交渉と収集
「厄介な事件?」
「ええ。それで少し手伝ってもらいたいのです。」
俺らは怪訝そうな目で『天廻り』を見つめる。
面倒そうだが……ここで『天廻り』とコネクションを作っておくのも悪くない。受けておいて損よりも大きな得がありそうだ。
「俺っちはいいぜ。困ってる人を助けるのは騎士志望にとっては当たり前のことだからな。」
「やることもないし暇だからいいよー。」
「……面倒そうだからパス。私には私でやらなければならない依頼がある。」
「私はこの街の治療院に行っておきたいです。ポーション類を買いそろえておきませんと。」
「俺は参加しよう。」
アルン、エリカ、俺は『天廻り』の依頼の手伝いをすることを了承し、エラ、ジャスミンは自分たちの用事を済ませる事となり、秘匿性を高めるために部屋の外に出ていった。
「ありがとう。では、説明する。……この街では数ヶ月前から誘拐事件が多発しているんだ。」
「誘拐?それがどうかしたのか?」
「まさか、俺っち達に被害者を探しだせ、とか言うなよ。俺っちらでも無理がある。」
「分かってるよ『闘武』。それに、ある程度の居場所は分かってる。」
『天廻り』は面倒くさそうな顔をしているアルンや俺の前に羊皮紙の資料を置く。
何がかかれているんだ……?これは街の地図か。街全体の通路全域がかかれている。そういった事が得意な奴が書いたのか。
(……?)
俺は地図の中に幾つかの×印があることに気づいた。
これは、恐らく……
「この×印、被害者たちの死体でもあったのか。」
「ええ、その通り。今分かってるだけでも百人ほど消えている。そして見つかったのはその数人だけだ。」
「となると、他の人たちは一体どこに……。」
アルンやエリカ、俺はそれぞれが頭を悩ませて考えた。
恐らく、被害者たちが何かしらの事件に巻き込まれたと言うことは間違いないだろう。となると誰がやったのか……。そこがじゅうようだな。
「……あ、分かりました。」
「……えっ?もう分かったの?」
「ええ……。けど、一体誰が……。」
……あぁ、成る程な。
「この事件、予想よりも分かりやすかったな。」
「……あ、そういうことか。」
どうやらアルンも理解したようだ。なんやかんやアルンは直感に優れているからな。
「これは恐らく……奴隷の販売。更に言えばかなり大きな犯罪ルートとなります。」
「奴隷の販売?つまり、違法奴隷と言うことか。」
「そうなるだろうな。この街は川から引いた水を使って上下水道がある。それを利用して川に出ることだって可能だ。」
「そして、川の近くにある馬車置き場で乗り替えて他国に売り捌く、と言ったところか。」
俺たちは息を合わせて一つの仮説を言う。
実はキルマークがついている場所の近くには上水道と地上のつながる場所があるのだ。この街は大きな河と河の間の土地にできているから水を引いて上下水道に使っているのだ。そして、上下水道は外に繋がり、数分もすれば海に出れる。地上路で行くよりも遥かに早く海に出れる。
そして海に出れば近くの港町に停泊している違法商船に積み込んで国外に輸出できる、と言うことだ。
そして、あの盗賊団は自分たちが奪ってくるだけではなく乗り替え場の警護であり、陸路の重要拠点の一つでもあったんだ。だから規模に比べて金品や奴隷、馬車が多く、よく分からない魔道具があったのだ。
「更に言えばその馬車置き場兼盗賊団は来る途中で潰した。その時に裏帳簿も入手した。」
俺は『アビス』からこれまでに売り払った奴隷の番号が刻まれた羊皮紙製の帳簿を取り出す。
これには売り先や買い手、奴隷の健康状態、更には裏金などが事細かに書かれていた。まさに黒い手帳と言うわけだ。
そして、その中には国内外の貴族、違法娼館、高名な研究者や研究施設、憎きダンタロッサ商会などの大手商会の多くの名前が記載されていた。
「凄い……これを使えばここに書かれている者たちは全て憲兵たちに捕まるのでは……?」
「いや、これは使えない。無駄な混乱を引き起こす要因となる。」
「え、ルーナには何か策でもあるの?」
「ない。正直に言えば、もう売られた時点で所有物になってしまった訳だけらな。」
「そんな……それでも貴方がするはずがありません『黒風』!」
声を荒げて机に手をついてこっちに前のめりで睨んでくる『天廻り』に対して、俺はあくまで冷静を装う。
