自称嫌われ者の過去
「………。」
「………。」
……静かだ。エラが私服の黒いワンピースを着たから部屋の中に入ったのはよかったけど、その後から何も話していない。
「……なぁ、何でエラはこの学園に入ったんだ?」
あまり人に話しかけるのは得意じゃないだけど、この空気のままだと困るから、仕方ない、話しかけよう。
「……新しい知識を学ぶ為。……ルーナは?」
「似たようなものさ。」
……話が続かない。
「……ルーナは…。自分の家族に産まれて自信が持てる……?」
出生に……?幸せな家族の元に産まれて良かったと思う反面、自分の手で妹を殺した後悔はある。
「自信が持てるさ。幸せな生活を送れてたからな。」
けれど、自信はある。自分の家族は誇れる。
「……私は、酒に溺れた母に捨てられて孤児になったから……。自分の生まれに自信がない。」
孤児か……。この世界は治安が前世よりも遥かに悪いし、そう言うことに陥り安い環境だからな。
「……ルーナは何で冒険者になったの?自分の家族と幸せな生活を送れてたのなら、こんな血にまみれた生活何てしなくてもいいのに……。」
冒険者になった理由か……。そんなの決まっているだろ?
「生きるために。」
これは嘘じゃない。家族が死に、生きるために金を稼がないといけないから、年齢制限のない冒険者という仕事に就くしかないと言うのも事実だ。
まぁ、勇者どもに復讐することが前提にあるけどな。
「……私は……違う。私は元は奴隷だった。」
奴隷?でも、奴隷は基本的に主に逆らえないから今のように自由に生きることなんて出来ない筈だが。
「……今思い出しても酷い男だった。私と同じ年頃の子供……特にエルフの少女をいたぶるのが趣味の男だった。」
おぅ……。俺と同じくらいかそれ以上に凄惨な過去があるらしい。でも、それだけの理由がないと今の年齢でAランク冒険者なんてできる分けないか。
「私も、痛め付けられた。三角木馬、鞭、蝋燭責めは当たり前。時には、数日間何も飲み食いさせなかったり、蟲の魔物が入ったケースに裸で頭から入れられたりしたこともあった。」
……淡々と、無表情で話しているけど、内容はとてもグロテスクなものだった。これはエグいし、その男に凄まじい殺意が湧く。
「……その名残で、傷が今も残ってる。」
俺に背中を向け、ワンピースを持ち上げる。
「酷いな……。」
背中には酷い火傷の跡や、蟲に噛まれた跡、更には、何かを差し込まれたような跡まである。
「……何で涙を流しているの?」
あれ……?本当だ。目からちょっと涙が流れてる。何でだろう……。
「……ある日、偶々主様から食事を作るように指示を出され、食事を作った。そして、奴隷たちと主様に渡して食べたました。」
「ふむふむ。」
「そして、私以外全員死にました。」
「ぶふぉわ!?」
お、思わず吹いてしまった……。てか、何処に死亡フラグ的な物があったんだ!?
「ふふっ……、そんな反応もするんだね。」
笑った……?エラもちゃんと笑うんだ。今まで無表情だったからびっくりした……。てか、無表情でも人形みたいな美しさはあったけど、笑うと案外可愛いものだな。
「……何でそんな幽霊に出会ったような顔をするの?」
「いや、お前が笑うことなんてあるんだと思ってな。」
「……。(私……笑ってたの?)」
エラは頬を膨らませてむすー、とする。
何か小声で言っていたような気がするが、スルーしよう。
「……話を戻します。……私が間違えて毒をスープの中に入れてしまったようです…。私は毒に耐性が……『加護』があったので死にませんでした。」
『加護』か……。ごく稀に産まれる特殊なな体質のことか。エラの場合、毒に対する耐性だったんだろう。
「……捕まりたくなかった。だから、急いで首輪を外して服を着替えて金を少し持ち出して屋敷から逃げました。そして、そのままギルドに向かって冒険者に登録しました。」
冒険者に?たしか、冒険者の名前は自己申請だから、偽名でも冒険者になれたはず。
「『捕まりたくなかった。』私が冒険者になった理由。そして、死ねる時に死ねなかった私は……『嫌われ者』。運命に嫌われた存在。」
エラは自虐的な笑みを浮かべながら天井を向いた。
ベシンッ
「あぅ……。」
取りあえず無言でエラの額にデコピン。
「お前……馬鹿じゃないか?」
「えっ……?」
「運命に嫌われているなんて……そもそも運命なんて存在しないんだよ。」
「……?」
「運命ってのは自分で切り開くものだ。そこを履き違えるな。」
前世の俺は自分の運命を切り開かなかった。だから不幸にしかなった。
だが、この世界では幸せな家族に恵めると言う幸運を授かった。けど、それは粉砕された。
幸運も不幸も、最終的には同じくらいの割合で振りかかるものだ。
「運命を切り開かないと嫌われたままだ。切り開けば何とかなるものだ。」
「……ありがとう。」
エラが今まで見てきた笑顔のなかで一番綺麗な笑顔を浮かべてこっちを見てくるものだから、つい顔が赤くなってそっぽを向いてしまった。
「べっ、別にただ相談に乗っただけだ。それより、夕食を食べに行こうぜ。」
「うん……!」




