黒猫亭
「ほい、着いたぞい。」
「ありがとさん。」
朝方、俺はここまで連れてきてくれた行者に礼を言いながら馬車を降りる。
ガジェットに着いた俺らはカスミたちと別れ、宿泊先である黒い猫の看板のある宿『黒猫亭』の前に止まったのだ。
黒猫亭は三階建ての建物で一階が酒場、二階からが宿泊でき、ちょっと羽振りの良い冒険者や商人が来そうな雰囲気のある宿だ。
前世の言葉で言うなら『民宿』や『旅館』と言った宿泊施設が正に合う建物だ。……修学旅行ではいじめられたり友達がいなかったりと良い思い出は無かったけど。
「ねぇリーニャ。」
「なんニャ?」
「この後、空いてる?ちょっと出店を見て周りたいのだけど。」
「いいニャ!」
「その前に酒だろ?」
「酒ならここでも飲めるぞ。」
「いよっしゃあ!」
「……と、俺は用事があるからちょっと抜けるで。」
「分かってるよ。」
((((((……この宿の中からかなりめんどそうな気配がする。)))))
キュールたちが無駄に大はしゃぎしているなか、俺たちはこの宿の中から発せられているであろう面倒そうな気配を感じとっていた。
何て言うか……あれだな、ずっと酒を飲んでしかも酒癖の悪い奴の気配がする。てか、中に入っていないのに気配が感じるとか、Aランク冒険者の『海賊船長』か『天廻り』ぐらいだろうけど……。
「入るか。」
俺は腹を括り、扉を開けて黒猫亭の中に入る。
中は木で出来たカウンターにテーブルが複数ある酒場とカウンターが併設され、机や椅子が小綺麗に清掃されていて輝いてみえる。
厨房では恐らく主人と目されるヒューマンが朝食の準備をしており、その手伝いなのか黒猫の獣人の婦人も厨房の中に入っている。
うん、なかなかいい宿だ。どこか家庭的な雰囲気が漂っていてかなりいい。
「……あ、ごめんなさいね。貴方たちが最後の参加者かい?」
「そうだ。」
ケラケラと笑いながら厨房から黒猫の獣人の婦人が出て来てカウンターの方に向かったため、そっちに言ったら婦人が話しかけてきたため、俺は肯定する。
この婦人……歩き方が堅気の人歩き方ではなく気配を隠す歩き方をしていた。これは素直に従っておいたほうがいいだろう。
「何故遅れたのか……と、聞くのは野暮だね。ようこそ!黒猫亭へ!」
「お、おう……。」
俺は圧の強い婦人に若干引きぎみとなり、僅かに苦笑いをしてしまう。
「取りあえず、二階の隅っこの部屋。皆同じ部屋だったね。勿論……こういった行為をするんじゃないよ。」
僅かに殺気をだしながら親指を人差し指と中指の間に入れてこっちに見せてくるから首肯してさっさと上に向かう。
婦人……俺らはそんな事しないと思うぜ……。多分。
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「ふう……。」
「あー!久々の馬車乗りで疲れたー!」
「……ちょっと寝る。」
「よし、取りあえず剣を振ってくる。」
「ちょっとは待ちなさいよ!」
部屋の中に入り、俺は備え付けの椅子に座り剣の手入れを行い、エリカはベッドの上で魔法の本を読み、エラはベッドに倒れこんで眠り始め、剣を振りに行こうとしたアルンの襟をジャスミンが青筋を立てながら引っ張る。
部屋の内装は良くある平民用の宿の内装だが清掃が行き届いていてかなり綺麗だ。
「取りあえず、少し休憩したら礼服の仕立てをしに行くか。その後は自由と言うことで。それと―――殺気!」
突如窓の外から強烈な殺気を感じとり、剣を振るうと雪のような白髪のエルフの少女が短剣を構えており、刃先を首筋に当てていた。
こいつ……!全く気づかなかったぞ……!まさか、こいつが……!
「『天廻り』、か……!」
「うん、そうだよ。」
『天廻り』は殺気を収め、ナイフを鞘に入れる。
こいつ……何が目的だ?普通、こう言う国際試合に出てくる場合、邪魔な奴を排除に動くとは思うが……。
いや、さっきの奴で思い出した。こいつは……『雪花の赤』だ。確か、雪の降る土地で赤色のAランクの魔物、レッドドラゴンを単独で討伐した空中戦のプロ……!
その特性は……圧倒的な緩急の上手さに特徴があると言われてる。
こいつは厄介そうだ。何せ、緩急が上手いとなると剣撃の中での駆け引きを深く読まないといけなくなるからな。
「それで、何故私たちの部屋に?」
「これはすまない。私は少し―――――――
厄介な事件に巻き込まれてまして。」