これは幾らなんでも規模が大きすぎる。俺ではやることが出来ない。それこそ、国を巻き込まないといけないのだから。
けど、幾つか方法はあるけどな。……ちょっと即効性に欠けるけど。
「俺だって幾つか作戦は考えたさ。
一つ目、この裏帳簿を剣魔祭で出す。これは悪手だ。やれば確実に諜報機関に殺される運命が待っている。
二つ目、本人達を脅す。これは俺らから近づかないといけないから待ち伏せされる可能が極めて高いから無理だ。
三つ目、国や本人たちではない第三勢力に渡す。俺らの場合は『ギルド』の幹部に渡す、と言ったところか。これは俺らの安全性はあるが証拠を揉み消される可能性が高い。実際、俺たちはそう言った不当な事をされてきたからな。」
「不当な事とは?」
「俺っちの場合は報酬が半減されたり無駄に危険な昇段試験だったな。確か、Aランク昇段試験はSランクの魔物『クラーケン』の単独討伐だったな。」
「ボクもSランクの魔物……確か名前は『ゴールデンタイタン』の単独討伐だったね。」
「俺はSランクの魔物……ではなくカルト教団『魔女の神名裁判』の全体指揮で……味方の死者ゼロにせよ、だったな。」
「そ、それは……理不尽過ぎない?」
俺たちはそれぞれのAランク昇段試験の内容を理不尽な内容として『天廻り』に言うと苦笑いをした。
あれは酷かった。まず部隊の編成でそれぞれの相性とか能力を見定めなければならなかったし俺は若いから舐められないように歯向かってくる冒険者たちは叩き潰した。
部隊の編成をし終わったら次は作戦の立案だったがそれで揉めに揉めたから最終的に俺の作戦を強引に承諾させた。
しかも、決行当日になったらどこから漏れたのか分からないが情報が漏れていて罠に嵌められてしまったりして混戦状態となった。
命令を聞かない馬鹿が勝手に突入して死にそうになれば俺が助け、教祖や幹部には逃げられるし、教団の奴等が引き連れてきた魔物に襲われるしで死者が出なかったのは奇跡に近かった。
そのくせ報酬が金貨十枚とかショボ過ぎるだろ……!
でも、結果的に俺をAランク冒険者だと認める奴等が多くなったのは良いことだけど。……若干畏怖されていた気もするが。
てか、『クラーケン』に『ゴールデンタイタン』とか俺でも見たことがない希少な魔物だぞ。それに勝利したとか……いいな。あいつらの素材は
「ま、それは置いといて……ここまで上層部が腐っていたら信じれない。だから四つ目だ。
四つ目は売られた被害者達を全員奪う事だ。これは……現実的だがあまりお薦め出来ない。単純に労力の問題がある。人を増やせば情報が漏れる、だからと言って減らせば人手が足りない。
故に詰んでるんだよ。助け出せるのは商会に囚われている人たちだけ。それ以上は人手不足で出来ない。」
「……逆に言えば人手が多ければ問題ないと?」
「ああ。しかも、個人的に信用できる奴でないと駄目だ。」
「……私はこれでも王族に顔が利く。ツテを使えば何とか出来るかもしれない。」
「王族は信用出来ない。」
俺は『天廻り』の意見を無表情で真っ向から否定する。
王族たちは派閥争いばかりに明け暮れている。そのせいで魔物たちに泣かされる者の嘆きを知らない。呼び出した者たちが起こしてきた悲劇を知らない。
そんな奴等を……信用出来ると思っているのか!!
「けど、私はやるよ。それだけが全ての命を救える手段となりうるのなら。」
「私はルーナについていくよ。貴方の言葉は絵空事。夢物語に過ぎない。救える命なんて、限られているのだもの。」
「ま、俺っちもエリカに賛成だな。商会なら案外簡単に潰せるけど幾らなんでも貴族を相手にするのはちょっと厳しい。」
「……なら、交渉は決裂だ。」
俺らの意見を聞き、怒りを滲ませながら『天廻り』は部屋の外に出ていった。
あの『天廻り』……実力は確かにAランクだろうけど言っていることが夢物語すぎる。あれでは理想を追及しすぎて救えるものも救えないだろう。
俺からしたら……取りあえず冒険者は止めろ、としか言えない。
が………
「どうするんだリーダー。交渉が決裂してしまったぞ。」
「取りあえず、礼服を作った後にでも探してみるか。」
その情報は無駄にするつもりはない、
ここでダンタロッサ商会の致命的な欠点の一つを捕まえておけば……復讐の材料は全て揃う。
そうすれば……崩壊の喜劇の始まりだ。




