閑話 月の始まり 後後編
「はぁ……はぁ……。なんとか……勝てたな……。」
俺は最後のホブゴブリンを斬り殺し、近くにある木に手を支えながら、返り血まみれの顔を拭いた。
俺の手に既に剣はなく、身体中のいたるところにあるホブゴブリンたちから受けた傷から出血している。
……主観的に見てもそこそこの重症だな。鉄製の剣を装備していた奴らの多くを此方に誘導できたのはよかったけど、俺の負担が大きくなっていたようだな、これは後で反省しよう。
「取りあえず簡単に傷を癒すか[夜風・月光治癒]。」
俺が生み出した儚い光が傷口に集まり、傷を癒やしていく。
「けど、あくまで傷を癒すだけだから、体の疲労は回復出来ないのは欠点だよな……。」
それに、戦っている中で無詠唱の致命的なデメリットが分かってきた。
詠唱とは、魔法を発動させる時、属性、出力、射程、効果を明確にするための暗号文のようなものだ。それを実像として表しているのが魔法陣なのだ。言うならば、制限をかけられているのだ。
だが、無詠唱にはそれらを調節するためのものがない。当たり前だ、それらを無くす代わりに速く撃てるのだからな。
そのため、魔法を撃とうとすればいくらでも撃てる。それが自分の限界を越え、体に負荷がかかってもだ。
「後で全員に伝えておかないとな。」
「リーダー!ジャスミンが致命傷を負っちまった!治してくれ!」
向こうの茂みから大きな傷がついたジャスミンを背中におぶせながらアルンが走ってきた。
うわ、これは酷い。
傷が深すぎて内臓の一部が見えていやがる。これは一刻も速く回復させないと……!
「[黄昏の精霊よ、わが同胞を傷を癒やし、呪詛を解除せよ、[トワイライト・エインヘリヤル]」
傷口に向けた俺の両手から瑠璃色の光が産み出され、みるみるうちに傷を癒やしていく。
「う……、ルーナさん?」
「意識を取り戻したか……。よかった。」
ジャスミンが意識を取り戻した。それは良かった……。
「ぐっ……!」
「リーダー!?」
「ルーナさん!?」
「大丈夫だ……。」
嘘だ。
どうやら、主要な血管ではないが、腹の血管の一部が千切れたようだ……。
俺の魔力も尽きかけているな……。取りあえず、休息を取って魔力の回復に専念しよう……。
「……あ、ルーナたちだ。」
「勝ってきたよー。」
反対側の茂みから血塗れのエラと顔色が悪くなってエラに担がれたエリカがやって来た。
「エリカ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ大丈夫。」
エリカはエラから降り、木陰座り込んだ。
……エリカの奴、降りたとき僅かに膝が震えていた。しかも、頭からかなりの脂汗が出ている。見た感じ、エリカはかなりの魔力を使ったみたいだな……。
「……撤退、考えておこう……。」
「……ルーナ。あれは……何?」
俺が再び歩きだそうとした時、エラが肩をつつき、ある一点を指差した。
「なんだ……あれ?」
「私も知りません……。」
「アルン、動くなら担いで……。体力的に動けない……。」
「わかってるよ。……にしても、リーダーたちもわからないのか……。」
全員の視線が一点に収束する。
一点に収束した視線の先には、夜闇の森の中から光の柱のようなものが形成されていたのだ。
「何ですかあの魔力は……!私の魔力の量よりも遥かにおおいです!」
「この距離からでもわかる程のエネルギー……!」
「あんなものを俺らの方にきたら巻き込まれるぞ!?」
「……逃げないと。」
「俺っちらもここからはなれるよ!」
エルフやハーフエルフ、ドワーフは魔力的に、獣人やヒューマンは直感で、あの光の柱がヤバいと察したようだ。
「不味い、降りてきた。走れぇ!!」
「ジャスミン、しっかりと俺っちに掴まってろ!」
「わかった!」
「……捕まってて。」
「頼むよ、エラ!」
俺が先頭にた立ち、ジャスミンはアルン、エリカはエラが肩に背負い、全速力で光の柱から逃れるために走り出した。
「「「「「うわああああああああ!?」」」」」
次の瞬間、俺らの背中から熱を持った凄まじい衝撃が遅いかかり、地面に吹き飛ばされた。
目の前が暗くなる……意識……が……。
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「……はっ!!」
俺はベッドの上で目を覚ました。
ここは……?確か、光の柱の衝撃で……あれ?てことはここは……?
