入学試験 sideルーナ part1
「さて、いよいよ受験だな。」
「はい!」
あれから数週間がたち、受験当日、多くの貴族、平民が集まるブリンガル魔導学園にルーナとアースリアは自信に満ちた顔つきできていた。
ブリンガル魔導学園の入学試験は筆記、魔力量、模擬戦を総合的、かつ客観的に見定め、合否を決める。これを一般試験と言う。
また、奴隷にも試験があり、礼儀作法、魔法、体術を一般試験同様に見定める。これを隷属試験と言う。
ルーナはアースリアを買う前から本(この世界では高級品)を買い、受験に向けて勉強をしており、また魔力量や魔法の技術に関しては世界トップクラスである。(ルーナ以外に無詠唱は使えません。)
アースリアも元は王族。礼儀作法は普通に出来る(出来なかったら国家の恥)上、戦闘能力も高い。
つまり、不合格になる理由が全くないのだ。
「えっと、受付は
「あ、ルーナさーん!!」
「……この声は……。」
受付を探していた俺たちに聞き慣れた声が聞こえ、顔をしかめながら声をした方に振り向くとラルが受付をしていた。
「なんでお前がいるんだ!?」
「魔導学園の平民の参加者は私たちギルドが見ることになっているんです。」
ラルが指を指した方向にはこの街で何度か見かけたことのあるギルド職員が対応していた。
「あ、それとこれを持っていて。」
ラルが思い出したようにテーブルの上に置かれていた番号のついた木の板を渡した。
「受験番号か。」
「あ、アースリアさんにも。」
「あ、ありがとうございます。」
俺と同じ番号のついた木の板をラルはアースリアに渡した。……仏頂面で。
「さて、ここからは二人とも別れて行動して下さい。」
「りょーかい。」
「分かりました。では、私は礼儀作法の試験の方にいってきます。」
ラルの指示に従い、俺とアースリアは別々の方向に歩いていった。
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(楽勝だった。)
筆記試験を受け終わった俺は失望しながら次の試験会場を後にして次の試験会場の第一校庭に向かっていた。
筆記試験の内容の大半が魔法陣や詠唱、生み出された経緯などでルーナの感性的に言えば「ふざんけな」と試験中に言っても過言ではないほど陳腐な内容だった。
(まあ、最後の『新しい魔法陣と詠唱を作れ』と言う内容はなかなかよかったな。考えていた魔法を形にするのはなかなか骨が折れる作業だった。)
俺が書いた魔法は永遠に燃え続ける魔法、火属性魔法『エターナルフレイム』である。
これは理論上ルーナの中でできていたが、ルーナの適性のあった魔法は風属性だったため実現するために必要な魔力が多く、ルーナの魔力量では足りなかったため、お蔵入りになっていたものを記憶の泥の中から掘り出したものである。
「うわっ……凄い銀髪……。」
「ん、どうかしたのか?」
考えごとをしていた俺の後ろから感嘆の声が聞こえ、俺は後ろを振り返った。
「す、すみません!」
「ちょっ、シルク、なにやってるのよ!?」
シルクと呼ばれた金髪のヒューマンが深くお辞儀をし、それを見た黒髪の猫の獣人がそれを見て驚き、その行動を止めていた。
(な、なんで驚いているんだ?)
なにせ、今まで初対面で会った奴は俺を半端者だと嘲笑するか、異名を知っていて恐れる者のどちらかだった。前者はルーナが実力で相手を半殺しにして実力の差を体に覚えさせる。実際、ルーナが冒険者になって最初の頃、ルーナに暴言を吐いたD級冒険者やルーナを嘲笑したB級冒険者約三十人を全治一ヶ月の大怪我を負わせてルーナが冒険者になるだけの実力を持っていることを見せつけたこともあった。
後者の場合、すぐに逃げてしまう為会話が成り立たないことが多かった。
その為、会ってすぐに謝られる、なんてことは今までされて来なかったのだ。
「迷惑かと思われたのでつい……。」
「はぁ!?あんたは貴族なんだからもっとしゅっとしなさい!」
「……別に迷惑じゃない。こっちのミスだ、気にするな。」
茶々をしている二人に若干イラッときたルーナだが素直に自分の非を認めた。
実はオッドアイに銀髪という非常に目立つ姿をしているルーナは自然と気配を遮断する技術を身につけていたがラルと会って気が緩んだのかその技術を使っていなかったのだ。
「す、すみません……。あ、私の名前はシルク・フローズンと言います。」
「あー、私はアビー・スタッド、平民だよ。」
「俺はルーナ、冒険者だ。」
それぞれが簡潔に自己紹介をして、今回の試験を話しあった。
「でさー、最後の問題わかんないよあんなの。」
「ははは……、私もできなかったよ……。」
アビーとシルクの話しではこの試験は世界でも難しい試験のだから、内容がとてもわかりづらかったらしい。
(……そうか?そこまで難しくなかったような……。あっ、まさかあれか?)
