閑話 月の始まり 後前編
「……おい、見つけたぞ。」
俺らのパーティーはゴブリンの巣を確認した。
俺たちが食事を食べ終わって暫くしたら斥候がゴブリンの巣を確認して戻って来たため、先鋒である俺たちが一番最初にゴブリンの巣に近づき始めた。
「見張りのゴブリンは何体だ?」
「……三体。」
見張りゴブリンは三体か……。行けるな。
「初擊は俺が行く。エラはゴブリン一体を暗殺。エリカはもう一体の方を頼む。」
「……わかった。」
「了解。」
俺の指示に従い、エラはパーティーから別行動し、エリカは詠唱を始めた。
「[風の精霊よ。凪のような鋭さとなり、敵を滅っせ。[エアロ・ブレード]」
「夜風・夜刀。」
エリカの真空の刃と同じタイミングで俺の黒い風の刃は射出された。
「キギャギュ!?」
「キギャギョル!?」
俺の刃はゴブリンの胴を斬り、エリカの刃はゴブリンの脚を斬り裂いた。
「グッ……。」
応援を呼びに行こうとしたゴブリンは背後から来たエラのナイフで喉元を切り裂かれて絶命した。
……予想以上にできるな、あの二人。高い知力を生かした参謀であるエリカはともかく、エラの暗殺技術は眼を引くものがある。
いや、あれだけの才能があるから異端なんだろうな。。
「リーダー、さっき魔法を撃った時、詠唱してなかったよな。どうやったんだ?」
「……これが俺が異端者である理由だよ。」
俺にアルンが質問してきた。
……こいつもこいつで勘が鋭い。その上、周りをよく見てる。周りを見ていなければこんな質問は出てこない。
「俺は魔法を詠唱せずに撃てる。まぁ、魔法名を言うのはイメージを完全な物にするためだ。」
「……誰できるのか?」
「頑張れば誰でもできる。頑張れば、な。」
「……二人とも早く行くよ。」
「早く行かないと置いてきますよ。」
俺がアルンに説明していたらエラとジャスミンから催促の言葉が投げ掛けられた。
言っていることは正しいし、ゴブリンの習性上、連れ去られた女性たちをいち早く助けないと。
「わかった。」
「おう。」
そして、俺たちは前方にエラとアルン。中間に俺、後方にジャスミンとエリカという陣形をとりつつ、ゴブリンの巣の中に入っていった。
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「ギシャア!」
「おらよ!」
前方から襲いかかってきたゴブリンをアルンが脳天を斬り、一撃で絶命させる。
「ギュアア!」
「ギシュア!」
「きたぞ、エリカ!」
「[火の精霊よ、灼熱の息吹きを持って、命を焼け!『フレイム・ブレス』]」
アルンが右の方に避けた瞬間奥から更にきたゴブリンを灼熱の炎で焼き付くす。
「ギシャア!」
「はぁ!」
エリカの魔法を撃つ隙をついて、後ろから襲ってきたゴブリンにジャスミンは杖を振り、ゴブリンの頭を壁にぶつけて頭を粉砕する。
巣に入ってから何度かゴブリンが襲ってきたがアルンとエリカがあっさりと対処した。また、後ろから襲ってきたゴブリンはジャスミンが杖を使った打撲攻撃で撲殺する。
異端だから予想していたが、こいつらの練度は普通に高い。単純な実力ならB……いやAランクほどの実力がある。ジャスミンなんて、長物の杖を洞窟内でここまで上手く取り回せるものだ。
「……きたよ、ルーナ。」
「ん?おう。[夜風・夜刀]」
偵察にきたゴブリンの頭と胴を切り離す。
エラの危機察知能力や獣人特有の高い五感を生かした探知能力は凄まじい。俺の魔力を探知するレーダーよりも更に広範囲、そして精密な探知ができる。
そのお陰で完全な奇襲、そして一撃でゴブリンを殺すことができる。全面での戦闘はアルンとエリカ。後方はジャスミン。奇襲は俺とエラ。
全員が自分自身の役割を完全に理解し、行動できているところも相性の良さを更に上回るコンビネーションが出来ている。
「今のところは問題なく対処できているな。」
