入学試験 sideルーナ part2
「次のかたどうぞ。」
校庭の方から呼び掛ける声が聞こえてくる。
俺はシルクやアビーと一緒に魔力検査の試験をしていた。
魔力検査とは水晶型の魔道具を使い、赤、青、緑、茶、白といった色と光の強さで属性と魔力の量を測る試験だ。
とは言ってもこの試験、実はある程度細工が出来る。あくまで魔道具で合否かを定めるのはあくまで人間だ。そのため決める人間を買収すればこの試験は合格できる。いや、できてしまうのだ。
「じゃっ、私からいくね。」
始めにアビーが水晶に手をかざし、魔力を注いでいく。するとその魔力に反応して水晶から白色の光が出てきた。
(中の上くらいか……。)
水晶の光の強さを見ていたルーナはアビーの魔力量をおおよその範囲で予測した。
「……次の人。」
「はい!」
苦々しい顔をした審査員の声に従って今度はシルクが水晶に手をかざして魔力を流した。
すると、水晶から先ほどよりも強い青色の光が出てきた。
(中々多いな。魔級魔法二十発分くらいか?)
魔級二十発分とは中規模の街の一つを火の海に変えることが出来る魔法を二十発回復なしで撃てると言うことだ。魔級魔法の大半が国家機密扱いだから知る機会は殆どないが。
「次のかた。」
「ふん、ハーフのくせに生意気な口答えをしたことに後悔するんだな。」
傲慢な言葉を言いながらケネスは水晶に手をかざして魔力を流した。
シルクよりかは光は少ないが赤と緑の光を水晶は出した。
(珍しいな、二重適性か。)
ダブルとは魔法の適性を二つ所持した人間のことである。ルーナ自身は冒険者になって最初の頃の依頼で一緒になった冒険者のパーティーの魔法使いが火と水のダブルだったため珍しい程度の価値しかないが。
……断じて、『復讐の障害になりそうだから』とか『何かムカついたから』と言った理由でルーナは相手を攻撃しない。
「中々だな。」
「ふん!劣等階級のハーフには言われたくない!」
「でも、悪者の演技は疲れただろ。」
「……!」
「次のかたどうぞ。」
ケネスを褒めた俺は前に歩み出て水晶に手をかざして魔力を流しこんだ。
すると、今までに見てきたどの人間よりも強い光が水晶を中心として空間を満たした。
「きゃあ!?」
「な、なに!?この光は!」
「ハーフ、あいつはこれ程の魔力を持っていたのか……!」
「け、結構です。ですからすぐにこの光を止めて下さい!」
「分かりました。」
審査員に言われた通りに魔力を流すのを止めた俺にシルクとアビーが近づいてきた。
「す、凄いよルーナしゃん!」
((あ、舌を噛んだな))
シルクが俺を称賛しようとしたさいに興奮のあまり、舌を噛み、そのままうずくまってしまった。
「シルク、大丈夫?」
「は、はひ……大丈夫でしゅ……。」
アビーはシルクに駆け寄り心配そうな顔でシルクを見つめていた。
「なら、さっさといくか。」
「あ、ちょっと待ちなさいよ。」
さっさと行こうとしたルーナをアビーは引き留める。
「あんた、回復魔法使える?」
「……問題ない。」
アビーに頼まれて俺は痛みを緩和させる為にシルクに回復魔法をかける。
「……悪者の演技、か……。母上にも言われたな……。」
ケネスはその光景を遠目で眺めながらルーナに言われた言葉を反復した。
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「ルーナ、勝負しろ!」
最後の試験である模擬戦の会場になる第二校庭でケネスは俺に勝負をいどんだ。
まあ、冒険者と素人では戦闘能力には大きな差があり、ケネスは勝てる見込みは無い。
「かまわない。」
あっさりと了承した俺はケネスと一緒に審査員たちの前にある専用の会場で向き合った。