「やぁ、やっと目覚めたね。」
「……何のようだ、タリスマン。」
この部屋の扉の前にいつもの爽やかスマイルをするタリスマンがいた。
「僕が君たちをここに連れてきたのに酷い言い種だね。」
「はっ、お前があんな攻撃をしてこなければ問題なかったんだがな。」
あんな魔法、もしくは魔道具を持っているとしたらこいつか、こいつのパーティーくらいしか思い付かない。
「……仲間は?」
「大丈夫だよ。みんなもう起きてる。あ、それと皆には渡したけど、今回の報酬についてなんだけど……。」
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「「「「「……納得いかない。」」」」」
俺たちは広場に集まり、口を揃えて不服の言葉を出した。
今回の報酬は金貨十枚とDランク昇格だけだ。他のメンバーも同じらしい。タリスマンがゴブリンロードと戦って逃げ出したホブゴブリンを全滅させたのにこの報酬は……圧倒的に少ない。
因みに、タリスマンやSランク冒険者たちは名誉貴族(?)とか言うものになったらしい。お金も沢山、それに魔族とかいう種族の奴隷まで与えられたらしい。タリスマンは名誉貴族と奴隷は断ったらしいけど。
「……ムカつく。」
「俺っちでも、この怒りは無性に腹が立つ。」
「私でもこの扱いには怒ります。」
「僕としてもこんだけのお金じゃ、ちょっと足りないよ。」
「……やるか。[黄昏の精霊よ、我らは隠者なり、姿は見えず、音も聞こえず『トワイライト・ハーミット』]」
それぞれが怒りを露にし、俺を含む全員に魔法をかけ、全員が周囲から姿を消した。
復活したのだから、ちょっと強烈なものを撃ち込んでも……構わないよな?
「[土の精霊よ、泥より生まれし我ら、その姿を再現せん『ガイア・ゴーレム・ワイルドハント』]」
「[我は混沌の者なり、我は創造の者なり、原初よりきたる我、全てを作らん悪逆の怪物を『完全模倣:古代種巨人』]」
「[我に殺されし者共よ、死霊となれ、悪霊となれ、我が敵にその呪いを与えん『ファースト・ワイルドハント』]」
「『火の精霊よ、風の精霊よ、その仮の姿を私に見せよ。そして、その力を使い、敵を貪り、惨殺せよ『サラマンドラ・シルフィール』]」
「[暴虐の精霊よ、悪徳を成すもの、悲劇を起こすもの、この世全ての悪を喰らい、悪逆にして貪欲なる狂王へ至らん『ネロ・ドラコ』]」
それぞれが異端と呼ばれる由縁とも言える自分が持つ最高の魔法を放ち、ゴーストの一師団、巨人、ゴーストのホブゴブリン、炎のドラゴンと風の隼、黒き竜を顕現させた。
エラやエリカは神級の精霊魔法。俺やアルン、ジャスミンはそもそも級のない新種の魔法だな。
「「「「「やれ。」」」」」
俺らが命じた瞬間、全ての怪物たちはギルド目掛けて走り始めた。無論、下にいる人を襲わないように、だ。
まぁ、事故で死んだら運がなかったということで。
「じゃあ、俺たちも別れるか。」
「俺っちとジャスミンは途中まで一緒に行くよ。俺っちは魔大陸に行くよ。」
「私は海洋国家『ダルヤ・ジャミール』に向かうわ。」
「僕は修行のために精霊国家『フェアリーガーデン』に行くよ。」
「……私は『アースガイア帝国』の帝都に向かう。」
「俺はこの街に残る。……やるべきことが残ってるからな。」
それぞれが向かう場所言った後、全員が拳を前に突き出した。
どうやら、俺と同じ考えだったようだな。
「「「「「もう一度、この街で会うぞ!」」」」」
全員が誓いの言葉を言った瞬間に俺の魔法が途切れ、全員がそれぞれの方向に歩いていった。
さて、俺も歩き始めますか!
………復讐の道を。
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「……懐かしい夢だったな。」
俺はベッドから起きて窓から入る光からおよその時間を予測した。
およそ、かなり早い時間だ。
「くー……。」
隣のベッドでは無防備な姿でエラが眠っている。
……夢でみて思い出したけど、俺とエラはこの街で一度会ってたのか。
「……もう一度寝るか。」
起床の時刻にはまだ余裕があるため、再び俺はベッドに横になった。
それに、今日は俺らにとってとても重要な日だ。寝不足は困る。
「復讐の第一段階……。教王の暗殺。」
それを言った後、俺は再び眠りについた。
次回からは、本編を再開します。
お楽しみに!!