「あぁ……。そう言えば、俺っちら以外の冒険者はどうしているんだ?」
アルンの考えは確かにその通りだ。どうしてるんだろうか。
「さぁ?私たちには知らない事ですよ。」
「そうだよ二人とも。」
ジャスミンとエリカが俺たちを注意する。
「……向こうに囚われた人の心臓の鼓動が聞こえた。」
俺たちとは離れて偵察をしてきたエラが帰って来たな。しかも、囚われている人たちも見つけてこれたのも大きい。
「囚われている人たちを助けに行くぞ。」
「「「「はい!」」」」
俺たちはエラを先頭にしつつ囚われた人たちがいる場所に向けて歩き出した。
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「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「殺して……。」
「誰か……殺して……。」
俺たちは絶句した。
俺たちがたどり着いたところは……言い換えるなら苗床と言える大きな空間の場所だった。
数十人の女性たち全員が死を望む、まさに地獄だった。
「グギャギャ!」
「グギャギャギャギャギャ!」
ゴブリンたちは女性たちを犯しながら楽しそうに話していた。
(……糞が。)
見ているだけで反吐がでる。俺は見たことがない。だが、確実にあった、故郷での悲劇を思い出す。その夢想することしか出来ない惨劇にこの現状が重なる。
「……[夜風・夜刀]。」
俺がつき出した右手から生み出された黒い風の刃が女性たちの首を全て切り落とした。
「……!」
「リーダー!?」
「ルーナ君!?」
「ルーナさん!?」
「グギャ?」
「グギョ?」
仲間も、ゴブリンたちも驚いているが構わない。俺は成すべきことをなすだけだ。
「[夜風・扇打]」
再び黒い風を生み出し、今度は二匹のゴブリンを扇状に撲り飛ばし、全身の骨と内臓を押し潰し、粉々のぐちゃぐちゃの肉塊に変えた。
「リーダー、女性たちを何で殺したんだよ!?」
「そうですよ!?何で殺しちゃったんですか!?」
アルンとジャスミンが俺に詰め寄ってきた。
まぁ、俺が独断専行したのだからしょうがないな。
「……俺は、人の尊厳を守っただけだ。」
「守った……?」
「……彼女たちは既に心が死んでいた。もし、ゴブリンに殺されたら報われるものも報われない。」
女性たちは既に死を心の底から望んでいた。それなのに生かしたら、彼女たちの望みを叶えることが出来ない。
「……エリカ、彼女たちを燃やしてくれ。」
「……わかったよ。[火の精霊よ、死霊を燃やし、浄化せよ。『フレイム・スフィア』]」
エリカが持った杖から青い火の玉が生まれ、天井まで上がり肥大化し、部屋全体を包み込んだ。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
俺たちは少し暗い顔をしながらその場を立ち去った。
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俺たちはその後、幾つもの苗床を見つけては潰し、燃やすという作業を繰り返した。
そして、幾つもの懸念を生み始めた。
(……妙だな。ゴブリンの数が少なすぎる。)
苗床を幾つも潰してきたが、襲ってきたゴブリンの数は数十匹程度。苗床の数からしても割に会わない。しかも、巣の見回りを行っていたゴブリンばかりだ。
これがゴブリンの巣に入るのは初めてだが、ここまで少ないと逆におかしい部分がある。
「なぁ……リーダー。ゴブリンたちの数がおかしくないか?」
「……確かにな。」
アルンの質問に全員が首を振り肯定する。
どうやら、アルンや他の奴らもこの奇妙さを理解したらしい。
(苗床の数と巣の中のゴブリンの少なさ。何故、この巣が発見されたか……。……ある。一つだけ、最悪の予想が。)
けど、この予想なら……。街そのものが危機に陥ることになるぞ……!
