。
希少な加護を宿った存在をあの魔道具に取り込ませていたのか。もしかして盗賊どものスポンサーは普通の奴を入れた時と魔眼持ちとの差を調べていたかもな。
「……成る程ね。」
「分かったのか?」
「はぁ……はぁ……、ええ……。この魔道具、模造品よ。言い換えるならコピーした物ね。」
一つの結果を言ったセチアは後退り、呼吸を荒くしながら木箱の上に座る。
……コピー品?確かに前世では紙資料とかならコピーした物が多かったけど、この世界では物質をコピー出来るのか?
「……物質のコピーは不可能。」
「そう……それがおかしな点なのよ……。普通ならあり得ないことが現実に起こっているというのはおかしいとしか言い様がないじゃない……。」
息を荒くしながらこっちを見るセチアの顔を見ても何一つ分かっていないように見える。
……………………あ。
「まさか……ゆう―――――――
「みなさーん、そろそろガジェットに着きますよー。」
俺の言葉は行者の言葉にかき消され、声をあげた瞬間、全員の視線が行者に向く。
ちっ、一つの仮説を言おうとしたのに盛大にじゃまされてしまった。まぁ、よくよく考えたらこの仮説はまだ憶測の内を出てないから言えないな。
「……セチアは?」
「あれ?あいつ、どこにいったんだ?」
視線を戻すといつの間にかセチアは消えていた。
一体どう言うことだ?いきなり現れたり消えたり、どんな魔法を使えばそんな事が出来るんだよ。
でも、ここからは気分を入れ替えないとな。
俺には勝利を望んでいる仲間たちがいる。くよくよ考えている時間はもう終わりだ。
さあ、行こう。
========
「……おかしな人でしたね。」
私は元の馬車に完全無詠唱で空間精霊魔法の一つ『スパチウム・テレポート』を使い、気づかれずに戻ってくる。
(私も人の言葉は言えませんけど、あの精霊たちは一体……。)
私は少し考える。
私は生まれつき半精霊と呼ばれる精霊に近い存在であるハイ・エルフよりも更に精霊に近い存在で希有な空間精霊という側面を持っています。
また、特殊な眼を持っていて人の魔力や精霊を見ることが出来ます。
そのせいか、周りからは神子と呼ばれていて、そう呼ばないのは妹のカスミだけでした。
そんな異常で異端な私から見ても、彼……私を助けてくれたルーナというハーフエルフの青年は私から見ても異質でした。
彼から無意識に発せられる魔力は黒と白、二つの色を持っていてそれぞれが干渉しないようになっていました。
普通なら二つの色を持つことは無いのに、どうゆうことなのでしょう。
(それに、彼の精霊たちは一体……。)
彼には複数の精霊からの加護がありました。
普通、精霊は生まれ故郷である『フェアリーガーデン』でも発光体が基本。けど、彼の精霊は発光体ではなく人のような形をしていました。
一人目は瑠璃色の髪下に伸ばし、髪と同じ色の穏やかそうな瞳をしており、髪と眼と同じ色をした美しく簡素なドレスを羽織った令嬢とも呼べる長身の精霊。
二人目は黒い短い髪に黒いつり目の瞳、蠱惑的な笑みを浮かべ、褐色の肌の多くをさらけ出している美しい娼婦のような精霊。
三人目はくすんだ朱色のカールした長い髪に同じ色の睨むような瞳、凶暴な笑みを浮かべながら周りの空気が歪んで見えるほどの凝縮された魔力を放ち、赤と黒を主軸とした豪華なドレスを着こんだ悪女のような精霊。
四人目は……よく見えなかった。ただ、白いということしか分からなかった。それこそが最も異質な精霊。
彼とは本当に何者なのでしょうか。手元に置いて置きたいけど、恩人である彼を手元に置いておくのは少し気が引けますね。
まぁ、向こうから言ってくるのであれば別ですが。
「おい、酔っていないかい?大丈夫かい。」
「大丈夫です。」
考えていたら緑色の髪をしたヒューマンに話しかけられた。
確か、リーフと言う名前でしたか。かなりおしとやかな性格だと認識していましたが。
「あ、お姉ちゃん!」
「……あ、カスミ。」
私が再び考え事に浸ろうとした時、今度はカスミが話しかけてきた。
カスミは私を人として見てくれる数少ない人。無下には出来ない。
「お姉ちゃん、そろそろつくね。」
「……ええ。」
無垢な笑みを浮かべながらこっちを見てくるカスミに対して僅かに微笑みながら話す。
私は彼女の無垢な笑みを護れるのなら何だってする。これは私が私とした誓いだ。
―――――例え、何があっても。