俺は無手で何の型を取らずに突っ立っている。それに対してケネスは杖を持ち、その先端をルーナに向けていた。
「ルーナさん、勝って下さい……。」
「頑張りなさい、ルーナ……。」
俺の後ろでシルクが目をつぶりルーナの勝利を願い、アビーがルーナを糸を張りつめた顔で見ていた。
「……負けないぞ。」
「……わかっている。」
「それでは、始め!」
短い言葉を交わらせた瞬間に審査員のコールが言われた。
「断罪の火よごふぁっ!?」
ケネスが魔法を唱えようとした次の瞬間、ケネスの体は後ろに吹き飛び、校庭の奥にある壁に突き刺さった。
「ふう、これで勝ちだな。」
俺は蹴りを入れた体勢から元に戻して勝利を宣言した。
ルーナは0.1秒で両足のみに『速度をあげる』無属性魔法『スピーディー』をかけて0.3秒でケネスに近づき、0.6秒でケネスを蹴り飛ばしたのだ。
「しょ、勝者、ルーナ!」
審査員に言われた後、会場から出た俺の近くにシルクとアビーが駆け寄ってきた。
「な、なにをしたのですか!?」
「あんたどんな早業をしたのよ!」
二人はどうやら俺がやったことが見えなかったらしく、ルーナに真剣な顔で問い詰めたらしい。
「何って、スピーディーを使って蹴り飛ばしただけだ。」
「「どうやれば出来るの(ですか)!」」
「……無詠唱だが?」
「「「「「はぁ!?」」」」」
『む、無詠唱……。』
『世界で誰も成し遂げなかった偉業をあっさりと……。』
俺の言葉を聞いたシルクやアビー、さらに声が聞こえていた近くの受験者が声をあげて驚いた。
無詠唱は世界中の様々な学者が研究している題材であり、それを可能にするのはかなり難しいと言われているだ。それをただの受験生が出来るとなれば国中が大騒ぎとなる。
『おい、これは審査員には聞かれてないようだし秘密にするぞ。』
『『『『『わかっている。』』』』』
聞いていた人たちは予想よりもいい人だった。
「ハーフ……。いや、ルーナ……。それにアビーやシルク。」
「ん、なんだ?」
「どうしたのよ。」
「ど、どうかしましたか?」
蹴り飛ばされた場所からケネスが戻ってきてルーナたちに話しかけ
「すみませんでした!!」
全力で土下座をした。
「「「「「「はああああ!?」」」」」
それを見た受験者は驚きの声をあげた。
なにせ、かのブルームフィールド家の嫡男がただの平民や位の低い者に頭を下げたからだ。
「すまなかった、本当にすまなかった!」
「あ、頭をあげてくださいケネス様!」
「やれやれ……それがお前の素か。」
頭を一向に上げないケネスにシルクはおろおろし、俺はやれやれと首を振った。
「先ほどはすまなかったレディ。それに劣等階級などというふざけた言いがたいを言ってしまった。それにルーナ君にハーフという差別的な用語を使ってしまった。本当にすまなかった。」
「れ、レディって……。」
「あー、別にいいよ。俺は死んだ家族を貶されたと思ったから怒っただけだ、気にするな。」
「性格変わりすぎでしょ……。」
あまりの性格の変わり具合にシルクは驚きで表情がかたまり、俺はケネスを許し、アビーは呆れて頭を横に振った。
「ルーナ君、ご両親が失くなっているのか?」
「あぁ、でもあまり踏み込むなよ。激情が抑えきれなくなるから。」
「わ、わかった。……私も母上を失くしているからな。」
ルーナとケネスは自爆してとても重く、暗い雰囲気を醸し出していた。
「じゃあ、俺は用事があるから行くで。」
「あ、はい!」
「じゃあね!」
「入学出来るよう祈ってからな!」
俺はシルク、アビー、ケネスの三人と別れの挨拶をして校門の方に向かって走っていった。