「……ねぇ、ルーナ君。恐らくだけど、心当たりがあるけど……。」
「なんだ、エリカ。」
参謀であるエリカの意見か。俺の最悪の予想と同じじゃないほうが良いけど……。
「ゴブリンたちは……進軍を始めたのでは?」
「……俺の中で最悪の予想と同じ考えに至ったのか……。」
進軍。それはゴブリンやオークといった『亜人』と呼ばれる魔物が共通して持つ習性だ。
種族の中で頂点に立つもの……『ロード』が存在し、個体数が一定以上を突破した時、『ロード』に率いられた種族が多くの街を攻め始める。進軍による被害は凄まじく、ゴブリンの軍勢が一つの国を攻め落として記録すらあるほどだ。
「おいおい、それが起きている可能性があるのか!?」
「なら、早く帰って知らせないと!」
「……知らせる必要はない。もう、遅い。」
ジャスミンの意見をバッサリと切り捨てる。
「えっ……?」
「これ程巨大な巣なんだ。入り口は複数あるのが鉄則だろ?もし、俺たちの知らない第二、第三の入り口から出ていた場合、俺たちが戻るよりも早く、ゴブリンたちは街に攻めいれる。」
正直、これは予想何だが……。くそ、ここは恐らく巣の下方だ。ここから戻るには時間がいる。それに下にはまだ苗床があるかもしれない。やることが……多すぎる……!
『……なら、私が力を貸しましょう。』
ん?頭の中に女性の声が……?
『気にしなくてもいいですよ。七年かけてやっと封印状態を解除出来ました。これであなたは一つの新しい力『黄昏』『暴虐』『呪詛』を使うことが出来るようになりましたよ。』
黄昏?暴虐?呪詛?いったいどう言うことだ?
『では、さようなら。君に幸あれ。』
そのまま声が消えてしまった……。あれはなんなんだ?
「……?ルーナ、ぼーっとしてるけど大丈夫?」
「ん?あぁ、大丈夫だよ。」
仕方ない、最下層までくだ
『黄昏精霊魔法を使いなさい。』
またあの声だ……。でも、確かに黄昏精霊魔法って言ったよな。詠唱をわからないけどどうすれば……。いや、考えても仕方ない。使うしかない。
「[黄昏の精霊よ、]」
「リーダー?いったい何をするんだ?」
アルンの意見も最もだ。一体何が始まるんだ?
「[我が力に呼応するもの、我が響きに共鳴するもの]」
えっ?なんか口から自然と詠唱が歌える!?さっきからなんなんだ!?
「[我が脳裏にその道を記せ。『トワイライト・ミックスボイス]」
俺の身体中にできた魔法陣が描かれた瞬間、脳内に数多の情報が流れてきた。
これは……まさか巣の全体図か?しかもご丁寧に個体個体の名前から精神状態まで何でもわかる。
「どうかしたのかリーダー?」
「……もう撤収だ。戻るぞ。」
俺は直ぐに元の道を走って戻り、それを見た他の仲間も急いで走り出した。
脳内の地図には巣には誰もいないようだ。恐らく、上は養殖場。中間は連絡路、下が居住スペースとなっているんだろうな。
「さっきからどうしたんですか!?」
「よくわからんが、精霊魔法が使えるようになった!しかも、黄昏とか暴虐とか、よく分からないものばかりだ!」
しかも、さっきの魔法を使った瞬間、精霊魔法の詠唱が頭にインプットされたようで、記憶の中に知らない詠唱が入っていやがる!
「じゃあ、その精霊魔法で現在の位置とかがわかったんですね?」
「その通りだエリカ!っと、こっちだ!」
俺は中間地点に来たとき、来るときとは反対方向にある道を進んだ。こっちの方向には戻るよりも早く外に出れる!
「よし、見えてきたぞ!」
走り初めて数分したら俺たちは外に出ることができた。
出てきた場所は森の高台のような場所だった。
すっかり夜になってはいるが、ここからは街の様子がしっかりと見え……
「……もう、始まってる。普通なら街の前にあそこまで火が灯ってない。」
「……そう見えるよな。」
エラの言うとおり、街の外には黒い蠢く影に向けて、壁から火の玉を打ち出している様子がしっかりと見える。
「……なぁ、みんな。」
「……わかってるよ、リーダー。この戦い、面倒だけど直ぐに終わらせれるのは俺っちらだけ。」
「私らだけはあの場所から遠い。つまり、遊撃にはもってこいじゃない。」
「……進軍の指揮をするなら、自前の森の地図を見た時点で幾つか良い場所を既に目星をつけてある。」
全員が俺と同じ考えのようだな。しかも、一人一人が本気の目をしている、言い換えるなら士気は最も高い。
「「「「「ゴブリンロードを倒すぞ!」」」」」
俺たちはエラの案内の元、司令塔であるゴブリンロードの居場所を探し始めた。