俺にはその原因に一つ心当たりがあった。
ルーナは三歳から父親からもらった本を使って魔法の勉強していたし、冒険者になってからは知識は生きるための武器にもなったため、寝る時間を削ってでも知識を集めていた。だが、アビーやシルクは三歳の時から魔法のことなんて考えていることなんて殆ど無いだろうし、死ぬ気で勉強なんて温室で育っている人には到底しないだろう。
簡単に言えば単純な勉強量の差がこの認識の違いなのだ。
「ルーナさんはどう思いま-」
一人で納得しているルーナにシルクが質問をしようとした時
「そこをどけ、劣等階級ども。」
後ろから、金髪のヒューマンの男がシルクを押して前に出てきた。
「きゃあ!?」
「ちっ、めんどいな…!」
倒れこんできたシルクを俺が抱き抱えて倒れるのを防ぐ。女性らしい体付きに触れて一瞬心臓が大きく鼓動しだがすぐにそれを抑える。
「ちょっと、なにするのよ!」
「劣等階級の貧乏人には言われたくないね。たかが伯爵であるフローズン家の跡取り娘と公爵であるこのケネス・ブルームフィールドとは天と地ほどの差があるのだ、それをわきまえて言っているのか?」
友人を押された上、人を罵倒するような言葉に腹を立てたアビーだが、相手の正体……家柄を聞いてとたんに顔を青くした。
実はブルームフィールド家は悪い噂が多く立ち上っているにも関わらず、その尻尾を掴ませない貴族なのだ。その上、貴族の位が高いため、無罪でも有罪にする事も容易くできてしまうのだ。
「お、さっきの威勢の良さはどこにいったのかな。」
「くっ……。」
(下らない。何でそんなつまらない演技をしているんだ?)
逆に追い詰められたアビーと追い詰めているケネスを見てルーナは内心呆れていた。
俺には、ケネスは自分の本心を覆い隠し、無理に傲慢な悪徳貴族の振りをしているように見えたが、アビーはそれに気づかすに追い詰められたと錯覚し、深入りしていない。
深入りすればケネスはすぐにでも引き下がるのにこれはもったいないし、貴族に歯向かうという『蛮行』をしないのはルーナにとってつまらないことだった。
「おい、お前らいい加減に
「それに、そこにいるのは半端者だろ?なら問題無いだろ?」
「……あ?」
致し方なしと二人の仲裁に入ろうとしたルーナにケネスは言葉の刃でルーナを切った。
半端者であることを重々承知していたがその言葉は愛していた母親であるセレナを侮辱し、父親のオレガノを侮辱し、兄のカイを侮辱し、妹のクリオラを侮辱していることと変わりが無い。
そしてルーナは家族を馬鹿にされることだけは絶対に許さない。
「な、なんだ貴様、私の家がどんな家か知っているのか!?」
「興味ない。だが、言えることがある。お前は俺に喧嘩を売った。」
「なっ、なっ!?」
ルーナはケネスの言葉を遮り前に進んでいった。
「い、いいの?相手はブルームフィールド家だよ?本当に消されちゃうよ?今から謝って来た方がいいんじゃない?」
「そんなことどうでもいい。ただ、あいつは俺の事よりももう会えない家族を侮辱した。それが許せないだけだ。」
「……!」
アビーの意見を一蹴し、俺は凄まじい怒気を放った。
「あ、あの、ルーナさん、さっきはありがとうございます!」
後ろからシルクに声をかけられたルーナは振り替えった。
「別にいいよ。だが、合格しろよ。しないと何の意味もない。」
「は、はい!」
俺の激励の言葉を受け取ったシルクは満面の笑みを浮かべた。