情報屋
夕食を食べ、先生たちも寝静まった頃
「よいしょっと。」
俺は塀を登って学園から抜け出した。
アースリアには復讐の材料の入手を命じてあるから、俺は情報……あの屑聖職者の情報を入手するためにはグレーの奴ら……裏社会の奴らに接触した方が早いからだ。
「さて、取りあえず着替えて、と。」
今着ている服は平民がよく着るような麻の地味な色をした服だ。
仕立ての良い服で行くとぼったくられるし、貧乏そうな服で行けば足元をみられる。要するに見た目のバランスが大切なんだ。
「じゃあ、いくか。」
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「よし、ついたな。」
俺がたどり着いた場所はブラックマーケットの路地にある『黒蜜亭』という酒場だ。ここは事前に調べていた違法奴隷の取引や暗殺の依頼等がよく行われている場所だ。
ウェスタンドアを開け、中に入ると濃い酒の匂いが辺りに充満しており、入ってきた俺を複数の客が睨み付ける。
「……黒蜜酒を一つ。」
「……そんな酒は無いぞ。」
「……黒蜜酒を一つ。」
「……誰を用意する。」
酒場のマスターに酒を頼む振りをして秘密の暗号を言う。
『裏』に精通している酒場ではよくあることだが、依頼や交渉、売り手や買い手などは暗号で示されている事が多い。俺が頼んだ『黒蜜酒』はこの酒場では『情報屋』を示す暗号だ。
「……なるべく腕が良い奴だ。」
「……裏の個室、左から三番目だ。」
マスターが示した方向には個室に繋がる道があった。
個室は基本的に能力の高い情報屋や爵位が高い貴族の依頼、大手商店の取引によく使われている。そして、個室内で起きたことは治外法権。何があっても自己責任だ。だが、それを差し置いても高い報酬支払われるハイリスク・ハイリターンの依頼が多いのも事実だ。
「……ありがとよ。」
チップとして銀貨三枚をテーブルに置き、俺は指名された個室に向かう。
個室は木の扉で閉められていた。みた感じ、風魔法を使って防音し、水魔法で防汚をしているな。作った魔法使いはかなりの使い手だと伺える。
取りあえずノックしてっと。
「空いてるよ。」
ノックをしたら中から女性の声に促されて扉を開ける。
「貴方が依頼者ね。それで、どんな情報が欲しいのかしら?」
中にいたのは藍色のマントを被って顔を隠した女性だった。
顔を見せないのは自分が何処の誰なのかをはっきりと認識させない為か。しかも、マントからは禍々しい魔力……恐らくはカース・ウェポンの類いだと思われる魔力を感知できる。
「何、簡単な事さ。……トリスタンについて、何か知っていることは何か?」
「……トリスタン、ね。取りあえず金貨二枚は保証してくれ。私もこの案件には関わりたくないから。」
目の前の女の気配が急変した。さっきまでは限りなく無いに等しかったが、今は鋭いナイフを持っているような鋭利な気配になった。
トリスタン……いや、勇者どもの情報を手に入れるだけでもここまで警戒されることなのか。
「あぁ。保証しよう。ただし、最大でも金貨十枚までだ。」
「……わかったわ。私が知っている情報だと、トリスタンはアルブ教の教皇『シェムハ・アルブ・ローンチ』が勇者の仲間として入れた聖職者よ。」
シェムハ……現教皇か。
「彼自身は熱心なアルブ教の信者で三十歳の若さで枢機卿にまで登り詰めた。」
「……他には?」
「今は王都で布教活動を行っているわ。そんな彼が恨めしがった他の枢機卿から何度か刺客を送られているけど全て撃退するほどの実力も持ち合わせているわ。」
戦闘能力はそこそこあるのか。
「それと、彼には二人の奴隷が僕として付き従っているわ。クリアとカリアという双子の『エンジェル』よ。」
『エンジェル』……確か、魔族の種族の一つだとアースリアからは聞いている。
「これはあくまで表の顔。ここからは裏の顔になるは。」
やっぱりな……。これ程の情報を集めれる情報屋が裏の情報を見逃す筈がない。
「裏の顔は、ヒューマン至上主義で他種族を『悪魔』として認識しているわ。『エンジェル』たちはあくまで自分に対する肉壁程度の存在としかみていない。今は王都で布教はしているけど、その理由はウルシカラアルブ法国からくる教皇シェムハを暗殺するためよ。これは他の情報屋から聞いた話だから信用できるわ。他にも、自身と階級争いをしていた存在は皆不審な死を遂げているわ。」
うわっ……、やっぱりかなりヤバい奴だったようだな。
「その上、奴隷商から死亡した奴隷の遺体、特に年端もいかないヒューマンの少年の遺体を好んで買い取っているわ。これはよく分からないわね。」
「……死体嗜好に同性愛者か。」
「私もそう読んでいるわ。さて、これが私にとって知っていることよ。」
おっ、こんなどころか。金を払わないとな。
「……金貨十枚だ。」
「ありがとう。この情報は余り伝達しないようにね。いつ、何処にアルブ教の刺客がいるか分からないから。」
うわっ……まじかよ……。
「わかった。そういえばあんたの名前は?」
「……フェイスレスよ、黒風。」
「……やっぱり知っていたか。」
俺も裏社会に知られるほど有名になったものだな。てか、顔無しって、そのまんまじゃないか。ほぼ確実に偽名か。
「フェイスレスか。わかった。じゃあ、俺はこれで。」
俺は個室から出ていった。




